第3話 サンプリング
しかし完全無視の3人。圭一はお構い無しに次なるステップへと2人を誘っていく。
「よしっ、2人ともイッパシの警備員だ。防犯カメラの映像ならバレやしないだろ。
与えられた時間は、電力を落としてから30分。それを過ぎたらビルから出れなくなるから十分注意してくれ。
なぁ~に、2人なら出来るさ。それじゃあ、後程例の場所で落ち会おう。この警備員達は俺が連れて行く。それじゃあ幸運を!」
2人に軽く敬礼すると、居眠り警備員達を引き摺りながら、鮮やかに『穴』の向こうへと退散して行く圭一だった。
そんな圭一の背中をずっと目で追っていた摩耶が、少し心細くなったのか? 今度は不安気な顔して美緒に言葉を掛けた。
「取り敢えず無線はどうするの? このまま応えなかったら不振に思われちゃうんじゃない?」
「ちょっと待って......今やってるんだから。え~と、サンプリングしたのがこの声で、そんでもって、ああして、こうしてっと......よしっ、出来たわ」
何をサンプリングして、何をどうするのか? 何て事は全く分からない。ただ美緒が『出来た』と言うのだから、この窮地を乗り切る何かが出来たに違いない。
そして摩耶がその答えを知るまでに、然したる時間を要す事は無かった。
やがて美緒はハンズフリーマイクをセットすると、無線機の通話ボタンをONにする。そしていきなり話し始めた。
「すみません部長! また大ネズミが出たんで退治してました。精密機械の配線でも噛み切られたら大変な事になりますからね。ああ良かった......大事に至る前に退治出来て」
言うまでも無く美緒の喉から発せられた声は女性特有のハイトーン。しかし、ハンズフリーマイクのアウトプットから飛び出した声はハイトーンに有らず。なんと、『腰抜かし』警備員の声そのものだったのである。
一方、そんな筋の通ったカウンターを返されては、再び怒鳴り付ける訳にもいかない。
『そっ、そうか......それはご苦労だった』
『防災管理室』の部長なる上司は、沸騰し掛けたヤカンに氷を投げ入れるより他に術は無かったようだ。
やがて警備員に変化を遂げた2人は、意気揚々と防犯カメラの前に姿を現すと、再び巡回と称し次なる『死角』へと姿を消して行く。
何なのこの人は?!
無線機で答えなきゃならなかったことも、防犯カメラに『死角』が有る事も、初めっから分かってたってこと? 分かってなければ、そんな準備なんかして来れる訳が無いじゃない!
更に......
ここへやって来る前から、この先へと進んで行くのは、あたしと美緒さんの2人と決まっていた。それで結局あたし達の前に現れた警備員は、注文通り2人で、今あたし達はその服を奪って次のステップへと進んでる。まさか千里眼でも持ってるって言うわけ?
もっと言っちゃうと、何でまた隣のビルの地下1階でちょうど大きな工事なんかやってたのよ?
確か......『カルラ物産ビル』とか書いてあった気がするんだけど。たまたま? いや偶然にしても程が有るでしょう?!
それらの事が偶然だったのか?
それとも必然だったのか?
何て事をあたしがどんなに考えたって分かる訳も無いんだけどね。
ただ1つだけ、間違い無く言える事がある。それは、この人達と行動を共にしていれば、間違いなく『マーメイド』と再会出来るってこと。
決して、こうあって欲しいなんて言う願望から起因した確信じゃ無い。それは多分、あたしがこの『EMA探偵事務所』の実力を心から認めた瞬間だったんだと思う。
やがて......
摩耶がそんな自問自答を繰り返しているうちにも、美緒は目の前に広がる一際大きな鉄扉を開き放っていた。
そしてそんな扉には『電力操作盤』なる大きな文字が。
「さぁ、ここからはあなたの仕事よ」
美緒はLEDライトで盤を照らしながら、摩耶にそんな言葉を投げ掛ける。とにかく展開がやたらと早い。摩耶は付いて行くのに必死だった。
「わ、分かったわ......」
すると摩耶は、美緒から手渡されたニッパーを慌てて一際太い『青』なる配線に当てた。
ふぅ......ここで摩耶は一旦間をおき大きく深呼吸。そしてゆっくりと解説を始めた。
「まずはこの青い線。第一発電機と繋がってる重要な配線。これを切断しちゃえば、大元の電力がダウンした後、第一発電機からの電力が供給が出来なくなる。じゃあいいわね......切るわよ」
「存分に」
パチンッ。
すると『青』の線は、配電盤から見事切り離され、ブランと垂れ下がりを見せた。この時点では、警報が鳴るとか、真っ暗になるとか、一切異変は見られない。




