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第10話 アマゾン

 正直、その池がどれ程の深さなのか? 何が生息しているのか? などと言う事を気にしている場合じゃ無かった。


 まさかアマゾンでも有るまいし......ワニやピラニアが生息している訳も無かろう。


 そんな訳で、エマは遂に観覧車のガイドから手を離し、渾身の跳躍力を駆使して飛んでみたのである。


「てやぁっ!」


 魂の叫びが、『夢の国』中に響き渡る!


 そして、次の瞬間には、


 ゴゴゴゴッ! ドドドドッ! バキバキバキッ!


 ............


 ............


 ............


 それは正に......


 ハルマゲドンと呼べる程の大地震だった。


 高さ100メートルにも及ぶ巨大『マンモス観覧車』が一気に倒壊したのである。きっと麓の街までもその振動は伝わっていったに違いない。



 その一方、決死のダイブでエマが飛び込んだ池の中はどうなっているかと言うと......


 ぬぁ~......


 濁ってて何にも見えん!


 意外と深くてラッキーでした。


 などと安堵したのもつかの間、酷い水質だった。濁り捲っている。


 こんな水にいつまでも浸かっていたら病気になるぞ! よし、とっとと池から這い出るに限る......



 そんな訳で、


 エマが水面から顔を出し、優雅なセレブ横泳ぎを披露し始めた正にその時の事だった。


 ん?


 なんだ?


 突如水面に複数の水飛沫が舞い上がったかと思えば、次の瞬間には、無数の小さな波が近付き始めている。


 そして遂にエマは、その波の正体を見定めてしまったのである。


 まさか......


 まさか......


 あれは......


 ............


 ............


 ............


 ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワッ、ワニだっ!


 やっぱここは......アマゾンだった?! いや、違う。ここは日本の群馬と新潟の県境だ。


 じゃあ何でこんな所にワニが居るんだ?! 


 などと難しい事を考えている場合じゃ無い。よくよく見てみれば、無数のワニが口をパクパク開けながら、もの凄いスピードで背後に迫り来ている。


 南無阿弥陀仏!


 エマは『優雅なセレブ横泳ぎ』改め、一気に『弾丸クロール!』へとギヤチェンジしていく。


 エッホ、エッホ、エッホ......


 実際のところ、エマの身体は鍛え抜かれているだけあって100メートル50秒ペース。


 現時点での世界公式記録が、米国ブレンダン・ハンセンの持つ59秒30だから、それよりも遥かに速い。(なぜエマがオリンピックに出ないかは不明)


 一方、ワニの方はと言うと、その泳ぎの速さは時速約30キロ。計算すると100メートルを12秒で泳ぎ切る事になる。


 当たり前の事だが、ワニの方が全然速い。


 岸までの距離、凡そ10メートル。迫り来るワニとの距離はみるみる縮まっていき、いつの間にやら7メートルを切っていた。


 こいつは間に合わん! 


 などと思いつつも、取り敢えずは泳いで行くしかなかった。


 エマは咄嗟に万能リュックを池に沈め、身軽となった身体で更に速度を増していく。


 岸まで残り、5m、4m、3m......


 そしてワニとの距離残り、5m、3m、1m......


 ちなみにさっきから、両サイドでもチャプチャプ水面が騒がしくなってた。


 背後のワニが立ち上げる水飛沫とは明らかに違う。別物の生物がエマを追って来ている事は明らかだった。


 それが何かと言うと......


 まさか?


 まさか?!


 まさか!!!


 そのまさかだった。


 ピ、ピ、ピ、ピラニアの大群じゃん!


 やっぱここはアマゾンだった?!


 いや......繰り返しになるがここは日本、群馬と新潟の県境である。



 数十年前に閉園し、既に廃棄となったこの『夢の島』なる遊園地......いざ訪れてみれば、全てが訳の分からない事ずくめで覆い尽くされている。


 劣化が進んでいるとは言え、観覧車は動き、メリーゴーランドは回り、またジェットコースターは勢いよく走り進んでいる。


 園内はその全てが七色のライトに彩られ、どこに居ようとも、メルヘンチックな音楽がここに居る者の心を和ませてくれてた。


 笑顔で駆けずり回る子供達の姿が、まるで目に浮かんでくるようだ。


 まさかこの『夢の国』だけが、古き良き昭和の時代にタイムスリップしてしまったとでも言うのだろうか?


 いや、そんな事は無い。今この地で起きている事は、間違いなく『現在』であり、そして『現実』だ。


 エマはこの『現実』を直視しなければならなかった。この複雑怪奇なサバイバルを生き延びるが為に。



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