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第27話 バリスタ

 そんな2人の職員は顔を真っ赤にして丘を駆け下りて行くと、そのままくどいようだがブルーシートを潜り抜けて行った。


「いらっしゃい。ちょうどコーヒーが出来上がったところだ。フランソワーズの横にでも座っててくれ」


「ありがと」


「お世話様です」


 言われるがまま、高級イラン製絨毯の上に腰を下ろす2人。


 黒眼鏡『職員』の方は余裕の表情を浮かべているが、もう1人の茶髪イケイケ風『職員』の方は何か落ち着かない様子。ただじっと『バリスタ』を見詰めている。


 何か言いたそうな様子にも見えるが、誰も口を開かないのできっと喋るタイミングを掴めないのだろう。1度は開き掛けた口を思わず閉じてしまう。


『バリスタ』はそんな茶髪イケイケ風『職員』の視線に気付いているのか、いないのか? 気に留める様子もなく、今ちょうど出来上がったばかりの特製ブルマンブレンドをテーブルの上に置いていった。



 因みに、今ここに顔を合わせたのは言うまでも無く、エマ、圭一、美緒、ポール、そして美竹摩耶の5人。


 そして圭一がテーブルの上に置いたコーヒーカップの数は、1、2、3、4、5、6。全部で6個だった。


「もう間も無くやって来ると思います」


「オット、噂をスレバ何とやら......ってとこデスカ」



 ザッ、ザッ、ザッ......


 ダンボール1枚だけの壁であるが故に、丘を下りて来る足音が筒抜けで聞こえてくる訳だ。大股なる歩調から察するに、恐らく大柄な男性の到来と思われた。



 やがて、バサッ。乱暴にブルーシートが開かれると、


「じゃまするぞ」


 太い声が狭い『リビング』に響き渡る。


「どこでも好きなとこへ座ってくれ。まぁ、大した歓待は出来ないがな」


 ホストの圭一が、ぶっきらぼうにそんな声を掛けると男は「ふんっ......」軽く鼻を鳴らしてエマの横のカウンター席に腰を下ろした。


 見れば野球帽を深く被り、右手に釣竿、左手にはクーラーボックス。まさか公園の噴水で、釣りでもおっ始めるつもりなのだろうか? 


 すると、今度はエマが口を開いた。


「みんなに紹介しておく、この薄汚いおっさんが今回の依頼者、国家公安局長の山上龍一やまがみりゅういちさんだ」


 公安局長?! 


 驚きの色を隠せないポール、美緒、摩耶の3人だった。恐らく同3人には、この者が到来する事を知らされて無かったのだろう。



「全く、見事に失敗しおって。お前らいつからヘボ探偵に成り果てたんだ?」


 山上局長が愚痴の如くそんな僭越なる言葉を吐き捨てると、美緒はチラリ、摩耶を睨み付ける。


『こいつのせいだ』


 口には出さずとも、目がそのように語ってる。


 結局のところ......


 最後の最後で消防士に扮した何者かに『マーメイド』を奪われてしまった。その事がさぞかし美緒のプライドを傷付けたのだろう。



「直ぐに取り返してやるから心配すんなって。俺達には難事件を解決して来た経験とスキルが有る。まぁ、大船に乗ったつもりでいてくれ」


 圭一が悪びれもせず、つっけんどんに言い放つと、


「大船に乗ったつもりだと? ふざけるな! 今回の一件で俺の顔は丸潰れだ。こんな所で優雅にコーヒー飲んでる場合かっ?!」


 山上局長はそんな怒鳴り声を立ち上げると、勢いのままコーヒーカップを振り上げる。


 おっと、カップ投げ飛ばすつもりか?! 


 などと思いきや......カップが高そうなアンティークである事に気付くと、そのまま静かにテーブルへとカップを下ろしていく。


 コトン。


 山上局長は公安の局長だけあって、冷静なところは冷静なようだ。


 やがてエマが、


「そろそろ本題に入るとしよう」


 頃合いよし......そんな気持ちから重い口を開くと、途端に空気が引き締まりを見せる。


 するといち早く言葉を発したのは、やはりこの男だった。


「お前達が一旦は奪取した『マーメイド』だが、情報によると、今また帝国化学工業(以降『帝工』)の手に戻ったようだ」


 山上局長が忌々しい表情で語る。


「なんですって? 『マーメイド』をすり替えた消防士は、帝工の人間だったってことなの?」


 そんな山上局長の言葉に、美緒が真っ先に反応を見せた。彼女に取ってはそこが一番気になる所なのだろう。


「裏じゃ相当悪どい事やってる企業らしいが、帝工は探偵でも傭兵でも無い。実行犯は奴らの上層部とつるんでる『裏街道』の人間だ。どこの組織かはまだ分からんが、今局を上げて調査中だからじきに分かる事だろう」



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