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日々と予感と紙飛行機。下

⚠以降、本章は地震・火災等の自然災害を取り扱います

 ところ戻って朝星新聞社社屋の一階では、ヒサの作る昼餉の香りが立ち込めている。雷蔵が新聞部の青年達が書いた原稿を纏めていると、天井、つまるとこ二階の床からドン、ズルズルと不規則な足音が響いてきた。陣佐達は壁に掛かった時計を見て成程と頷く。


「そろそろ飯か。波留日も自分から降りようとするとは、今日は調子が良いんだな。よし、波留日降ろしてくる」


 陣佐は荷物を運び終えると、手の汚れを叩いて落とした。階段を昇ろうとすれば、波留日が二階からひょっこりと顔を出している。なんとその手には紙飛行機が握られていた。


「皆ー、雷蔵が書き損じた原稿で紙飛行機作ったんだ。二階から飛ばすからさ、みんな外に出て捕まえてよ」


 波留日が目を細めて笑う。昼餉に向かうための催促でないことを悟った陣佐は、腰に手を当て肩を竦めた。その奥では、雷蔵が血相を変えて首を横に振っている。


「何言ってんだよ、こっちだって忙しいし、おヒサさんなんて昼飯作ってるんだぞ」


 仕事が立て込んで気が立っているのか、陣佐は眉を顰めて少々声を荒げた。一方の波留日も子供のように頬を膨らませる。階段を通した応酬が古い家屋に響き渡った。


「いいから僕に付き合って! 雷蔵も、おヒサさんも、皆だよ!」


「お前なァ……」


 波留日お得意の我儘に、陣佐は項垂れため息をつく。そんな背中へ、ヒサが割烹着の裾で手を拭きながら歩み寄った。


「いいじゃない、陣さん。波留ちゃんが元気なら、あの子の言うことを聞いてあげるべきだわ」


 そう言って穏やかに微笑むヒサに溜飲が下がったのか、陣佐は一度大きく深呼吸をして上を向く。


「……分かった。終わったら直ぐ昼飯だぞ」


「やった、ありがと、陣佐」 


 陣佐の最大の譲歩に顔を華やがせ、波留日は不規則な足音と共にと編集部へと戻っていく。新聞の原稿をまとめた雷蔵が陣佐の元へ駆け寄り、顔を真っ赤にしながら慌てて遊戯の中止を訴えかけた。


「ちょっと陣さん、それ、一つでも逃したら俺の損じた原稿が……!」


「残らず捕まえればいいだろ。ほら、行くぞ」


 しかし陣佐はもう既に気持ちを切り替えているのか、雷蔵の額へデコピンをして廊下を進む。土間へ下りる手前、作業に追われる若手に声を掛けるのを忘れず。雷蔵は頬を膨らませてその様子を眺めて諦めたように溜息をついた。



 晴れ渡る真昼の青空の下、その日差しが容赦なく目を刺して雷蔵は顔を顰める。雷蔵と同じように庭に出た朝星新聞社の面々は、やいのやいのと声を上げて二階の窓から身を乗り出す波留日へと声を掛けた。波留日も満面の笑みで手を振り返している。自由の利きにくくなった身体は窓枠や壁で支えているのだろう。波留日が手を振るもう片方の手には、既に紙飛行機が握られていた。


「全員来たぞー」


 陣佐は掌で日除けを作りながら二階を見上げ、波留日へと呼びかける。そうすれば波留日は髪が乱れるほどに大きく頷き、腕を精一杯に伸ばして紙飛行機を天に翳した。


「はーい! 皆、いくよー!」


 波留日の呼びかけと共に、夏の残した熱く湿った空気へ飛行機が解き放たれる。白い飛行機は風に乗ってスゥと空を滑るかと思えば、案外きりきり舞いと煽られ、思わぬ方向へ落下した。落下地点を予測していた陣佐は虚を突かれ、ぶつくさと文句を言いながらそこへ駆け寄る。


