第12話 羊の杜
「おい、大丈夫か? 俺の声が聞こえるか?!」
慌てて徳田が、『死体の一歩手前』なる女の身体を擦ってみると、
「ポ、ポール......に、逃げろ......」
どうやら意識の向こう側で、仲間とサバイバルを繰り広げているらしい。
「取り敢えずは、『ひつじの杜』の医務室へ運びましょう」
「がってんです!」
徳田次郎がそんな『死体の一歩手前』を抱き上げようとしたその時だ。突然背後から、複数の小さな足音が。
「まどか先生!」
「その人、生きてるの?!」
どうやら......
噂を聞き付けた子供達が、心配して駆け付けたらしい。
「さぁ、早く運んで!」
「分かりました!」
そんな掛け声と共に、まどか先生の指示通り『ひつじの杜』なる館へと不死身の『GOD』をゆさゆさ運んで行くのでした。
それは雲一つ無い清々しい朝の出来事。瀕死の女を背負った徳田を先頭に、まどか先生、そして元気な子供達が森の中を駆け抜けて行く。
「でも一体、なんでこの女はこんな所に居たんでしょう?」
「そんな事は分からないわ。今私達に出来ること......それは失い掛けた一つの命を救う事のみです。きっと『神』がその使命を、私達に与えたのです」
「神の使命......確かに、その通りです!」
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
もし『ひつじの杜』に関わる者達が、瀕死のエマを見付けていなければ、エマの命運もここに尽きていたに違い無い。
エマが強運を引き寄せたのか、それとも『神』がこの善良なる民をここに呼び寄せたのか? その真意は不明だ。
少なくとも、エマの命運はまだまだ尽きていない......それだけは、間違い無かったようだ。
因みに、昨晩『夢の国』では『マンモス観覧車』の倒壊により、大地震にも匹敵する地響きがとどろき、また多くの死者、怪我人が発生している。
本来であれば、今頃警察やら消防隊やらがこの山にわんさと群がり、大騒ぎとなっている事だろう。
しかしなぜだか今も日頃と変わらず、ひっそりとした静寂に包まれている。
何か大きな『力』が働いている事は明らかだった。
今はただ、エマの回復を祈ろう。彼女が世を救う女神であるが故に......
※ ※ ※ ※ ※ ※
すっかり忘れてた!
などと言っては、この男が少し可哀想過ぎる。
成長の一途を辿るイケメンハーフもまた、『ミラーハウス』なるアトラクションで、ギリギリのサバイバルを繰り広げていたのである。
思い出して頂けただろうか?
カチャ。ゴロゴロゴロ......
ポールの手から無造作に離れた手榴弾は、ラグビーボールの如く、自由きままな起動で床を歩み進んで行った。
きっとラグビーボールには、『ポール様をナメんなよ!』......そんな怨念が取り憑いていたに違いない。
もし転がったそれが、予め手榴弾と分かっていたならば、きっとハンター達も一目散に退散していた事だろう。
しかし、そんな行動が全くの想定外だったとしたならば......
更にそれが薄暗い空間での出来事だったとしたならば......
こいつは一体何を転がしたんだ?......などと、一瞬時が止まっても決しておかしく無い話だ。
参考までに......
ネット検索で『手榴弾爆発までの時間』と入力してみると、
『ピンを抜いて投げ飛ばしてから、凡そ4~5秒で爆発する』などと記載されている。
ちなみに......
ポールが手榴弾を転がしてから、時が経つのは早いもので、既に1.5秒が経過してる。
この時点で、未だそれがそれである事すら気付いていないハンター達は、『お前は既に死んでいる』状態である事が確定している。
一方、それが手榴弾である事を知っているポールの方はと言うと......
やはり、そんな短時間で安全な場所に避難する事など出来る訳も無かった。
しかしポールは、
とある事を知っていたのである!




