第3話 竜奴瑠(りゅうどる)病院
そんなイライラモード全開の中、雪道を歩く事10分。
立ち込める霧の中、やがて目の前に人為的建造物が浮かび上がって来た。
「おっと、何だありゃ?」
「バリケード......デスカね?」
「何だか、やたらとごっついな」
突如目の前に出現したもの......それは2人が言ったように、これ以上奥へ進ませないが為に設置された頑強なバリケードだった。
数人で動かそうと思っても、そう簡単に動かせるような柔な代物では無い。
バリケードの高さは約2メートル。側道の端から端までに至っている。しかもグロテスクな有刺鉄線が隙間無くグルグル巻きに。
バリケードのド真ん中には、『この先閉鎖中につき、入るべからず』そんな錆び付いた看板がこちらを睨み付けている。よっぽど入って欲しく無いのだろう。中々手の込んだ造作だ。
そしてそんなバリケードの手前には、1台の車が停まっていた。見ればどこにでも走っているようなファミリーカー。いわゆるミニバンってやつ。
窓こそは雪で白く染まっているけど、車が雪で埋もれてるって程でも無い。バリケードで通せんぼされてるからここで車を停めて、歩いてこの先へと進んだのだろう。
「エマサン、この車のエンジンまだ温かいデス。多分ここへ来てからまだ1時間も経っていないデショウ」
「おい、これ見てみろ。ここの有刺鉄線が切られてるぞ。足跡の数からして、この先へ進んだのは3人。靴の大きさからして、多分男2人と女1人だ。
確かにまだ足跡が雪で完全に埋まっていない。お前の言う通り、1時間も経っていないんだろう」
普通ならこのバリケードを見て諦めそうなものだが、更に進んだって事は、余程根性が据わった者達に違いない。全く頭が下がる話だ。
「イヤァ、エマサンに褒められるナンテ恐縮デス。ソレニシテモ......有刺鉄線切ってマデ進むって事ハ、やっぱ慣れた者による幽霊探索が目的なんでショウネ」
「この時点じゃはっきりとは分からん。でも多分、そんなとこなんじゃないか? タクシーの運ちゃんも言ってたしな」
エマがバリケードの先に懐中電灯を当ててみると、側道は緩やかな上り坂。この先も歩いて進むには、かなり体力を消耗しそうだ。それでも進むしか無かった。
「よし、進むぞ」
「了解!」
2人は先客がご丁寧に作ってくれたバリケードの『穴』を感謝の気持ちで潜り抜けると、更なるブラックホールへと足を踏み入れて行った。
もちろん雪道を歩く事は想定内。故にエッジの効く靴を履いて来た訳だが、別に雪国育ちって訳でも無い。足元の悪さは2人の体力を容赦なく奪っていく。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
そして、そんな上り坂を千鳥足で歩く事20分。ピタッ。突如2人の足が止まった。
「エマサン、何の建物デショウ?」
「多分......あの感じだと、病院ってとこじゃないか?」
見れば、扇状に広がった左右対称の建物が、霧の向こう側でぼんやりと浮かび上がってる。はっきりとは分からないが、地から這い上がった無数のツタが、屋上にまで這い上がってるようだ。
突然目の前に出現したそんな景観は、とにかく不気味この上も無い。見ているだけで背筋がゾクゾクしてくる。
真冬に怪談話......なかなか宜しくない組み合わせだ。
「山上公安局長ガ言ってたトラック追跡者の足取りが途絶えたノモ、ちょうどこの辺りだとオモイマスヨ」
ポールはスマホに映し出されたGPS画面と昭和時代の旧地図を見合せながら見解を述べた。
「いよいよやって来た......って事だな」
「アア、有った......ここカ。古地図ダカラ文字が掠れて見ずらいナ。リュウド......ル......」
「竜奴瑠病院」
「ソウ! 竜奴瑠病院デス。よく分かりましたネ」
ポールが旧地図から目を離し顔を上げてみると、エマが何やら5メートル程先で、塀の一部を指差している。
「病院の看板だ。風化しててはっきりとは見えないけどそう書いてある」
「ナンダカ難しい漢字デスネ。竜の奴隷デモ居るんデスカネ?」
「とにかく中へ入ってみれば分かる事だ。公安の追跡者がこの辺りまで『マーメイド』を追って来た事は間違い無い。ならば必ずどこかにヒントが隠されてる筈だ。さぁ、噂の竜奴瑠病院とやらに突入するぞ」




