第10話 上昇
絶・対・に『無理』だって!
「大丈夫よ。訳無いわ」
そりゃあ、あんたは訳無いでしょうよ! サイボーグなんだから。でもあたしは人間なの! 落ちたら死んじゃう人間なのよ! (注:美緒も一応人間で落ちたら死にます)
そんな摩耶の恐怖を他所に、美緒は次なる仕込みを淡々とこなしていく。
ウィーン......気付けば美緒は、『四次元ポケット』からいつの間にやら取り出した小型ドローンを宙に飛ばしてる。そんなドローンには、ワイヤーがくくり付けられてるらしい。
「ちょっと今度は何始めるつもり?」
「少し黙って見てなさい」
美緒の目は真剣そのものだった。一体何をそんなに真剣に見ているのかと言えば、手の平サイズの小型モニター。どうやら、ドローンに取り付けられたカメラの映像がそこに映し出されてるようだ。
そんな高性能小型ドローンは、2階、3階、4階......ゆっくりと、ワイヤーを引き上げていく。
「ドローンがワイヤーを20階に固定したら、直ぐに登っていくから。はい、このベルト腰に巻き付けて」
「登っていくからって......」
「そんな心配そうな顔しなさんな。モーターで引き上げてくれるから安心して」
さすがの美緒も、女の腕力だけで20階までワイヤーを登って行くつもりは無かったらしい。
「だよね......」
ホッ......密かに胸を撫で下ろすサバイバル白帯の摩耶だった。
一方、美緒はそんな説明を繰り出しながらも、モニター画面から一切目を離さない。ドローン操縦に必死だ。
ただ突っ立ってるだけでは、さすがに間が持たなくなった摩耶は、遠目でモニター画面を覗き込んでみた。すると、
5F、6F、7F......各フロアーに描かれたそんな文字がゆっくりとその数を増やし続けている。どうやら順調にドローンは上昇を続けているようだ。
エレベーターの外では絶え間なく複数の足音が響き渡り続けている。傭兵達は、血眼になって2人の姿を探し求めてるに違いない。
まさか動く訳の無いエレベーターの『箱』の上で2人がそんな仕込みを行っているとは、夢にも思って無いのだろう。
これなら、すんなり行っちゃう?
美緒の完璧とも言える連続技を目の当たりにし、摩耶が勝利の手応えを感じ取ったその時だった。
「あら? 今のなに?」
突如、美緒が目を細めた。それはドローンカメラが、ちょうど18Fに差し掛かった辺りの出来事。
「えっ、どうしたの?」
「何か大きな物体が見えたような気がしたんだけど......」
すると摩耶は、慌ててヘッドライトを上に向けてみる。
「別に何も居ないようだけど......」
実際のところ、何も見えなかった。音もしなければ、気配も無い。
まさかね......
まぁ、そりゃ無いか......
一瞬、摩耶の頭の中を何かが横切ったみたいだ。しかしそれ以上、深く考える程の余裕は無かった。
やがて何事も無かったかのように、再びドローンは上昇を始める。
19F、20F......
そして、
ギー、ガシャン。ドローンから伸び出した触手は、何のストレスも無く、ワイヤーの先端、ナスカンを見事突起部に接続させたのである。
「お膳立ては整ったわ。あとは登るだけ」
「......」
摩耶は無言。再びヘッドライトを上方へ向けて、隅々まで照らしてみる。しかし何度見渡したところで、何も見えないものは見えやしない。
やっぱ......
思い過ごしか......
「そうね......時間も無い事だし......登るとしますか」
「じゃあ行くわよ。腰のベルトにフックを引っ掛けて。あとは黙っててもワイヤーが20Fまで連れてってくれるから」
「了解......」
ウィ~ン......美緒がモーターを起動させると、2本の足が地面から離れていく。
ベルトが腰に食い込み、若干の痛みは生じたが、この場において贅沢など言ってられる状況でも無い。
2人は必死にワイヤーにしがみ付き、地上60メートル、20Fへ到達するのをただじっと待ち続けたのである。




