第3話 花輪凛
「俺達が知りたいのはポールのことだけだ。そんな訳で極力手短かに頼む」
そんな局長に対し、圭一はあくまでも塩対応を貫き通した。
「花輪凛と言ってな......とにかく優秀な奴だった。ただちょっとばかり血の気が多くてよ。
直ぐに撤退命令出したのに言うこと聞かないからこんなことになっちまったんだ。ほんとにバカな奴だよ......」
「あたしも彼女とは竜怒瑠病院で顔を合わせてる。その時に実は彼女には命を救われたんだ。今更だけど感謝してるよ。そうか、亡くなったのか......まぁ、これでも飲め。気持ちだけでも温まるだろ」
見ればエマはノンアルコールビールを差し出してる。エマは局長が下戸であることを知ってたからであるが故に。それはきっとエマが示す最大の優しさだったに違い無い。
いつも部下を危険な目に遇わせてばかりいるエマだからこそ、そんな局長の今置かれた立場が決して他人事には思えなかったに違い無い。
カシャ。
トクトクトク......
一方、そんなエマの好意に甘んじる局長。一気に出されたノンアルコールビールを飲み物を飲み干していった。きっと心の中では献盃とでも言ってたのでは無かろうか。
「それにしてもよ、何で死んだって分かったんだ? まさか死者が死んだって報告して来た訳でも無かろう」
その一方、圭一の物言いは相変わらずつっけんどんの一手だ。
「花輪凛に限らずな、潜伏させる連中には必ず安否確認の為の小さなチップを体内に埋め込んでる。心臓が止まれば反応が消える。まぁ、それだけのことだ」
「それで......ポールの方はどうなんだよ?」
頃合い良し......
そして遂に、エマは核心に触れていった。
「これはお前らに取って悪い話の方になるんだが......恐らく彼はまだ生きてる筈だ」
「はぁ? それが何で悪い話なんだ?! まぁ、いいだろう......それでその根拠は?」
一方、また襟首をたくし上げそうになる圭一。でもここは何とか踏ん張ったようだ。
「どうやら彼はヴェロニカに捕らえられたらしいぞ。
『このままだと彼はヴェロニカの拠点に連れてかれてしまう。だからあたしはこれから命を懸けて彼を救い出す!』
それが凛から送られて来た今際の際の報告だ。意味分かるだろ」
「つまり、花輪凛はポールを救出に失敗して命を落とした......そう言うことなんだな?」
「そうだ」
「それで、ポールは今ヴェロニカの拠点で捕らえられてる......これもそう言うことなんだな?」
「昨日帝工のチャーター機がカザフスタンに向かった。もう今頃は着いてる頃だろう」
「カザフスタンだと? ポールはそんなところに連れてかれちまったのか?!」
「ああ、そうだ。但し連れてかれたのは彼だけじゃ無いぞ」
「まさか......」
「残念ながら、そのまさかだ。止められなかった......」
「マーメイドが国外に流出しちまったって言うのか?!」
「簡単に言うと、そう言うことになる」
「でもそれが正しいとすると、もうあたしらの仕事の域超えてると思うんだけど......インターポールとかFBIとかの国際機関の出番じゃ無いのか?」
「つまりお前らは、連れてかれた仲間の救出には行かないってことなんだな?」
「そんなことは言ってねぇよ! 行くに決まってるだろ!」
「だったらついでにマーメイドも持って帰って来ればいいだろ。どうせ行くんだからよ!」
「そんな簡単なのか?!」
「お前らなら簡単だろ。秋葉秀樹も富士国もヴァローナも潰したんだから。それと、さっきから気に
なってたんだが......あと1人の姿が見えないな? あのキツヌ猿はどこ行ったんだ?」
見れば局長は辺りをキョロキョロ見渡してる。確かに今ここに居るのはマスター、エマ、圭一、局長の4人だけ。
もちろん美緒がここに居る訳も無かった。なぜなら彼女は、摩耶と共に帝工本社ビルで未知なる男に連れ去られてしまったのだから。
「誘拐されたんだよ! 帝工本社ビルでな。美緒さん、摩耶、すまん......俺のせいだ」
目に涙を浮かべながらそんな語りを入れる圭一。それまでの勢いは完全に失せてた。きっと自分を責めてるんだろう。
「圭一、もういいって......お前のせいじゃ無い。むしろ2人で潜伏させることを決めたあたしの責任だ」
きっとエマも圭一と同じ気持ちだったに違い無い。