「お前折るの下手だなァ!」


「そうやって思わぬところへ行くから良いんじゃないか! 次行くからねー! 一番紙飛行機を捕まえられた人は、陣佐に蕎麦でも奢ってもらうといいよ、ね?」


 波留日はニヤニヤと笑いながら陣佐を見下ろし、次の一機を天に翳した。あの餓鬼……! と青筋を立てる陣佐とは裏腹に、新聞部の若手やヒサは手を叩いて声を上げて空へ手を伸ばす。雷蔵もそうして騒ぐ皆を眺めて笑う波留日を見ると、漸く口角を緩めて一歩踏み出して上を向いた。


 そうすれば、思いがけず波留日とパッチリ目が合う。波留日は穏やかな微笑みから眉を下げてくしゃっとした笑顔を浮かべると、雷蔵めがけて紙飛行機を飛ばした。今度はしっかりと風に乗り、紙飛行機は雷蔵の胸に飛び込んでいく。


「それは運だ、雷蔵! 蕎麦は奢らねぇからな!」


 目を丸くする雷蔵へ、陣佐が悔しさを滲ませながら声を張り上げた。その声には怒気が孕んでいたが、雷蔵が顔を上げて陣佐を見遣れば、彼の顔は弾けんばかりの笑顔。雷蔵は思わず吹き出して笑い声を上げると、再び天に腕を伸ばした。


 波留日は満足そうにそのやり取りを見守り、そして何機も折った紙飛行機を空に放つ。小さな庭では風に乗る飛行機を我先に掴もうと賑やかな声が弾けた。


「これで最後だよ!」


 波留日は庭で待つ仲間達にヒラヒラと掌を振る。そうすれば雷蔵達も今まで取った紙飛行機を握った手を高く上げて応えてみせた。


「おう、来い!」


 陣佐の気合いの入った声を合図に、波留日は身を屈めてその姿を隠す。雷蔵達は固唾を飲んで再び波留日が紙飛行機を携えて顔を出すのを待った。


 しかし、窓から投げ出されたのは紙飛行機ではなく、風呂敷包み。最前列で待ち構えていた陣佐が血相を変え、宙を舞うそれを何とか落とさず腕に収めた。


「おい、何すんだ! って、何だこれ。雷蔵のと日々是好日に届いた原稿じゃねぇか! こんな大切なもの投げるんじゃねぇよ!」


 雷蔵が眉を顰めて二階を仰げば、波留日は目を細めて微笑み、じっとこちらを見下ろしている。陣佐の言葉には応えずに。雷蔵はその貼り付けられたような笑顔に胸騒ぎを感じ、眉を顰めて首を傾げた。


「……?」


 重く朽ち始めた身体で必死に窓際に寄り掛かる波留日は、雷蔵の視線をものともせず、ゆっくりと頭だけ振り向いて壁掛け時計を見る。針はもう直ぐ正午を指さんとしていた。波留日は目をきつく閉じて唇を噛み、大きく息を吐く。そして勢いよく顔を上げ、再び庭に並ぶ仲間達を見下ろして笑顔を見せた。


 その刹那、波留日の足元近く、雷蔵が使っている文机に置きっぱなしになっていた波留日の湯呑が、カタカタと微かに動き始める。角に置いていたそれは呆気なく重心が狂い、ゴトンと鈍い音を立てて落下し、畳の上に転がった。


 波留日はその音には振り返らず、小さく唇を動かす。その数、丁度、五文字分。


 微かな異変から始まった歪みは瞬く間に広がり、やがて地の底から這い上がるようなうねりとなって世界を根こそぎ揺さぶった。人が立っていられない程の衝撃が全てのものに襲い掛かる。


 悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んだヒサの頭の上に風呂敷包みを乗せ、陣佐は彼女を腕の中に収めて降り注ぐ瓦から庇った。新聞部の青年達も各々地面を這いながら頭を守り、念仏を唱えて天変地異が過ぎ去るのを待つ。雷蔵は地面に叩きつけられるように転びながら、ギシギシと悲鳴を上げる古い社屋を蒼白の顔で見上げた。


