第8話 ELV
「この扉の向こうは?」
「すぐ右が管理用のエレベーターホール。それと目の前は防災管理室へと通じる一直線の通路。少し進むと内階段が有るわ。
電力を全て落としちゃってるから、もちろんエレベーターは動かない。最終目的地は20階。そのフロアーに執行役員室が連なってる。財前徳一の個室もそこにあるの」
「財前徳一って......例のヤツ?」
「そう......『マーメイド』を犯罪組織に売ろうとしてた張本人よ」
「そいつを探っていけば、必ず何かボロが出そうね。それで......どうやって20階まで行くのかしら?」
「エレベーターが使えないんだから、階段で行くしか無いわね」
「なるほど......中々の名案ね。でも20階まで階段上がったりしたら、足が太くなっちゃうわ。だからそれはNG。やっぱエレベーターで行きましょう」
足が太くなるから嫌だ、ですって?
この火急な時にこの人は何を言ってるの?
戯れてる場合じゃ無いでしょう!
電力を落とした訳だから、エレベーターは動かない。もちろんそんな事は分かり切ってるはずだ。
もしかして、あたしをバカにしてる?!
美緒のご乱心? に、さすがの摩耶もプチン! 尾が切れてしまったようだ。
「だからエレベーターは動かないって言ってるでしょう! 何度も同じ事言わせないでよ!」
イライラモード全開。摩耶が吐き捨てるように声を上げたその時だった。
バタバタバタッ......!
突如、複数の足音が響き渡ってくる。
「しっ、黙って!」
美緒はボルテージの上がり切った摩耶の口をすかさず制した。
複数の足音は、扉の向こうから一気に近付いて来てる。多分一連の騒動の末、警備員達が慌てて駆け付けて来たのだろう。まぁ、当然と言えば当然の話だ。
「さぁ、そこの物置の影に一旦隠れるわよ」
「わ、分かった......」
スタスタスタ......可憐なステップで死角に消えて行く美緒。
それに対し、ヨチヨチヨチ......地に這いつくばって物置の影へと進む摩耶だった。未だ赤外線スコープに目が慣れて無いらしい。まぁ、転んで音でも立てられたら目も当てられない。懸命な策と言えよう。
やがて、バタンッ! 乱暴に扉が開かれると、バタバタバタ......足音の洪水が流れ込んでくる。
「よしっ、そのまま地下へ進め! かまわん、見付け次第撃ち殺せ! 絶対に生きて帰すなよ!」
「「「了解!」」」
各々がヘッドライトを頭に装着し、ライフルを抱えて一目散に階段を駆け下りていく。
そんな光景を影から眺めていた2人の目はいつしか点に。
「何でライフルなんか持ってんだ?」
「しかも全員明細服だったし」
「ありゃあ警備員なんかじゃ無いわね」
「軍隊にしか見えなかったわ」
どうやら......新たに傭兵を雇い入れてるらしい。
東京大手町に傭兵? ここは戦場なの? 答えは『その通り!』......と言う事になる。
俄に信じがたい話ではあるが、正にここは戦場であり、今2人は戦場のど真ん中に居る事を認識しておかなければならない。認識を誤ると命取りになる。
すると美緒は、思いもよらぬ事を口走り始めた。
「これで少しは仕事がやり易くなったわね」
警棒持った警備員から、ライフル持った傭兵に敵がグレードアップした訳である。
何がどうなって仕事がやり易くなったのか? 摩耶には美緒の言ってる事の意味が全く分からなかった。正に???顔だ。
そんな摩耶の表情に気付いた美緒はと言うと、
「相手が傭兵なら一切遠慮は要らないわ。心おきなく戦えるじゃない。フッ、フッ、フッ......」
薄気味悪い笑みを浮かべながら、手榴弾でお手玉してる美緒。きっと投げたくてウズウズしてるのだろう。
全く......こっちは恐ろしくてビクビクしてるって言うのに。
そんな美緒の狂気なる様子を目の当たりにし、恐怖を感じながらも、敵じゃ無くって良かった! などと、密かに胸を撫で下ろす摩耶だったりもした。
やがて、傭兵達が地下へ下り切った事を確認すると、美緒と摩耶の2人は禁断の扉を開け、次なるステージへと足を踏み入れて行く。




