第5話 ムンクの叫び
「おい、どこ行ったんだ?! 急に防犯カメラから姿を消しやがって!」
美緒が予言した通り、本当に警備員達が降りて来てしまった。
「まっ、まずい!」
「そっ、そのようね」
ちなみに......
足音の数は1人や2人じゃ無かった。
1、2、3、4、5!
総勢5人の足音が、だだっ広い地下1階のフロア中に響き渡って来たのである。
ゴソゴソゴソ......チュウ、チュウ!
ゴソゴソゴソ......チュウ、チュウ!
どうやら警備員達の足音にビックリしたのは、美緒と摩耶の人間2人だけでは無かったらしい。大ネズミの一家が群れをなして空調設備の隙間から顔を出してる。
「ちょっと、どうしよう?! マジでこの配線切れないんだけど!」
「いいから少し静かにして! ここに居るのがバレちゃうでしょ!」
美緒は息を潜め、かくれんぼ張りに分電盤の影から目を出して様子を伺ってみた。
すると警備員達は、竜巻の如く辺りを蹂躙しながら着実に距離を縮めて来てる。ここにやって来る事はもう時間の問題だ。
そんな様子を目の当たりにした美緒の脳内コンピューターは、ここに来て一気にトリプルターボが火を吹き始める。エコエコアザラク、エコエコザメラク......
①まずは摩耶の姿を見詰めてみた。
顔は『ムンクの叫び』状態。もう気が動転してほぼ使い物にならない。あと何時間掛かったところで、配線を切り落とせる事は無かろう。こりゃダメだ!
②次にもう1度影から目を出してみた。
警備員達が『なまはげ』に見えて来る。肩を怒らせて更に近付いて来てた。ここで鉢合わせになるまでの時間は20秒足らずとみた。
③次に空調設備の隙間に目を向けてみる。
すると、4匹の大ネズミの視線と自分の視線が一斉に重なった。ネズミは大っ嫌いだけど、なぜか今日は可愛く見えたりもする。
ネズミと言えば、トムとジェリー。
トムとジェリーと言えば、アニメ。
アニメと言えば、鬼○の刃。
刃と言えば......切る。
切ると言えば......言えば......言えば......言えばっ!
ちなみに......
ここは地下1階の設備機械室。ゴキブリくらいは居るかも知れないけど、大して食になるような物が転がっているとは思えない。
チュ~......
チュ~......
チュ~......
子ネズミ達のそんな弱々しい鳴き声も、美緒の耳には、
お腹空いた......
お腹空いた......
お腹空いた......
としか聞こえなかったのである。
その時、美緒の目は、ピカリッ! 突然、暗闇の猫の如く閃光を発した。
(遭遇までの時間残り15秒)
「さぁ、食べなさい!」
何を思ったのか? 美緒はそんな場違いとも言える言葉を発すると、今度は万能リュックから固形物を取り出し、コロロン......空調設備の隙間へと転がしたのである。
「ちょっとこの忙しい時に、何『餌付け』してんのよ!」
摩耶はもう顔面蒼白だ。
『餌付け』?
なぜに摩耶はそんな言葉を発したのかと言うと、その答えは実に明白。
「ネズミと言えば、チーズに決まってるじゃない」
そう......
美緒は万能リュックの中に蓄えていた固形食料の中から、そんなネズミの好物をチョイスしていたのである。
(遭遇までの時間残り10秒)
「チュ~ッ!」
真っ先にそんなチーズに飛び付いたのは、一際小柄な妹ネズミ。きっとまだ恐れを知らないのだろう。ボリボリボリ......ご満悦の表情で、好物を食している。
そんな思い描いていた通りの展開に気を良くした美緒はと言うと、
「ほれ、お兄ちゃんも!」
コロコロコロ......
「チュ~ッ!」
妹ネズミが美味しそうに食している姿を目の当たりにし、兄ネズミも我慢出来なかったのだろう。親ネズミの制止を振り切り、チーズにムシャブリ付いて行く兄ネズミだった。
もうこうなると、美緒の勢いは止まらない。
(遭遇までの時間残り5秒)
「はい、お母さんもどうぞ!」
コロコロコロ......
「チュ~ッ!」
更には、母親ネズミも、分電盤の目と鼻の先で好物を美味しそうに食している。
妹ネズミ、兄ネズミ、母ネズミ......
その鋭いキバが大きくなっていくにつれ、美緒はネズミ一家を順に分電盤へと近付けて行った。
(遭遇までの時間残り1秒)
「さぁ、お父さんネズミ! 大トリはあなたよ!」
美緒は目を輝かせながら、特大チーズを配線『黒』の回りに巻き付ける。
それは正に、この咄嗟なる思い付きが、集大成を成し遂げようとした瞬間だったに違いない。
「チュ~ッ! チュチュチュッ!」
お父さんネズミは、一気に分電盤へと向かって行く。そして金玉とも言える特大チーズにその鋭い歯で噛み付こうとした正にその瞬間だった!




