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ツイン’ズ  作者: 秋月瑛
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第8話 Go!Go!直樹マン

 この場所が何かの研究施設っぽいことはわかった。がしかし、ここでこいつら(白衣を着た人たち)は何を研究してるってんだ?

 鏡花さんは何も説明なしでさっさと歩いて行ってしまうので俺はそれに取り合えずついていった。そして廊下を抜け、金属でできた自動ドアを抜けたところで鏡花さんの足が止まった。どうやらここが目的地らしい。

 鏡花さんは手のひらを反しある人物に向け『こちらは』って感じのポーズを取った。メイド服とそのポーズがなんともいえない萌えだった。

「こちらは星川英幸[ホシカワヒデユキ]博士です」

 星川と呼ばれた青年は俺らに向かって頭を下げた。

 ……この男知ってる。知ってるも何もない、こいつうちの学校の生徒じゃんか!

「こんにちは星川英幸です。先輩たちのことは存じ上げていますけど、僕のことは知っていますか?」

「ああ、知ってる」

 この星川英幸って奴は星川コンツェルンの会長のひとり息子で、うちの学校の3大金持ちのひとりでもある。俺の一年後輩の1年生で、頭の良さなら学校で1、2を争うと思う。うわさでは科学マニアらしいが、でもなんでこんなところに?

「星川様にはこの研究所で秘密兵器の研究をしてもらっております」

「秘密兵器だって!?」

 まさかこの男が秘密兵器の開発に携っているなんて信じられん。だってただの高校生だぞ! ……いや、うちの学校は生徒も先生も普通じゃなかった。

 宙が鏡花さんの横に近づくと耳元に口を持っていき何かコソコソ話しを始めたようだった。そして、話が終わると宙は美咲の袖を掴んでどこかに行こうとした。

「二人ともどこ行くんだよ?」

「……裏工作……だから……後はよろしく」

 部屋を出て行く宙たちに続いて鏡花さんまでも部屋を出て行こうとした。

「鏡花さんもですか?」

「申し訳御座いません急用が出来ましたので。星川様、後の事よろしくお願い致します」

「わかりました」

 鏡花さんは頭を下げると部屋をさっさと出て行ってしまった。どこ行ったんだあいつら?

 この部屋に残された俺。いったい何が待ち受けているのか? いないのか? さっぱりわからん。

「あのさ、なんで俺はここに連れて来られたわけ?」

「ちょっとこっち来てもらえますか?」

 俺は言われるままに星川に付いて行くと、そこには手術台みたいな台があって、その上には鎧っていうかプロテクターっていうか、もっと的確に言うと変身スーツみたいなものが置かれていた。

「なんだかわかりますか、これ?」

「さあ?」

「パワードスーツです」

「パワードスーツ?」

 俺は莫迦みたいにオウム返しをしてしまった。

「このスーツを人間が着ることによって、普段の数十倍の運動能力を発揮することができるんです」

「それはすごいけど、だから?」

「これを直樹さんに着て貰って、悪と戦って欲しいんです」

「はぁっ!!」

 唐突過ぎるぞ!!

 ようするにこれは変身スーツで、これを着ると誰でも即席ヒーローになれるって代物なのか? これであなたも正義の味方って感じだな……って俺に着ろって言ってんだった。

「いきなり着ろと言われても」

「大丈夫です。着ても死にはしません、ただ極度の筋肉痛になるとは思いますが」

「そーゆーことじゃなくって」

 筋肉痛になるっていうのは問題だが、俺が言いたいのはそんなことじゃなくて。

「なんで俺が着なきゃいけないわけ?」

「これは直樹さんが着るために作ったものですから」

「だから何で俺が着なきゃいけないの?」

「直樹さんはこれから正義の味方として世界平和に貢献するんですよ!」

 まったくもって意味がわからん。昨日からずっとこんな調子だ。

「正義の味方なんて他の奴にやらせればいいじゃんか、なんでわざわざ俺が」

「そう言わずに着てみて下さい」

 そう言って星川はテキパキと無許可で俺の身体にパーツを取り付けていく。抵抗もできたがあえてしなかった。何故って、そりゃー、もうどうにでもなれって感じだったから。

 俺の身体に装着されたパーツは赤を基調としていて、変身ヒーローとしては申し分の無い目立つ格好だった。赤いブーツと赤いグローブ、スイッチやらなにやらがいっぱい付いてる変身ベルトっぽいベルトに目元まである赤いヘルメットみたいなの。

