第13話 兵法
(まずは2秒経過)
素早くポールはハンター達に背を向けた!
(3秒経過)
生存への道へと向かって、第1歩を踏み出す!
(4秒経過)
一気に駆け出して行く!
(5秒経過)
『GOAL』へと向かって一直線!
(6秒経過)
ギー、バタンッ!
扉を力強く開いて!
次の瞬間には、
(7秒経過)
「脱出成功! どんなもんダイッ!」
(そして、8秒後)
ドッカーンッ! ガタゴトガタゴトッ! バリバリバリ......
『ミラーハウス』から無事飛び出したそんなポールが最初に口にした言葉......
それは、
「外モ中モ、無茶苦茶寒~イ!」
だった。
繰り返しになるが、ポールは知っていた。寒冷地において手榴弾は、爆発までの時間が通常より長くなると言う事を。
それは決して、『運が良かった』などと言う『偶発的』な要因から導かれた結果では無かった。『兵法』を見事に活用した『必然的』な結果と言えよう。
エマの居ないこの状況下において、死地を生地に変えたポールの成長は、正に目を見張るものが有る。
もしそんな彼の成長を、仮に全く理解していない者が居るとしたならば、
「イヤァ、寒くてラッキー! 暑かったラ死んでたワ......」
きっとポール本人だったに違いない。
一方......
ポールの転がしたラグビーボールにより、人気アトラクションから一転、ただの瓦礫へと化した『ミラーハウス』はと言うと、いつの間にやらグスグズ炎を立ち上げてた。
小雪が降り止んだと思えば、霧が立ち込め、霧が晴れたと思えば、今度は黒煙が辺りを包み始めている。
全く......慌ただしい2人に付き合わされる『夢の国』も、堪ったもんじゃ無い。
果たして、そんなポールを取り巻く真っ黒の煙幕は、吉兆なのかそれとも凶兆なのか?
その答えを知るには、次に起こる事態を待っているのが一番早い。
因みに......
確固たるたる『兵法』を持って、一旦は『危機』と言う名の壁を打ち破ったポールではあったが、その後の事まで考えていたかと言うと、そこには少しばかりの疑問が残る。
その証拠に、黒い煙幕は、黒い無数の人影へと変貌を遂げていったのである。
「おっと、お出ましかっ?!」
忍び寄る足音に気付いたポールの脳は、ネガティブ感情とポジティブ感情が竜巻の如く荒れ狂う。
蒼白く変色した顔にうっすらと浮かぶ笑みは、そんな相反する2つの感情が、覇権をかけて戦っている事の証と言えよう。
気付けば、息つく間も無く、血に餓えたハンター達がポールの周りに押し寄せて来ている。
しかし、それもこれもまた『必然的』な話。古びれているとは言え、一瞬にしてアトラクションが崩れ落ちれば、何事かとハンター達が集まるのも当たり前。
あなた達が探している『獲物』は、今ここに居ますと言ってるようなものである。
そんな状況に置かれてもなお、『多分今度も何とかなるんじゃん?』 などと思っていたとしたなら、それは『自信』をオーバーランして『過信』と言う名の断崖へ落ちて行く事間違い無しだ。
一方、その数を目の当たりにし、徐々に笑みが薄れていくポール。
一体、どれだけこの『夢の国』に集まって来てんだ?! こいつは今度こそマズいぞ......
もしエマがこの様子を見ていたならば、きっと袖を涙で潤していたに違いない。
やがて、動揺隠せぬポールに対し、各々がこぞって罵声を浴びせ掛け始めた。
「全く......苦労掛けやがって!」
「よくも俺達をコケにしてくれたな!」
仕事で『ハント業務』を熟なしていたさっきまでとは少し訳が違う。
仮に彼らがただの野獣だったとしても、仲間が殺されれば『復讐願望』と言う新たな感情が、一気にボルテージを引き上げてしまう訳だ。
多勢に殺意......
とにかく厄介な組み合わせだ。
一方、瓦礫に引火した『火』は、やがて『炎』へとグレードアップを成し遂げていた。俄に吹き荒れ始めていた強風がきっと悪さをしているのだろう。
気付けば、舞い上がった火の粉が頭に降り掛かり始めてる。
そんな火の粉を振り払おうともせずに、いよいよハンター達の怒りが頂点へと達していった。
「『Coyote』様の大事な楽園をよくも破壊してくれたな!」
「お、おいお前、余計な事言うなって!」
どうやら......冷静な人間と、そうじゃない人間が混在しているらしい。




