第6話 マンモス観覧車
ふぅ、今度こそ一安心......などと思ったのも束の間、再び襲って来たものはやはり、
プシュン、プシュン、プシュン!
銃弾の嵐だった。
放たれた銃弾は、命綱とも言える鉄板に弾き飛ばされ、その度に耳障りな高感音を立ち上げる。
キーン......エマの鼓膜が悲鳴を上げた。
そしてなおも密室は、回る、回る......
ゆっくり回る、ゆっくり回る......
『マンモス観覧車』
実際のところ、そんな密室なる場所に逃げ込んでしまったエマに、この先の未来が開ける訳も無かったのである。
なぜ『マンモス』なのかと言うと、多分マンモス級に大きいからそんな名が付いたんだろう。とにかく高い。100メートルクラスの観覧車だ。
因みに......
2021年現在、日本で一番高い観覧車が、大阪府『EXPOCITY』の123メートル。それと比較しても、建設当時の基準からすれば、正に破格の高さだったと言えるのでは無かろうか。
そんな『マンモス観覧車』も、この『夢の国』が閉園してから早30年が経過。当然の事ながら、あちこちが傷んでる訳だ。
ミシミシミシ......そこらじゅうから聞こえて来る不気味な軋み音は、多分気のせい? の訳が無かった。
成り行きとは言え、そんな『デンジャラスゴンドラ』に逃げ込んだエマはと言うと、
全く......
飛んでも無いところに入っちまったな。
ハッ、ハッ、ハッ......
ヒビだらけの窓ガラスに向かって、1人引き吊り笑いを浮かべている始末。後悔先に立たずだ。笑ってる場合じゃ無いけど、きっと笑うしか無かったのだろう。
いつ底が抜けるか分からない......
いつ金具がもげて、ゴンドラが落ちるかも分からない......
それだけでも十分憂鬱なのに、
プシュン、プシュン、プシュン!
敵が下から撃ちまくって来て、
ガッシャーン!
窓ガラスが木っ端微塵に飛び散り捲っている。
更には、
「逃がすかっ!」
などと大声を張り上げながら、直ぐ後ろのゴンドラに大勢乗り込んで来たりもしていた。
こいつらバカか?
下で待ってりゃいいだろ。
1週して必ず下に戻って来るんだから。
きっと彼らも必死だったに違いない。エマを逃がすと、首が飛ぶのだろう。まぁ、ご苦労な話だ。
ミシミシミシと相変わらずゴンドラは、不気味な軋み音を立ち上げ続けている。また、高度を上げていくにつれ、ゴンドラの揺れも大きくなっていく。
やたらと揺れまくるゴンドラの中、割れたガラスの隙間から下を見下ろしてみると、
おっと......
ゴンドラの外に出て、登って来てるじゃん!
中々根性有るわ!
感心してる場合じゃ無い。本当に登って来ている。
ゴンドラは正にゆりかご状態。でも揺れてるのはゴンドラであって、観覧車自体が揺れてる訳じゃ無い。だから、きっと行けると思ったんだろう。
しかし結果は、
「うわぁ~!......」
見事奈落の底へと落ちて行った。まだ大した高度では無かったが、あちこち鉄柱に身体をぶつけ、気付けば地上でペシャンコになっている。間違いなく即死だ。
命を粗末にしやがって......
親を悲しませちゃいかん。
などと心の中で訓示を与えるエマではあったが、決して他人事では無い。いつゴンドラが落下して自分もペシャンコになるか分かったものでは無い。
ちなみに、ゴンドラのスタート地点では大勢のスナイパー達が今や遅しとエマのご帰還を待ち受けてる。エマの心の目には、きっとレッドカーペットが映っていたに違いない。
このまま何もせずに1周しようものなら、連中の餌食になること間違い無しだ。
果て......こいつは困ったぞ。
どうしたものか?
何も打開策を見出だせないまま、揺れるゴンドラで時間を費やす事早10分。
抹茶と和菓子でもあれば、優雅な時を過ごせたのかも知れないが、あいにくプラスチック爆弾と手榴弾くらいしか持ち合わせていない。食べたら即爆発だ。
そんな苦悩に明け暮れる中、再び割れた窓の隙間から外を覗いてみれば、いつの間にやら他のゴンドラが見えなくなっていた。
ここら辺がちょうど頂上って事か......
うわぁ、結構高いわ!
地上で屯す待ち人達が米粒程度にしか見えない。さすがに100メートル上空だけの事はあった。
遥か遠くを見渡してみれば、麓の街灯りがおぼろ気に浮かび上がって見える。晴れた日の日中ともなれば、さぞかし景色がいい事だろう。
きっとこの『夢の国』の名物アトラクションだったに違いない。
とは言え、今はやたらと霧が立ち込めてる。身を乗り出したりもすれば、まるで無数の手が伸びて来て外へ引きずり出されそうな感覚に囚われてしまう。
今やオカルト感満載の『マンモス観覧車』。ゴンドラが落ちてエマが死ぬような事でもあれば、きっと有数のホラースポットに成り得る事だろう。




