第15話 レストラン花畑
やがて、
ギー......
白くそしてか細い手が火炎放射器のコックを閉めると、それまで縦横無尽に夜空を飛び回っていた無数の『龍』達は『アラジン』の如く放射口の中へと舞い戻って行った。
そう......2度に渡りポールの命を救った女神はなんと! 『火龍』を自由に操る火炎放射器女だったのである。
その者の素性は明確で無くとも、2度命を救われて、誘いを断る訳にもいかなかった。
「了解シマシタ......」
残り火を避けながら、その者の背中を無心に追っていくポールだった。
一体どこへ連れてくつもりだ?
この女のアジトか?
まさかこのまま連れてかれて、いきなり殺されるとか?
いや、命を助けてくれたんだから、そりゃ無いだろ?
でも絶対油断は出来ない。なんせ素性が分からない女なんだからな......
素性?
そう言えばさっき......
『竜奴瑠病院』でエマさんが『あんた公安の人間だろ?』って言った時、否定しなかったよな......って事は、やっぱ公安の人間なのか?
でもまぁ、別に焦る事も無い。この後話してみればきっと分かる事なんだろうから......
霧が立ち込める中、『夢の国』内をツカツカと歩き進んで行く火炎放射器女。そしてその後に付いていくポール。
よく見りゃこの2人。少しお似合いなのかも知れない。少し滲み出るオーラが似ているように感じたりもする。まぁ、本題から逸脱した話では有るのだが......
『竜奴瑠ゴーカート』
『フリーフォール夢心地』
『サイクロンコースタートップガン』
『お化け屋敷お岩さん』
『ビックリピンボール』
落ち着いて見渡してみれば、興味をそそるアトラクションばかりだ。きっと当時の子供達には大人気だったんだろう。笑顔で駆けずり回る子供達の姿が、まるで頭に浮かんで来るようだ。
そう言えば......
この『夢の国』のゲートで見掛けた髪の長い少女......あれは本当に幽霊だったのだろうか?
エマさんは、こんな所に居る訳ないだろ! ってマジ顔で怒ってたけど......
明らかに透けて無かったし、自分では間違いなく実像を見たと思ってる。
幻覚?
いや、そんな事無いと思うんだけどな......
ポールが今更のように、頭を傾げながら自問自答を繰り返していると、やがて、
『レストラン花畑』
そんな看板が掛けられた2階建て建築物にたどり着いた。
赤い屋根は至る所が崩れ落ち、黄緑色の壁はクモの巣柄のようにヒビが入り捲っている。そんな『レストラン花畑』も、他と変わらず廃墟ムード満載だった事は言うまでも無い。
ちょうどこの辺りは、『夢の国』の中で最東に位置しており、ズタボロに崩れたフェンスの向こう側には、果てしなき深い森が広がってる。
やがて火炎放射器女は、そんな古びた看板の前で足を止めた。
「なんでココなの?」
廃墟レストランでディナーするとでも言うのだろうか?
緊張の連続でやたらと胃の調子が悪い。さっきからキリキリ痛みっぱなしだ。食欲なんて有りゃしない。
「いいから黙って付いて来るがいい」
一方、そんな捨てゼリフを吐く火炎放射器女の表情は、笑うでも無く、怒るでも無く、ただただ無表情。
やたらと大きなゴーグルに隠されたそんな女の顔も、また心も全てがベールに包まれている。
こんな所に自分を連れて来て、一体何を考えているのか全く持って意味が分からない。
まさか幽霊レストランで肝試し?
んな訳無いか......
ポールはそんな疑心暗鬼に囚われながらも、1つだけ大きな環境の変化に気付いていた。それは、
「あれだけ僕達を追い回していたハンター達が、ナンデさっきから1人も見えないんダ?」
明らかに摩訶不思議だった。
実際のところ、『ミラーハウス』からここまで優に500メートルは歩いているが、ハンターの姿はおろか、気配すらも感じていない。
確かに大きな謎だ。
そんなポールの???に対し、火炎放射器女の答えは実に明確。そしてその内容は、ポールの胃に更なるダメージを与える結果となる。
「奴らは全員揃って逆側の『メリーゴーランド白馬の王子』と『マンモス観覧車』の方に向かってったぞ。だからこっち方面はもぬけの殻っちゅう訳だ。納得したか? 青年よ」




