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第4話 ハンター

 間違いなく今左手前の鏡にハンターの姿が映し出されたはず。でも撃ち抜いたのは鏡だった......


 ドクン、ドクン、ドクン......激しく脈打つ心臓の鼓動音は、まるで無数の鏡に反射し、この密室全体に波紋しているかのように思えてくる。


 気付けば複数の足音が前からも、後ろからも、右からも、左からも......四方八方から近付いて来ていた。


『すっかり囲まれた』......どうやらそれが現実だったらしい。


 ダラダラと流れ落ちて来る脂汗は、容赦なく視界を奪っていく。そしてポールが袖でそんな汗を拭ったその時の事だ。


 突如正面に再び敵の姿が!


 バンッ!


 しかし......またも鏡が砕け散る。


 そして左の鏡にも!


 バンッ!


 やはり鏡が砕け散るだけだった。



「くっそう! 敵はどこに居るんだ?!」


 ここは正に『実像』と『虚像』が同居した世界。


 角度の異なる無数の『鏡』から繰り出される可視光線は、『実像』から更に幾つもの『虚像』を作り出していき、脳を麻痺させていく。


 ちなみに、『鏡』を辞書で調べると、


『通常、主な可視光線を反射する部分を持つ物体。また、その性質を利用して光を反射させる器具を指す』


 だそうだ。


 つまり『鏡』が映し出す『像』は、その全てが反射の作用によって作り上げられた『実像』であり、『虚像』などは存在しない。


『虚像』......それはむしろ情報処理が追い付かなくなった人の脳内で出現する蜃気楼みたいなものなのだろう。


 全てを悟ったポールは、オーバーヒートし掛けた脳に大量の冷却水を注入していった。



 よく見るんだ......


 光を線になぞらえて追っていこう。


 スタスタスタ......足音を封印し、気付かれぬよう素早く移動を開始していく。抜き足、差し足、忍び足......


 すると程なく、斜め右前にハンターの姿が!


 !!!


 斜め右前→斜め左後ろ→後ろ右......そして『線』が最後に辿り着いた終着点は!


「左だ!」


 バンッ!


 ............


 ............


 ............


『鏡』は砕け散らなかった。つまりその事は、


「うっ......!」


 バサッ。


『鏡』の手前に存在する物体に、弾が打ち込まれた事を示唆していたのである。


「よしっ、一丁上がり!」


 しかし、いい事ばかりでは無い。


 そんなポールが発した1発の銃声は、残念ながらハンター達に正確なる獲物の居場所を知らせる結果となってしまったのである。


 一難去ってまた一難......そう言わざるを得ない結果だ。



「取り囲め!」


「「「了解!」」」


 スタスタスタ......


 バザバサバサ......


 そして気付けば、正面の『鏡』にハンターの姿を映し出す。


 次に左の『鏡』にもハンターの姿が。更に右も、斜め前も、斜め後ろも......


 全ての『鏡』がハンターへと変貌を遂げるまでに、然したる時間を要す事は無かった。残念な事ではあるのだが......


 それらは紛れもなく『実像』の世界。そしてその全ての『実像』は、ポールに銃口を向けている。


 この距離ならば、万に一つも外す事は無いだろう。どうやら、年貢の納め時がやって来たらしい。


 もしここでリーダーが『撃て!』なる号令を掛けようものなら、ポールの身体は一瞬にして鏡と共に砕け散るに違いない。


 そしてその瞬間は、刻一刻と迫り来ていたのである。


「お前は何者なんだ?」


「......」


「誰に頼まれた?」


「......」


「命が惜しいか?」


「......」


 追い詰められた獲物の反応を楽しむかのように、リーダー格の男は含み笑いで語り掛けてくる。死を前にして怯える獲物の姿が見たくて仕方が無いのだろう。


 一方、ポールの方はと言うと、そんな道楽に付き合うつもりは無いらしい。怯えるどころかむしろ、


 フッ、フッ、フッ......


 薄笑いすら浮かべてた。


 小バカにしたようなポールの態度に対し、遂にハンターは引導を渡す事となる。


「こいつナメんなよ、バカにしやがって! お望み通りあの世に送ってやる。よしっ、殺れ!」


 すると、


「ハッ、ハッ、ハッ、......残念ダケド、死ぬのはお前らの方ダヨ!」


 カチャ。ゴロゴロゴロ......


 ???


 !!!


 ハンター達が引き金を引くより早く、ポールがポケットから転がしたこぶし大の固形物。


 それが一体何なのか? その答えをハンター達が知る頃には、きっとここに居合わせた全ての者が、天上の大草原を白馬で駆け抜けているに違いない。



 手榴弾による『玉砕』......そんな言葉こそが、ポールの導き出した最期の『道』だったとでも言うのだろうか?


 幸いな事に、エマの『兵法書』には『自爆』と言う文字は記されていない。


ならばこの先、一体どうなる事やら......展開は全く読めなかった。エコエコアザラク、エコエコザメラク......



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