第4話 決意
「そうか......もしかしてあの帝工社員も誘拐されたのか?」
「そうだよ。あんた何か情報は持って無いのか?」
「つまりそっちの方も有るから迂闊に国外へ出れないってことな訳か」
「まぁ、それも有る」
「全く......お前らも落ちたもんだ」
「うるせぇ! マスターもう1杯くれ」
「はいはいはい......今作ってますよ。ちょっと濃いやつをね」
カシャカシャカシャ......
気付けばいつも陽気な『BAR SHARK』も今日に限ってはお通夜状態。とは言っても、この後49日もの間じっとしてる訳にはいかない。とにかく2人はもはや動き出すしか無かったのである。
「残念だがそっちの女性2人のことに関してはまだ特段情報は入って来て無い。ただこっちも近代国家日本の公安だ。これから徹底的に情報収集してやる。
その代わりだ、直ぐに飛べ。それでマーメイドを取り返して来い! 国際機関に任せろだと? 日本で見付けたそんな危険物体が国外の犯罪組織に流れた何てことが知れたらこの国は終わりだ。
この話が世界に広がる前に何としてでも取り返して来い! 必要な情報でも武器でも物資でも何でもこっちで用意してやる。
お前ら達が行く場所はカザフスタンのアラル海だ! お前らに拒否権は無い。分かったな!」
そんな風に語った山上局長の顔はいつの間にやら血色を取り戻してる。
きっと彼に取って、それをさせることが絶対使命だったのだろう。
ここが勝負どころ!
そんな彼の強い熱意をひしひしと感じるエマと圭一だったのである。
ところがここで......
意外な反応を示したのはエマにあらず。圭一だったのである。
「あんた今、アラル海って言ったのか?」
「そうだ。アラル海はカザフスタンとウズベキスタンの国境に面した大きな湖だ。そこにヴェロニカの拠点が有る。それがどうしたのか?」
「そうだ......思い出した、思い出した、思い出したぞ!」
突然そんな叫び声を上げながらワナワナと震え出す圭一。額には青筋が浮かび上がり、自慢の短髪は見事なまでに逆立ちを見せている。
なんだか分からないが今にも火山が大噴火を起こしそうな勢いだ。
「思い出したって一体何をだ?!」
想像を絶する圭一の反応に思わず1歩身を引くエマだった。
「こうしちゃ居られません! エマさん、直ぐにカザフスタンに飛びましょう!」
「だからどうしたんだって! 少し落ち着けよ。ちゃんと話さなきゃ分からんだろ!」
「ああ、じれったい! 美緒さん達を誘拐した奴が美緒さんのスマホで言ってたんです。自分はアラルから来た人間だって! そん時は軽く流してたんですけど、今局長からヴェロニカの拠点の話を聞いて一気に繋がってしまいました!」
恐らく圭一の心は既に遠く西の戦場へと飛び立ってるんだろう。気付けば内ポケットの短銃を握り締めてる。
「つまりだ......美緒も摩耶もポールも、おまけにマーメイドも含めて全てがカザフスタンのアラル海に集まってるってことな訳だな?!」
一方エマもベルトに吊るした手榴弾の安全栓に指を掛けてる。まぁ、無意識だとは思うのだが。
「100%とまでは言い切れんが、かなりその可能性は高いと思うぞ? どうだ、行く気になったか?」
2人の求める全てが今そこに存在し、しかも公安が全面協力を約束した今この場において、もはや2人にそこへ向かわない理由は皆無と言っても良かろう。
「よし、口車に上手く乗ってやるよ。ただしあたし達の第一目標は仲間の救出だ。あとはあんたの提供する情報次第ってとこだろう。上手くいけばマーメイドも持って帰れるんじゃ無いのか?」
「よし、話はまとまった。直ぐに高飛びの準備をしてやる。とっとと準備済ませとけよ! それじゃあ失敬!」
嵐のように現れ、嵐のように消えて行く釣り人だった。魚は釣れなくても2人の大魚を釣ったその者はさぞかし満足したことだろう。
恐らくこれからエマ達が戦いを挑んでいくヴェロニカは、かつて無い程の強敵で有ることは間違い無い。
4人揃ってアラル海の魚の餌に果てることだって十分に考えられる。でももうエマ達に選択肢は無かった。
魚の餌になる位だったら、いっそのことアラル海の水を全部飲み干してやる!
そんな決意を既に固めた2人に、恐いものは無かった。
今物語は野球で言えば、ちょうど1回の表裏を終えたばかり。長い長い物語はいよいよ本題へ突入して行くこととなる。
ちなみに......
花輪凛は山上局長が言ってたように、本当に死んでしまったのだろうか?
まぁ焦ることも無い。次の章に入れば嫌がおうにもその答えを知ることとなるのだから......




