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第4話 ニッパー

 そして摩耶の『仕事』は、次なるステップへと進んでいった。


「次にこの『黄色』の線が警報線。この線を切断すれば、何か異変が起きても警報信号が『防災管理室』に飛ばなくなる。この後停電が起きても、原因を特定するまでに、少し時間を稼げる事でしょう」


 そして摩耶は、ニッパーを黄色の線に当てた。額から流れ落ちた汗の滴が、手の甲を濡らしている。


「いいわね?」


「どうぞ」


 バチン。


 見事『黄色』の線は、『青』同様にダラリとぶら下がりを見せた。この時点でも、何1つ異変は起こらない。


 そして遂に、摩耶は一際太い『黒』なる線にニッパーを当てた。


 ここで摩耶は、ふぅ......再び大きな深呼吸。顔が引き吊っている所を見ると、この線を切断した後、何か大きな動きが有るのかも知れない。



「この黒い線が電力の本線。これを切断した瞬間にセキュリティを含めた全ての電力・動力がストップするわ。


 きっとあたしが『マーメイド』を持ち出した後に、パスワードを変更してる筈だし、あたしの指紋認証も無効にされてる筈。


 だからこの配線だけは絶対に切っておかないと、この先に進めないの。あと......多分真っ暗になると思う」


「なるほど......期待してるわ」


「それと、非常時に自動で稼働する発電機は全部で2機。停電した途端に動き出す第一発電機は今配線を切ったから動かないけど、30分後に動き出す第2発電機の配線はここじゃなくて、別ルートで繋がってる。だから切断は出来ないわ」


「つまり、30分したら第2発電機が動き出して、このビル全体の電力が復活しちゃうって事ね」


「そう......だからあたし達は、何が何でも30分以内に情報を盗み出して、このビルから脱出しなきゃならないってこと。お分かりかしら?」


 ツンツンした口調で会話を繰り出す摩耶だった。


「安心しなさい。『マーメイド』の情報を見付け出すまでは必死に守ってあげるから。まぁ、その後はあなたの心掛け次第ってとこね。フッ、フッ、フッ」


 一方、意味深な暴言を発する美緒だった。どうやらこの2人の間には、未だ『三角関係』と言う名の火種が燻っているらしい。



「じゃあいいわね! 切るわよ!」


 カチンッ! 摩耶の頭の中でそんな音が鳴ったのかどうかは分からないが、勢いのまま『黒』なる線を切り落とそうとする。


 すると美緒は、


「ちょっと待ちなさい。これ被って」


 摩耶の軽率な行動に待ったを掛けた。そしてそんな美緒の手には『赤外線スコープ』が。


 話の流れからして、その線を切り落とした途端、照明が落ちるのだろう。しかもこのフロアーが窓の無い地下1階ともなれば、たちまち2人はブラックホールに包まれる。


 迅速に事を進めながらも、ここは慎重にならなければならない場面だ。


「これ付けないで、どうやって前歩くのよ」


 既に美緒は『赤外線スコープ』を装着済み。とにかく行動が早い。


「ふんっ!」


 摩耶は大人気なく美緒の手からそれを剥ぎ取ると、素早く『赤外線スコープ』を装着した。


「じゃあ、そろそろ切るわよ」


「いつでもどうぞ」


 美緒は矢継ぎ早に腕時計をストップウォッチモードに切り替えた。摩耶が配線を切り落とした瞬間に、僅か30分のカウントダウンが開始される訳だ。


「じゃ、じゃあ......切るわよ」


「だから、い・つ・で・も・ど・う・ぞ」


「あっそう! もうどうにでもなれ! えいっ!」


 バチッ、


 ガガガガ......


 ............


 ............


 ............


「ちょっと......どうしたのよ?」


「いや、なんか......凄い固くて。よしっ、気合いを入れてもう1度。えいっ!」


 ガリガリガリ......


「早く切り落としなさいよ」


「簡単に言わないでよ! 何とか被覆の1枚目は剥けたんだけど......これってかなり手強いわ」


 ガリガリガリ......


 ガリガリガリ......


 どうやら、重要な主幹電力の配線だけに、何重にも被覆が施されているようだ。


「だったら銃で配線を撃っちゃえば?」


 などと語りながら、美緒は既に銃を握っている。


「それはダメ。このフロアーには可燃性の貯蔵庫が有るから、二酸化炭素消火設備が設置されてるの。銃なんか撃ったら、赤外線感知器が作動してここに閉じ込められちゃう。


 その後には二酸化炭素が放射されて窒息死。南無阿弥陀仏よ。仮に脱出出来たとしても、すぐに無数の警備員達が真っ先に下りて来る事は間違い無いわね」


(※二酸化炭素消火設備:火災が起きた際、二酸化炭素を放出し、酸素濃度を減らして消火する設備。人間が区画内に取り残されると窒息死する。


 現実的には、二酸化炭素消火設備が赤外線感知器で自動起動する仕様は有りません。小説の中での話です。)



「だったら......早く切りなさいよ。もたもたしてたら警備員達が怪しんでここに来ちゃうじゃない!」


 美緒がもた付く摩耶に対して、遂に癇癪を起こしたその時だった。


 ギー、バタンッ!


 突如、地下1階の扉の開閉音が響き渡る!


 !!!


 !!!



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