第3話 ミラーハウス
そんなポールが逃げ入った建物と言えば、
『ミラーハウス』
入口の頭上にそんな文字が。もちろんポールはそんな看板を見てやしない。故に、今慌てて逃げ込んだその場所が何なのか? などと言う事を理解している訳も無かった。
そんな訳だから......
「なんじゃココハ?......これ、全部『鏡』?」
前後左右、全ての鏡に映し出された自分の姿を目の当たりにし、思わず首を傾げてしまう。
ちなみにこの場所はアトラクション。故にまっ暗と言う訳でも無かった。真っ暗だったら、鏡が見えなくてちっとも面白く無い。
天井のあちこちに点在してるスポットライトが光源だ。微妙な明るさで怪しい雰囲気を醸し出している。
遥か昔に閉園となってる筈なのに......なんで電球が切れてないんだ?
えっ? まさか、LED? しかも『ナショ○ル』じゃ無くて『パナソ○ック』だ。
有り得ん!
普通に考えれば、甚だ不思議な話である。
この時ポールは気付いてなかったが、非常ベルのランプもしっかりと赤く点灯していた。
閉園して早30年......しかしその後も今日に至るまで、しっかり維持管理されてる事を意味している。
誰が? 何の為に? 考えれば考える程、謎は深まるばかりだ。とは言っても、孤独のポールにそんな矛盾を頭が追及する余裕など有る訳も無かった。
ちなみに......ここまで幻覚に襲われようとも、窓から飛び降りそうになろうとも、そこには必ずエマが居た。
しかし今ここに、そんな守護神の姿は無い。生きるも死ぬも、全て本人の力量次第と言う事になる。
ドクン、ドクン、ドクン......高鳴る鼓動音は、そんなポールの緊張感を象徴しているかのように思えてならない。正にこの男の成長が試される場面と言えよう。
やがて、ポールの目の前に分岐が現れた。ここから進むべき道は二手に分かれてると言うこと。
なるほど......
この建物は、壁が全て鏡で出来た迷路って事か。また厄介な所に入り込んだもんだワン。
そんな岐路に差し掛かったポールは、ようやくこのアトラクションの趣旨を理解する事となった。
やがて、バタバタバタッ......
予想に違わず、荒々しい複数の足音がなだれ込んで来る。足音の数から察するに、5人? 6人? いや、もっとか? いずれにせよ多勢に無勢である事は間違い無い。
ならば、ここは逃げるが得策!
そんな見解に辿り着いたポールは、取り敢えず左へと進路を取った。特に根拠は無い。ただの直感だ。
右に顔を向けてみれば、左へと駆けていく自分の姿が映し出されている。
そしてそんな右の鏡は、左の鏡に映し出された自分の姿を映し出し、またそれを右の鏡が映し出してる。
前後左右どこを見渡しても、エンドレスの自分がそこに居た。不気味この上も無い光景だ。
ポールの頭の中で、『ミラーハウス』が『ホラーハウス』に変化を遂げた瞬間だったのでは無かろうか。
やがて突き当たりにぶつかると、更に2つの分岐が現れる。本能のまま右へと進んでいく。
正面の鏡には、歩み進んで来る自分の姿が映し出されてた。
続いて、斜め右手前の鏡......
まずは右足が出現し、進むにつれ徐々に自分の右半身が映し出されていく。
そして背面......
振り返ってみると、自分の背中と冷や汗をかいた自身の顔が映し出されている。
更に左手前......
まだ自分の姿が映し出されていない。なおも進んで行く。しかし、いつになっても自身の姿が映し出されて来ない。
はて? これは四次元の世界か?
そしてなおも歩き進んでいく。
スタスタスタ......
更に進む。
スタスタスタ......
スタスタスタ......
すると、
「ん? 今、足音が重なったような......」
そして遂に!
再び左手前の鏡に視線を送ったその時だ。
「なんと?!」
ポールは反射的に引き金を引いた。
バンッ! ガッシャーン!
鏡が砕け散り、破片が四散する。
敵かと思いきや、ただの鏡だった。
もうこうなると、『虚像』と『実像』の区別が全くつかない。
ポールの脳は、目から送り込まれて来る電気信号を、処理出来なくなっていた。完全にパニック状態だ。
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