第2話 釣り人
「釣り人か......よしマスター、ロックを解除してやってくれ」
「はいはい、もう解除してますよ」
そう訪れた人間とは『釣り人』だったのである。
「何だか分かりませんが、きっと何か大事な話が有るんでしょう。でもまぁ、俺はあんま期待してませんけどね......」
「いい話だといいですね、お2人さん」
やがて、
ギー、バタン。
「邪魔するぞ」
見れば確かに釣り人だった。長靴履いて釣竿背負ってクーラーボックス持って完全防備と来てる。
「こんな時間に釣りおやじが何しに来たんだ? その暑苦しい変装止めた方がいいんじゃないか? 全然似合って無いし」
エマが肩肘立てて気怠そうな挨拶を披露すると、
「煩いわ! 誰のせいでこんなつまらん変装してると思ってるんだ!」
真っ赤な顔で挨拶を返す釣り人だった。どうやら本気で怒ってるらしい。大人気ない反応と言わざるを得ない。
「別にこんな夜更けに釣りしに来たって訳でもねぇんだろ? まぁ、座れや。たっぷり時間は有るしよ。公安の山上局長さん」
エマに負けず劣らずの気怠いオーラ満載の圭一。きっとこれが彼に対する対話スタイルで定着してるのだろう。お互いもう慣れっこだ。
「お前らは暇かも知れんがこっちは忙しいんだよ。おいマスター、何か飲み物くれ」
「はいはい......ドン・ペリニヨン・ロゼと水道水どっちがいいですか?」
「水で構わん。ただし氷入れてくれ」
「はいはい......」
そんなこんなで山上局長は出された水を一気飲み。余程喉が乾いてたんだろう。濡れた口をウィンドブレーカーの袖で拭き取ると、バサッ、倒れるようにして4人掛けテーブルの椅子に尻を付ける局長だった。
「それで......一体何の用なんだ?」
気付けばエマと圭一の2人は、カウンター椅子を回転させて山上局長に視線を合わせている。
美緒と摩耶が何者かに連れ去られ、ポールが火炎放射機女と姿を消してから早3日間......その間、何の情報も無くただ無駄な時間を過ごすだけだった2人。
そうともなれば、この男の来訪を密かに待ち望んでいたことは明らかだ。
やがで山上局長は、釣竿を床に撒き散らしながらゆっくりと口を開き始める。
「俺に取って最悪の話と、お前らに取ってかなり悪い話の2つだ」
そう語った局長の顔は明らかに沈んで見える。今持って来た2つの悪い話とは、きっと彼に取っても悪い話なのだろう。
「なんだ、いい話は無いのか? まぁいいさ......聞かせて貰おうじゃ無いか、その悪い話とやらを」
そんな風に語ったエマの顔は、いつの間にやら赤味を帯びている。きっと彼女の脳内コンピューターがフル活動を始めたのだろう。
「良し、まずは俺に取って最悪の話だ。非常に残念なんだが、炭鉱跡地にお宅のハーフと向かった俺の部下が死んじまったそうだ」
「えっ、あんたの部下って......火炎放射機女のことだろ? し、死んだって......そ、それで、一緒に行ったポールはどうなってんだ?!」
バタンッ!
突然血相を変えて立ち上がるエマ。その拍子で椅子が見事な転がりを見せてしまう。
「ま、まさか......ポールもなのか?!」
バタンッ!
続けて圭一も椅子をすっ飛ばし、次の瞬間には局長の襟首をたくし上げてる。きっと誰もがこの時、最悪の結末を想定したに違い無い。
「く、苦しい。落ち着けって! これじゃあ話も出来ん!」
「あ、ああ......す、すまん。そ、そ、それで、どうなんだ?! ポールは無事なんだよな?!」
突然我に返り、局長の襟首から手を放す圭一。でも1度鬼の形相に変わった表情は、そう簡単には戻らない。
「まぁ、ちゃんと話してやるから一旦椅子に座れって。頭に血が上った状態じゃまともな話も出来んだろ」
「わ、分かった......」
そんな局長のなだめに応え、一旦深呼吸して席に戻るエマと圭一。でも戦慄の表情は隠し切れない。当たり前だ。ポールの命に関わる話なのだから。
やがて局長はグシャグシャになった襟元を元に戻して、目を落としなが語り始める。
「まぁ、お前らには直接関係の無い話かも知れんが......ちょっとだけ俺の愚痴に付き合って貰えんか」
見るからにしおらしい......そんな印象を受ける。
正直、2人が山上局長のそんな姿を見るのは初めてかも知れない。きっとそれ程までに部下の死は彼に取って辛い出来事だったのだろう。




