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第7話 スコープ

 美緒は手当たり次第に背中をドツきながら、防火区画の外へと導いていく。


 そんな美緒の行動に対し、摩耶はただ無言で後に付いて行くだけだった。心の中で一体何を思っているのかは分からない。



 颯爽と暗闇の中を駆け抜けていく美緒、摩耶、そして警備員の5人。


 チュ~......


 チュ~......


 更に後を続く4匹の大ネズミ家族。


 全ての生ある者達が防火区画から脱出を果たすと、ギギギギギッ......ガタン。程なく防火シャッターは完全密閉を成し遂げたのでした。



 正直なところ......


 ここまでの目まぐるしき展開は、美緒に取って明らかなる想定外だったに違いない。


 当初の予定では、まだこの時点で自分等の潜入は気付かれて無い筈だった。


 停電が起こったと言うだけで、事件性の有無が確認されるまでに、多少なりとも時間を稼げるものとふんでいた。


 ところがどっこい、開けてみれば、途中で警備員達が乱入してきて、今も目の前に生き証人が5人も存在している。


 多分この調子だと、これから先も行き当たりばったりが続いていくのだろう。


 しかし、悪い事ばかりと言う訳でも無かった。それは停電の原因となった分電盤が、今や二酸化炭素で充満した密閉空間の中に存在すると言う事。


 安易に中へ入る事が出来ない以上、配線を修理する事も出来なかろう。


 つまり、第二発電機が稼働を始めるまでの30分間が、確実に担保された事になる訳だ。それだけはせめてもの救いと言える。



 やがて美緒は、隅で固まる警備員達に向かって言葉を発した。


「さぁ、君達!」


「ひぃっ......!」


 彼ら5人の怯え方は尋常では無い。未だ目の前の美戦士達は銃をチラつかせ、その銃が偽物で無い事は、先程の美緒による発砲で既に明らかとなっている。


 赤外線スコープで顔の大部分がベールに包まれているとは言え、自分らが彼女らの一部始終を目撃してしまった生証人である事もまた事実。


 しかも警備員の1人に限っては、なんと!


「お前らは、『マーメイド』を強奪しようとした盗人だろ! 顔を隠したって分かるぞ。テレビで何度もお前らの顔写真を見てるからな!」


 言わなきゃいい事を、素直に言っちゃってる始末。


「バッ、バカッ! 余計な事言うなって!」


 もはや生きた心地もしない他の警備員達だった。



 やがて美緒は、リュックからスプレーらしきものを取り出すと、プシュー......彼らの顔目掛けて順番に吹き掛けていく。すると途端に、


「ムニャムニャムニャ......」


 一瞬にして、夢の世界へと旅立っていく警備員達だった。それが催眠スプレーであった事など、今更説明する必要も無かろう。



 その時、美緒のストップウォッチは既に2分を経過。残された時間はたったの28分のみと言う事になる。


 そして上階では、既にMAXとも言える戒厳令が敷かれている事は疑う余地が無い。次の瞬間、ハンター達が自分等を抹殺すべく、なだれ込んで来てもおかしく無い状況だ。



「さぁ摩耶さん、そろそろ行こうかしら。あなたの道案内が頼りよ」


「任せといて。あたしがこのツアーのナビゲーター。大船に乗ったつもりでいて」


 タッ、タッ、タッ......


 タッ、タッ、タッ......


 赤外線スコープを頼りに、ナイトサファリへと旅立っていく、美緒、摩耶の2人だった。



 この時美緒は、走りながらも摩耶の語った一言がどうしても頭から離れなかった。


『この人達の運命は、ここで二酸化炭素に呑まれて死ぬこと』


 そう言い放った時の摩耶の目は、これまで見た事の無い程に、冷たく、そして残酷だった。


 この娘はまだ自分の全てをさらけ出していない。きっと何か大きな秘密を隠してる筈。ただ少なくとも、現時点では運命共同体。このビルを熟知した摩耶の力が頼りだ。


 今は疑うを止めよう......


 摩耶の背中を追いながら、雲霧を吹き払い階段を上り詰めていく美緒だった。



 やがて1階に辿り着くと、目の前には観音開きの大きな鉄扉が。


 恐らく摩耶はまだ赤外線スコープに慣れていないのだろう。両手を前に出し、そんな鉄扉との距離を確かめてる。


 暗黒の世界の中では、正にそんなスコープが命綱。文明の力に感謝せねばならない。




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