第6話 銃声
「だっ、誰だお前らは?!」
「なっ、なんだこの壁の穴は?!」
遂に現れたのである。来なくてもいいその者達が!
(遭遇までの時間残り0秒)
すると、
ピタッ。
突然現れた来訪者に気付いたお父さんネズミが、特大チーズに噛み付く寸前でフリーズ。
そして、なんと!
「チュ~、チュチュチュッ!(逃げろ!)」
家族に避難勧告を発令してしまった。何てことだ!
そして2人の願いも虚しく、空調設備の影へと一目散に退散して行ったのである。
「あらららっ!」
「ここで帰るんかい?!」
時には美緒の脳内コンピューターも、予期せぬ誤作動を起こす事が有るようだ。
だ、だ、だ、だめよ! こんな所で捕まったりしたら......マーメイドは一生戻って来なくなる。そ、そんな事は、あたしが絶対に許さない!
気付けば、摩耶は身体をワナワナと震わせながら、黒光りするずっしりと重い固形物を手にしていた。
それが何かと言えばなんと、銃だった。そんな彼女の大胆とも言える行動は、ほぼ無意識だったに違いない。
捕まってなるものか! 彼女のそんな執念が、きっと彼女を暴挙に走らせたのだろう。
しかも摩耶の全身からは、明らかに『殺気』と言う名のオーラが取り巻いている。それはもはや、『威嚇』などと言う生易しい域を遥かに超えていた。
そしてそんな摩耶の構える銃口は、間違いなく先頭に立つ警備員の眉間に向けられてる。
「ひぃっ!」
突然なる形勢の逆転に、警備員達は思わず色を失ってしまう。
上下黒のピチピチレザーつなぎに、真っ黒のゴーグル......そんな装いのスレンダー美女達の姿は、きっと『ターミネーター』か『ワンダーウーマン』くらいにしか映って無かったのだろう。
ちなみに......
警棒を握り締めているとは言え、少なくとも飛び道具は持ち合わせていない警備員衆。銃を構える摩耶からしてみれば、そんな彼らは丸腰同然と言えた。
『無用な殺生は行うべからず』
そんな『EMA探偵事務所』の掟が即座に頭を過る美緒だった。
見れば相も変わらず摩耶は常軌を失い、引き金に指を掛けている。いつ銃弾が警備員の眉間に打ち込まれてもおかしくない状態だ。
「仕方がないわね......」
やがて美緒は決心を固めると、満を持して自身も銃を構える。そしてそんな銃口は、寸分も狂わず分電盤の『黒』なる配線に向けられていたのである。
そして次の瞬間には、
バンッ!
耳をつんざく程の大爆音が密閉された地下1階に響き渡ったのでした。
もうヤケクソだわ......
すると、
バチンッ。激しき電子音が轟いたかと思えば、次の瞬間には、シーン......無音の世界と共に、暗黒の世界がフロアーを支配していた。いわゆる真っ暗ってヤツだ。
光を発するものがあったとしたなら、それは頭上で点灯する赤外線感知器の確認灯くらいのものだった。
本来であれば、ここで非常灯の1つや2つでも点灯しそうなものであるが、そういったメンテナンスには一切お金を掛けて無かったのであろう。
残念ながら、この会社は金の使い道をあまり分かって無かったようだ。
やがて5秒もすると......
『地下1階で火災が発生しました。30秒後には二酸化炭素が放射されます。速やかに避難して下さい。地下1階で火災が発生しました。30秒後には......』
それは正に、摩耶が忠告していた通りのハルマゲドンが始まった瞬間だったと言えよう。
「うっ、うわぁ! 真っ暗だ!」
「ま、まずいっ! 二酸化炭素が放出されるぞ!」
すると、1人が思い出したかのように懐中電灯に火を灯す。
その直後には、
バンッ! 途端に銃声が響き渡り、
バキッ!
「うっ!」
懐中電灯が弾き飛ばされ、再び暗黒の世界が甦った。
そしてまた別のもう1人が、懐中電灯に火を灯しようものなら再び、
バンッ!
バキッ!
「うっ!」
同じ事が繰り返される。
もちろん撃ったのは美緒じゃ無い。そうともなれば、引き金を引いた者は残る1人しかいないと言う事になる。
「摩耶さん! あんた何やってんだ?!」
予期せぬ摩耶の行動に、美緒は動揺を隠せない。
すると、
「この人達の運命は、ここで二酸化炭素に呑まれて窒息死すること。生かしといたって、あたし達の邪魔をするだけだわ」
サバイバル的に言うと、至極当たり前? なる言葉を返す摩耶だった。
「バカッ、何言ってんだ?! こいつらは、何も知らずにただ雇われてるだけの警備員だ。あたし達が退治するのは『悪』であって一般市民じゃない。さぁ、警備員達も早く走れ! あと20秒でシャッターが降り切るぞ!」




