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第12話 火炎放射機

 その者が現れた途端、それまでいきり立っていた犬達もあれよあれよと言う間に戦意喪失。耳はペシャンコに垂れ、なおも、キャン、キャン、キャン!......悲鳴を上げ続けている。


 逃げ惑うわ、逃げ惑うわ......100匹居たはずの大型犬も、いつの間にやら50、30、10匹......と姿を消していった。


 そしてなぜだか、足元にはこんがり焼けた『ローストドッグ』達がバタバタと。焦げ臭い臭気が部屋中に立ち込めている。


 オレンジ色の光


 放射音


 この2つの『点』を結び付ける『線』はなんと、


「「かっ、火炎放射器!」」


 だったのである。


 群がる犬達を蹴散らす攻撃アイテムとしては、正に最適とも言える武器だったに違いない。



「もうこんなもんでいいっか?」


 やがて颯爽と現れたその者が、背中にしょってるガスボンベのコックを『閉』に戻すと、2人の視界からオレンジ色の光が闇夜の中へと退散を始めていった。


 全身迷彩服


 真っ黒な巨大ゴーグル


 長い黒髪


 その者の装いを中継するならば凡そそんな所だ。体躯、声からして、女である事は間違いない。


 果たしてこの者は敵なのか? 


 それとも味方なのか?


 少なくとも......今自分らは窮地から脱した訳なのだから、よもや敵と言う訳でも無かろう。


 バチバチバチ......壊れたベッドから黒煙が立ち上がる中、エマとポールが地面に着地を果たすと、2人が口を開くよりも早くその者は語り始めた。


「これで懲りただろ。ここはお前らみたいな物好きが冷やかしで来るような場所じゃ無い。さっさと帰れ。それと......あたしの事は誰にもしゃべるなよ。以上だ」


 こっちに話す間も与えず、言いたい事を一気に言い終えると、あっさりと背を向け立ち去って行く『火炎放射器女』だった。


 コツコツコツ......


 一方、そんな女の背中に向かって、


「あんた......公安の人間だろ」


 いきなり爆弾を投下するエマ。


 すると、ピタッ。突然足が止まる。


 そして......


「これはあたしが手掛けた『ヤマ』だ。邪魔すると殺すぞ。分かったらとっとと帰れ」


 コツコツコツ......またしても言いたい事を言い放って、闇夜へと消えていく火炎放射器女だった。



 バチバチバチ......


 未だベッドからは炎が立ち上がり続け、もくもくと黒煙が舞い上がってる。そんな中、ポールはと言うと、


「あの人......間違いなくプロデスネ」


「素人が火炎放射器ブチまけないだろ」


「デスヨネ......でも何だか......格好ヨカッタ」


 恐らく年の頃、30はいっていないだろう。顔はゴーグルで包まれていたからよくは分からないが、顔のパーツの配置からして、そこそこの美人である事は間違い無い。


「なんか......『ヴァローナ』のディアナに雰囲気が似てたな」


「アレ? エマさんもそう思いマシタ? 長髪でしたシネ。もっとも金髪じゃ無かったデスゲド......それと、何で公安の人間って思ったんデスカ?」


(※ディアナ:『傷だらけのGOD MARAの呪い』に登場する巨大組織『ヴァローナ』の英雄。興味の有る方は、是非とも同作をご拝読下さい)


「公安の局長が公園の『圭一御殿』で言ってただろ。サバイバルマニアの強者を送って交信が途絶えたって。あたしはあの女の姿を見た瞬間、こいつはサバイバルマニアだって思ったぞ」


「確カニ......火炎放射器ヲ見事に使いこなしてましたし、エマサンが『公安だろ』ッテ言った時、否定してませんでしたモンネ。デモ......彼女は何でまだこんな所に居るんでショウ?」


「もしあたしが彼女で、尾行してた相手を見失ったとしたら、おめおめ公安に帰るとでも思うか?」


「イヤ......在りかヲ掴むか、取り戻すまで絶対に帰らないデショウネ。なるほど......そう言う事カ」


「女って言う生き物はな、意外と執念深いもんなんだよ。美緒がそうだろ?......よしっ、長居は無用だ。出発するぞ」


「了解!」


 タッ、タッ、タッ......

 タッ、タッ、タッ......



 時刻は21時を回ろうとしていた。


 エマとポールの2人に取って、長い夜は始まったばかり。この後まだまだ数多の試練が待ち受けている事など、もちろんこの時点で知るよしも無い。


 ギー、ギギギッ......


 そして更に、


 数多の防犯カメラが、この部屋で起きた一部始終を捕らえていた事なども、もちろん2人が知る訳も無かったのである。



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