第2話 一本道
やはりこの運転手は情報通。しかも話好きときてる。
聞いてもいないのに、貴重な情報をじゃんじゃん落としてくれる事は正に『棚からぼたもち』と言えた。まぁ、遊園地の子供の話は別にどうでもいい事かも知れないが......
ブウォ~ン、ガガガガッ、ドドドドッ......
スパイクタイヤが雪道にエッジを効かせながら、右へ左へと更なる山道を上り詰めていく。
正確な事は分からないが、恐らく標高1,000メートル辺りまでは来てるんだろう。そして運転手は相も変わらず殆どブレーキを踏んで無い。もう揺れるわ揺れるわ......
「エマサン......やっぱ、ビニール」
「飲み込めよ」
「ハイ、飲み込みマシタ!」
「お前......それ凄い特技だぞ」
そんなこんなで......キー、キキキッ。やがてタクシーは、突然路肩に停車したのである。
「お客さん、着いたよ」
だそうだ。
「えっ、ココ?」
嘘でしょう? 2人は目を白黒させて互いに顔を見合わせた。
見渡す限り外は鬱蒼とした森ばかり。炭鉱跡らしき物も見えなければ、廃墟すら見えやしない。こんな所で下ろされて、どうしろって言うんだ?
「左先に細い側道が見えるだろ。炭鉱跡とゴーストタウンはその先だ」
「あの、運転手さん......もうちょっと先までは行ってくんないんだ?」
エマは当然とも言える質問を繰り出してみた。
外の気温は0℃前後。更にそこが小雪舞う山道である事を考えれば、少なからず体力の消耗は免れない。予測不能なるこの後の展開を考えれば、少しでも体力を温存しておきたいところだ。
「あの側道の先は、どこにもUターン出来る場所が無いんじゃよ。バックで戻って来るのはさすがにちょっとキツい。
まぁ、そんなに雪も深く無いし、大した坂道って訳でも無い。あんたらの若さなら楽勝だ。それと......ほれ」
見れば運転手は名刺を差し出していた。
「今ちょうど7時半。バスはもう終わっとるから足はタクシーしか無いぞ。帰る時はここへ電話するといい。うちの会社だ。
24時間何台かは走ってる筈だからきっと誰かが迎えに来てくれるだろう。はい、3,600円。まいど!」
ブルルルン......ガガガガッ。
やがてタクシーは2人の目の前で豪快にUターンすると、元来た道へと逃げるようにして帰っていった。長居は無用......霊気漂う空間であるが故に、きっと誰もが同じ事を考えるのだろう。
目を凝らせて見渡してみれば、どこもかしこも深い森ばかり。外灯などと言う都合のいい設備は、もちろん存在してない。
つまり、真っ暗な森の中でポツンと2人だけって事になる。ポツンと一軒家ならば、まだ家が有るだけましだ。
やがてポールが、
カチッ。思い出したかのように、懐中電灯に火を灯す。
すると、
「うっ、うわぁ!」
エマの眉毛が跳ね上がる。
「どうかシマシタ?」
「お前......懐中電灯、顎の下から照らすなよ!」
「ナンダ......エマサンでも恐いものがアルンダ......」
「うっ、煩い! ちょっとビックリしただけだ」
イケメンに天然......このアンバランスさがまた彼の魅力なのかも知れない。
そんなこんなで途方に暮れてたところで、目的地が近付いて来てくれる訳でも無かった。
懐中電灯の灯りを頼りに、エマとポールの2人は第1歩を踏み出して行ったのである。
森の中へ足を踏み入れた途端、今度は霧が立ち込め始め、2人の視界を容赦なく奪っていく。それはまるで、森が招かれざる客の到来を拒んでいるかのようにも思えたりする。
ちなみに、タクシーの運転手が言ってた通り、側道は車1台がやっと通れる程度の幅しか無かった。しかもデコボコで歩くのもやたらと苦労する。
この先、ゴーストタウンまでどれ程の距離が有るのかは分からないが、この道をバックで戻って帰るのは確かにキツそうだ。
「エマサン......やっぱ車で来た方が絶対良かったデスヨ。僕があんなに言ったノニ......」
まだ歩き初めて50メートルもしないうちに、早くもポールが音を上げ始めた。
「そんな事言ったって、お前のHUMMERは木っ端微だし、圭一の車は今あいつが自分の仕事で使用中だ。だから仕方無いわな。
ん、なんだ? あたしの車を何で出さないのかって? ダメダメ! 雪道なんて走ってキズ付いたらどうするんだ?」
「ハァ......」
鼻と口から白い溜め息を吐くポール。どうやら、呆れてものが言えないらしい。もう黙って歩くしか無かった。
ズズッ!
「ヒィッ!」
ツルッ!
「オットット!」
ガバッ!
「ハッ!」
「お前さ......少し静かに歩けないのか? いちいちビックリするだろ」
「声デモ出してなきゃ、寒くて恐くてやってられマシェン。ハッ、ヘッ、ホッ!」




