第11話 ワイヤー
(残された時間:20分)
ガタッ、ガタガタ......ワイヤーは僅かな振動を伴いながら、秒速1.5mのスピードで2人の身体を引っ張り上げていく。
閉鎖された空間、暗闇と言う事も重なり、体感的にはかなりのスピードが出ているように感じられる。このペースでいけば、20Fへ到達するまでに1分と時間を要す事も無かろう。
3、4、5F......
特に変化は無い。2人の上昇を妨げるものは皆無と言えた。
この空間は屋内であるが故に、風でワイヤーが煽られる事も無い。とは言え、人間と言う生物が地上で暮らす種族であるが故、地に足が付いて無いと、やたらと不安が掻き立てられる。
もしワイヤーが切れたら......などと、ついつい余計な煩悩が生まれてしまう摩耶だった。
8、9、10F......
未だ特に変化は見られない。平和そのものだ。摩耶はここで初めて下に目を向けてみた。
うわぁ......高っ!
思わず足がブルブルと震え出してしまう。高所恐怖症で無くとも、人ならば思わず息を呑む高さだ。
15、16、17F......
そして摩耶は上を見上げる。それと同時にヘッドライトが上方の景色を浮かび上がらせた。
すると、
「ん? なんだ?」
摩耶よりも早く、美緒が異変に気付く。見れば上方5m、19階辺りで何かがキラキラと光を反射してる。
そんな『何か』は、横1面に広がっているようだ。まるでクモの巣のように......
「まっ、まさか......」
ワナワナワナ......気付けば摩耶は、感電したかのように震えてる。
「あんた何震えてんのよ! それと......あのキラキラは何なの?!」
「こ、これ以上進んだらダメッ! もっ、戻って!」
そんな叫び声を上げた摩耶の怯え方は、尋常じゃ無かった。
「そんな戻れって......一体どう言う事なのよ?!」
「いいから早くモーター止めて! あいつに殺られる!」
「殺られる?! わ、分かったわ!」
『車は急に止まれない』
そんな交通標語が存在するように、モーターも急には止まれなかった。
パチンッ。
美緒がモーターのスイッチをOFFにした時には既に手遅れ。
ウィ~ン、シュルルルル......
それまで鼓膜を刺激していたモーター音が見事に消え失せ、シ~ン......不気味な静けさが空間を支配し始めた。
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「ちょっと、なによ? このネバネバした太い糸は?」
「黙って」
「身体が全然動かないんだけど?」
「いいから黙って!」
すると今度は、
ガサガサ......
「揺れる......」
ガサガサガサ......
「身体が揺れてる......これって、どう言う事なのよ!」
「キラー......スパイダー」
「キラースパイダー?」
ガサガサガサ......
ガサガサガサガサ......
不気味な音を従えて、背後から何かが近付いて来てる。そしてその音は、まるで複数の足が連続で動いているかのような音だった。
美緒は唯一自由に動かせる左手で、ドローンカメラのモニターをまさぐり出す。そして見詰めた。
「こっ、これは?!」
そんなモニター画面に映し出されていた映像は、なんと! 自分らの背後にゆっくりと移動してくる巨大グモの姿だった。
「これって......」
「まさか、こんな所に隠れてたとは......どんなに探しても見付からなかった訳だ......」
手を動かそうとしても......しっとりと濡れた糸が、それを許してはくれない。
足を動かそうとしても......絡まった糸が、更に纏わり付いてそれを許してくれない。
そして、脳内コンピューターをフル活動させようとしても......衝撃的光景を目の当たりにした脳が、即座にメルトダウンを開始してしまう。
「キラースパイダーって......まさか研究中に逃げ出したって言う巨大グモのこと?」
「そう言うことに......なると思う」
「あっそ......」
グラグラ、グラグラ......
グラグラ、グラグラ......
大きな黄色い目。
50センチはあろうかと思われる8本の長い足。
そして、ヘッドライトに反射する2つの巨大キバ。
全ては癌の特効薬を作るが為に、品種改良を繰り返した結果の成果、いや負の産物と言わざるを得なかった。
そんなキラースパイダーは、蟻地獄にまんまとはまった獲物を食するが為、ゆっくりとその距離を縮めて来てる。
2人に残された時間は、残りたったの18分。
帝国化学工業(株)の秘密を暴くどころか、思わぬ伏兵を前にして、身動きすらままならないこの状況。もはや2人の命も、風前の灯と言わざるを得なかった。
神は『マーメイド』を使って世界を滅ぼさせようとしているのか?
それとも彼女らに使命を与えて『マーメイド』から世界を守らせようとしているのか?
その答えを知るまでに、然したる時間を要す事も無かろう。
間も無く天罰は下される。キラースパイダーが2人に襲い掛かるその時に!




