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第30話 質量保存の法則

 やがてそんな私達の気持ちが神様に通じたのか、これまでの常識を覆す、画期的な研究結果が現れたのです。


『マーメイド』の一部を粉砕し、粉状にした物をある一定の温度、湿度、に保ったところ、エメラルドグリーンから薄ピンク色に光を変えました。


 そしてその光を増幅させ、レーザー状にして小型マウスに照射したところ、なんと! マウスが一瞬にして消滅してしまったのです。いや、消えたと言った方が正しいのでしょう」


「それって......何かの気体に変化したとかじゃ無くて?」


 もちろんそんな質問を繰り出したのは他でも無い。美緒だ。話のレベルが高くなり過ぎて、もはや他の誰も質問すら出来ない状態だったと言えよう。


「もちろん完全密封されたビーカー内での実験です。小型マウスを入れたビーカーの重さは60グラム。その内訳は、ビーカーが50グラム、小型マウスが10グラムです。


 そして実験後、小型マウスが消滅した後に再び計測してみると、結果は50グラム。それはちょうど小型マウスの体重分が減った数値と完全に一致します。


 つまりその事は、一定の条件下において『マーメイド』の粉末から発せられた光を照射した結果、マウスは化学変化を起こして別の物質に変化を遂げたのでは無く、完全消滅した事の証となるのです」


「詳しい数値の事はよく分からんけど......確かにそれは飛んでも無い結果と言えるな」


 学生時代に居眠りばかりしていた圭一でも、その実験結果が飛んでも無い事くらいは理解出来たようだ。


「つまり......『質量保存の法則』の常識が覆されたって事ね」


「間違いなく、そう言う事になるでしょう」


「イヤァ、摩耶サンの説明が上手いカラ、学識の無い僕デモ大変よく分かりマシタ。それはそれとして......問題はその次の話になるカト思うのデスガ......」


「『マーメイド』の利用価値ってとこだな」


「確かにそこが大事な所だ」


 再び5人10個の目は、一斉に摩耶へと向けられた。そして摩耶は目を輝かせ、再び語り始めたのである。



「『マーメイド』は言うならば『諸刃の剣』です。実験結果から、まず私達研究員が真っ先にイメージしたのが医学利用。


 ガン細胞に『マーメイド』をピンポイントで照射すれば、他の細胞に一切の影響を与える事無く、ガン細胞だけを消滅させる事が出来る訳ですから。


 もちろん私達研究員の目的も医学利用にあった訳ですから、みんな涙を流して小躍りした事は今でも忘れません」


 摩耶は当時の事を思い出しながらしみじみと語る。きっと話を聞いているエマ達の頭にも、その時の様子が映像として流れていたに違いない。



「『諸刃の剣』って事は、その逆の『利用価値』も存在するって事だな。具体的にその『逆』についても説明してくれ。おい圭一、コーヒーとハムエッグのおかわりくれないか」


 エマは空となったカップと皿を圭一に差し出しながら、話の続きを即した。


『マーメイド』の医学利用だけの話であれば、何も公安が動く必要も無いし、よもや摩耶も黙って『マーメイド』を盗み出す必要も無かったはず。


 この事件の確信は正に『逆の利用価値』......そこに尽きると言っても過言では無かった。


 やがて摩耶は三度語り始める。


「死体は事件の真相を語ると言います。もし人を殺して、その死体が消滅したならば、事件はきっと迷宮入りする事でしょう。


 更に『マーメイド』から発せられる光源を増幅する事が出来るようにでもなったら、何の証拠を残す事なく、一瞬にして、数千、いや数万の人間を簡単に殺す事が出来る筈です。


 そして遂に私はうっかり聞いてしまったのです。『マーメイド』をマフィアに売り渡す話を。聞いてしまった以上、もうああするしか無かった。でもこんな結果になってしまって......本当に、ごめんなさい」


 その時、エマを始め圭一も美緒もポールも身体がガクガクと震えていた。


 もし『マーメイド』の研究が進み大量虐殺が可能となってしまったら......


 そしてそんな物がマフィアに売り渡されようものなら......


 そして更に、不穏な動きを見せ続ける第三国へ渡るような事にでもなったら......


 きっと人類は滅亡の危機に晒される事になるだろう。その事に気付いた4人の驚きは計り知れないものがあった。



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