第6話 殺気
そして3階フロアー。
見渡してみれば、ここも1階同様、見事な程に荒れ果ててる。ガラクタで足の踏み場も無いほどだ。
天井やら、壁やら、柱やら......至るところに張り巡らされたクモの巣には、蛾やら、ハエやら、ムカデやら......そんな悪しき景観が、この廃墟なる空間をより悪しき空間へと誘っていた。
すると、
ガサッ、ガサッ、ガサッ......
「なんだお前、帰ったんじゃなかったのか?」
気付けば、クモの巣まみれのポールが後ろに引っ付いてた。何だかんだ言っても、彼が男であるが故に、男を見せたかったのだろう。
「エマサンが行くとこナラ、例え火の中、水の中ってとこデスカネ」
「火の中、水の中よりもっと恐い所かも知れんぞ。ハッ、ハッ、ハッ」
「ハッ、ハッ、ハッって......どこが面白いんデスカ?」
「おっとポール、『面白い』の見付けたぞ」
「ダカラ何が『面白い』んデスカッテ?」
「これだよ、これ」
見れば、足元に立派な撮影用カメラが転がっている。
「サッキの3人が慌てて落としてったんでショウカネ?」
「多分そうなんじゃないか? どんなに慌ててても、商売道具を現場に置いてっちゃいかんな」
エマはそんなカメラをまたいで通りながら、なおも奥深くへと歩を進めていく。
やがて2人は、最奥の部屋の前で揃って足を止めた。なぜそこで立ち止まったのかと言うと......
「めちゃめちゃ不気味デスネ......何ですかコレハ?」
見ればその部屋の横引き扉には、無数の『お札』が。10枚や20枚のレベルじゃ無い。
「まぁ、普通に考えれば、この部屋に入っちゃいかん! って事になるんだろうな」
「さすがエマサン、分かってるじゃナイデスカ。きっとサッキの連中もコノ部屋の中に入ってあんな事になっちゃったんデショウ。危ないトコロでした。サァ、ハヤク帰りまし......」
「よし、入るぞ」
「ゲゲゲッ! マジデスカッ?!」
「当たり前だ。お前......感じないのか?」
「感じないノカ?って......何が? 部屋の中カラやたらと『霊気』は感じてますガ......」
正直、ポールはエマが何を言いたいのか全く分からなかった。エマのそんな問い掛けに対し、ただ首を傾げる事くらいしか出来ない。
「あたしはな......この階に上がって来た途端、背中がゾクゾクしてるよ」
「ダカラ、『霊気』でショウ?」
「『霊気』? そんなんじゃ無い」
「じゃあ、一体何なんデスカッ?!」
いい加減、さすがのポールも癇癪を起こした様子。エマが何を言いたいのか、未だ全くもって理解出来て無い。
するとエマが鋭い眼光を『お札』だらけの扉に向けながら、やがて静かに口を開いた。
「殺気だよ。さっきからあたしの皮膚がピリピリしてるぜ」
きっと何度と無く死地を潜り抜けて来たエマだからこそ感じ取れる超能力みたいなものなのだろう。そして、そんなエマの感覚に狂いが無い事を誰よりも知っているポールだった。
「殺気?! じゃあコノ部屋の中に一体何ガ?」
「そいつはこの中に入ってみないと分からん。とにかく今は、幽霊だとか霊気だとか、オカルトの事は一切忘れろ。現実を直視して臨機応変に対応していかんと命取りになる。
多分話すとお前が怖がると思って言わなかったんだけど......幽霊見たさでここへやって来た『物好き』がその後立て続けに死んでる。
それって......呪い殺されたとでも思うか? そんなの有る訳無いだろ。ここへやって来るのが人間ならば、それを殺すのも人間しか居ない。
まずはこの『お札』を見てみろ......まだ見るからに新しいじゃんか。もちろん貼ったのは『人間』だ。じゃあなぜその『人間』は、こんな所に『お札』を貼ったりしたんだ?」
「ウ~ン......恐がらせて、コノ部屋に入らせないタメ? イヤ......その逆カモ。何か有ると見せ掛けて、実はコノ部屋に入らせるタメ......トカ?」
「中々いいとこ突いてるじゃんか。あたしは後者だと思ってる。まぁ......それも入ってみれば分かること。ここでウダウダ言ってても始まらんって事だ。よしっ、ポール......準備はいいか?」
「ガッテンです。エマサン!」