「っ……波留日! 波留日!」


「雷蔵さん何やってるんですか! 危険ですよ!」


 揺れが収まらない中、雷蔵は金切り声を上げながら波留日の名を呼んで社屋へ飛び込もうとする。すかさず地に伏せていた若手の一人が雷蔵の足を掴んで止めさせた。その間も地鳴りは止まず、社屋を支えているであろう柱が歪んで軋む音が響く。


「止めるなッ……! 波留日がッ!」


 不安定になった地面の上で足を掴まれ、雷蔵は抵抗する間もなく思い切り転んだ。それでも虫のように地を這い、何とか社屋へ手を伸ばす。しかしその最中、雷蔵を嘲笑うかのように一際大きく鈍い音が耳を劈いた。


 家の大黒柱が折れたのだろう。支えを失った社屋は、轟音を立てて呆気なく崩れ落ちた。雷蔵は息を呑み、立ち昇る土埃を呆然と眺める。


 揺れが収まり、陣佐はヒサの無事を確認してゆっくりと立ち上がった。空気が濁り、塵が喉に引っ掛かる不快感に咳をする。


「ははは……な、何だ、これ……」


 積み上げてきた何もかもがたった数秒でひっくり返された現実を前に、陣佐は引き攣った笑い声を上げた。惨状に呆然と立ち尽くす中、雷蔵の悲鳴が気の遠くなった陣佐を連れ戻す。


「波留日ッ! 波留日ッ、そんな、何で!」


 雷蔵は倒壊した社屋の屋根瓦を剥がしては投げ、剥がしては投げ、編集部があるであろう場所へ必死に呼びかけていた。陣佐は全身から血がサァと引いていく感覚に身震いし、それを振り払って雷蔵の元へ駆け寄る。


「波留日! おい、波留日!」


 陣佐も重い木材を退かして波留日を探した。茫然自失としていた若手達もややあってそれに加勢する。何度も名前を呼んで呼び掛けても、波留日の返事はない。


「嫌だ、波留日、波留日!」


 雷蔵が無理矢理に崩れた家の中にその細い身体を捻じ込ませる。そうして瓦礫へ顔を突っ込む雷蔵は、鬼気迫る面をしていた。陣佐も雷蔵を手助けしようと、重く横たわる柱を何とか持ち上げようとして足掻く。雷蔵が隙間に上半身の殆どを捩じ込んだ頃、潰れた社屋の中から激しく二人の罵り合う声が響き始めた。陣佐は重い柱を何とか取り払うと、雷蔵へ加勢しようと細い隙間を無理矢理押し広げて中を覗く。


「波留日、お前は一体何を言っているんだ、馬鹿な事を言わずに早く!」


 雷蔵は埃っぽく薄暗い、編集部であったであろう隙間へ必死に手を伸ばし、波留日に怒声を上げた。陣佐が目を凝らしてその暗がりを見れば、崩れて横たわる太い梁の後ろ、間一髪、床と天井の隙間にうつ伏せで閉じ込められた波留日がいる。足が不自由で目も弱った波留日があの隙間を抜けて這い出るのは困難だ。それを悟って陣佐は舌打ちをした。


「僕はいいから、早く逃げて! じきに火の手が上がる! だから逃げろ! 開けた場所に今すぐ! でも被服廠跡には絶対に行くな! あそこに行けば死ぬ!」


「何言ってんだ馬鹿モンが!」


 埃に咳き込みながら波留日が叫べば、陣佐は怒鳴り声を上げる。恐らくずっとこの調子だったのだろう。雷蔵は弱々しい声で縋るように手を伸ばす。


「波留日……。嫌だ……」


「雷蔵、君が取るべきはこんな僕の手じゃないよ。僕は……此処までだ」


 波留日は狭い空間の中で穏やかに笑い、ゆっくりと首を横に振った。雷蔵と陣佐は眉間に皺を寄せ、波留日を閉じ込める隙間を無理矢理にでもこじ開けようと板を剥がしたり梁を蹴って格闘する。しかし、重く頑丈な梁はびくともせず、苛立ちだけを募らせることになった。梁の下に手近にあった木の棒を噛ませ、梃のように持ち上げようとしたが、先に木の棒が悲鳴を上げて圧し折れてしまう。


「畜生がッ!」


 陣佐が青筋を立てて怒鳴った。伝う汗はこの灼熱のせいだけではない。そしてこんなにも陣佐が焦るのには理由があった。パチ、パチと木が燃やされて弾ける音と焦げ臭い香りが大きくなってきている。波留日の言う通り、昼時というのもあってあちこちで火の手が上がりはじめていた。それは昼餉の準備をしていた朝星新聞社も例外ではない。黒い煙が充満しはじめているのか、波留日と雷蔵はしきりにケホケホと咳を繰り返す。それでも雷蔵は波留日の逃げ道に邪魔になるであろう瓦礫を必死に取り除こうと足掻いた。


「誰か……! 陣さん! 陣さん!」


 陣佐も梁を退かすのを諦め、雷蔵へ加勢しようとしたその時、隣の家からヒサと新聞部の若手の悲鳴が上がった。陣佐が弾かれるように顔を上げれば、傾いた日向端邸から顔面蒼白のヒサが飛び出す。若手は彼女の切な悲鳴に身体が動いたのか、日向端邸へ駆け込んでいった。


「あまりのことに力が抜けたのかもしれないわ、キミちゃんが産気づいてしまったの! 明彦さんは仕事で居なくて……こんな場所でお産なんてしたら生まれる前に焼け死んじゃうし、キミちゃんもややも無事じゃ済まないわ!」


「キミさん、割れた窓硝子で怪我もしている! 早く逃げないと……!」


 次いで屋内の様子を見た若手の言葉に陣佐は思わず歯軋りをした。今、陣佐の前には燃え盛る街、産気づいた妊婦、倒壊した社屋に取り残された相棒という目を覆いたくなるような惨状が広がっている。陣佐は自らの心臓がキュウと縮こまり、血の気が引いていくのを感じた。浅い呼吸が不規則に繰り返され、陣佐はその息苦しさに首元を押さえる。


「陣佐! 彼女を助けて! 死なせないで!」


 顔面蒼白で立ち尽くす陣佐の耳を、喉が千切れんばかりに叫ぶ波留日の声が劈いた。呼吸を取り戻した陣佐は弾かれるように顔を上げる。陣佐は膝を折って屈み、伏せる波留日を真っ直ぐに見つめた。


「……それがお前の望みか」


「……そうだ。こんな朽ちる身体よりも大切な命がある」


 波留日は暗がりの中でしっかりと頷き、鋭い眼光で陣佐に訴える。陣佐は唇を震わせながら掠れた声を絞り出した。


「お前は」


 波留日はゆっくりと首を振って微笑んでみせる。陣佐は眉間に皺を寄せて唇を噛んだ。


「僕は此処までだ。いいかい陣佐、優先順位を間違えてくれるな。……貴方はそんな愚か者でないと、私は信じている」


 幼子に言い聞かせる様な、それでいて厳しく叱責するような。そして、強く鼓舞するような声音が陣佐を説得しにかかる。陣佐は瓦礫を殴りつけて怒声を上げた。隣で瓦礫を退かしていた雷蔵がビクリと肩を震わせる。


「畜生ッ! お前と必死こいてやってきたってのに、何もかもが台無しだァ! また零からかよ畜生ッ!」


 陣佐は天に咆えて勢いよく立ち上がると、日向端邸へ顔を向けて腕を掲げた。


「産婆を! いや、怪我もしてるなら医者を探す。おいお前ら! 布団やタライを持てるだけ持て! 開けた場所に行くんだ! キミさんは俺が背負う! おヒサさん、華幻楼でお産を手伝ったことはあるか?!」


「え、えぇ、少しだけなら。でも……!」


 ヒサは青褪めながら自信なさげに頷く。陣佐は忙しなく動く若手達を見守りながら、ヒサに引き攣った笑みを見せた。


「上出来だ、力仕事は男に任せろ! 行くぞ!」


 そして木材を踏んで日向端邸へ歩み出す。その瞬間、陣佐の手を傷だらけの手が引き止めた。


「陣さん!」


 その主は、瓦礫や木材取り払おうと足掻く雷蔵だった。眉を吊り上げ、明確な怒りをその顔に湛えている。


「陣さんは波留日を見捨てるのか」


 雷蔵の鋭い言葉に、陣佐は一瞬言い淀むように口を噤んだ。しかしそれもわずか一瞬。陣佐は大きく息をつき、意を決したように雷蔵へ言い放つ。迷う自分へ厳しく言い聞かせるように。


「……前に言っただろ、俺は波留日を尊重する。保護しているわけでも、依存しているわけでもないんだ。俺と対等なコイツが俺に託したのは、救える命と、生まれてくる命だ。逆に言うが、お前は産気づいたキミさんを見捨てられるのか」


「そんな……」


 雷蔵は薄情とさえ感じる陣佐の言葉に目を見開いた。唇を噛み、嫌だ嫌だと首を振る。しかし波留日はそんな雷蔵を厭わずに陣佐へ穏やかな声を掛けた。


「……陣佐、ありがとう。私は、貴方が日々是好日を共に創る編集者になってくれて、こんな幸せはなかった。……貴方は、どうしたって自分自身を蔑ろにする癖がある。貴方を支えにしている人は沢山いる。どうか、自分を大切に」


 潰れた社屋の隙間から零れ出る言葉に陣佐は堪らず再び身を屈め、波留日の顔を覗き込む。


「それはこっちの台詞だ。お前が俺を変えたし、支えになったんだよ、波留日。……じゃあ、またな」


「……うん。こんな得体の知れない私を受け入れてくれた皆にも、感謝を伝えておくれ」


 陣佐がつとめて明るく振舞えば、波留日は破顔して狭い空間の中でひらりと手を振った。陣佐は今にも崩れてしまいそうな表情を、気持ちを奮い立たせるために自らの頬を叩いて立ち上がる。そして、自分達の別れの一幕を唖然として見ている雷蔵を見下ろし、口を開いた。


「雷蔵、お前はどうするんだ」


 問われた雷蔵は瓦礫の積もる地面を握り締め、歯を食い縛りながら声を絞り出す。


「俺は……波留日を見捨てることはできません。いくら波留日の願いだといったって、此処で別れるなんてできるものか!」


 頭を振って叫ぶ雷蔵の言葉に、波留日は気色張って怒声を上げた。


「雷蔵!」


 しかし当の雷蔵はゆっくりと立ち上がって陣佐に向き直る。燃え上がる炎の光を照り返して赤く染まり始めた地面を踏みしめ、雷蔵は唇を震わせながら口を開いた。


「俺は……俺は波留日を助けてから避難します」


 反論してくれるな、何を言っても聞いてやるものかという無言の圧が鋭い眼光となりて陣佐を射抜く。陣佐は一瞬惑うように目を泳がせたが、一度焦げ臭い空気を吸い込んで深呼吸をすると、大きく頷いてみせた。


「……分かった。絶対に生きて再会するぞ」


「……はい」


 雷蔵の腹の括られた返事を聞くや否や、陣佐は踵を返して日向端邸へ飛び込む。そして荷物を持ったヒサや新聞部の若手を引き連れ、混乱と陣痛で悲鳴を上げるキミを背負い、燃え盛る下町を必死に逃げていった。


 一人残った雷蔵は、再び波留日の閉じ込められた社屋へ頭を突っ込み、再び波留日へ手を伸ばす。

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