 近くにあった鑑で自分の格好を確認したが、なんじゃこれ!? 異様としか言いようが無い物体がそこには映っていた。

 中途半端に付けられた赤いパーツと学生服(うちの学校の冬服は白い学ラン)がミスマッチな雰囲気をかもし出し、見るものを笑いへと誘[イザナ]う。カッコ悪すぎだ。

「あの星川くん、もっとマシなデザインにはならなかったの?」

「デザインとは苦手でして……ぷっ」

 星川を俺を見て噴出しそうになって口を押えやがった。お前が作ったんだろーが!

「こんなの着てられるか、すぐに脱がせろ」

「残念ですが……ぷっ……それはできないんです」

 星川を俺を見ないで壁としゃべっている。

「ぷっはは……そのスーツはバッテリーが切れるまで脱げない仕組みに……ごほっ、ごほっ」

 星川のやつは笑いを無理に止めようとして咳き込みやがった。

「そのバッテリーはどのくらい持つんだ?」

「何もしなければ1週間、力を使えば結構すぐに切れると思いますけど……ぷっ」

 いい加減笑いすぎだぞ。俺だってこんな格好したくてしてるわけじゃなんだぞ。全部お前のせいだ。

「無理やり脱ぐ事は?」

「できません、どんな攻撃にも耐えられるように作りましたから……げほっ、げほっ」

「お前が作ったんだろ!」

「試作品ですから」

 ……フッ、試作品か、試作品ね……つまりなんだ、俺は実験台か!!

 はじまりはあの発光体にぶつかったときからだ。俺が二人になって、玉藻先生のモルモットにされて、俺’はおかしくなるわ、学校は無くなるわ、命を狙われて、拉致されて、最後はこのへっぽこ変身スーツ……。

「星川、これの使い方を教えろ!!」

「は、はい!!」

「ふふふっ、俺の平穏の生活を還してもらうぞ!!」

「あ、あの先輩、大丈夫ですか!?」

「そんなことはいいから使い方だ!!」

 俺は買った喧嘩は勝つまでやるタイプだ。いくら負けようがリベンジして最終的には俺が勝つ、そして最後に勝てない喧嘩は絶対しない。それが俺の生きる道だ!!

「せ、先輩聞いてますか?」

「何を?」

「このパワードスーツの使い方です」

 どうやら、俺はうっかりこのスーツの使い方を聞き逃していたらしい。すまん星川。

「すまん、聞いてなかった」

「ではもう一度最初から説明しますね。筋力や運動能力は何もしなくても上がっています、ベルトに付いたボタンは――」

 このあと星川の説明は10分くらいの間続き、このスーツには多種多様な機能が付いていることがわかった。一見何に使うのかわからない機能もあったが……?

「先輩、説明書もありますけど要りますか?」

「あ、どうも」

 さすがは星川、取り説を用意してくれるなんて気が利くねぇ〜。

 取り説をポケットにぶっ込んだ俺は高笑いしながら部屋を出て行こうとした。だがそれを止める星川。

「先輩待ってください!」

「ん?」

「名前はどうしますか?」

「はっ?」

 何のことを言っているのかさっぱりわからん。

「名前ですよ、な・ま・え」

「名前って何の?」

「今の先輩は正義の味方なんですよ。正義の味方にはそれなりの名前がないと……例えば、直樹マンとか」

「却下」

 当たり前だ。直樹マンはないだろ、直樹マンはぁ〜。センス悪すぎだぞ。

「じゃあ、ナオキングってどうですか? 強そうじゃないですか?」

「却下」

 ウ○トラマンとかに出てくる怪獣じゃないんだからナオキングはないだろ。それじゃー俺が悪役みたいじゃんか。

「えーと、それではナオリタンはどうですか?」

「却下」

 ナオリタンって一文字変えたらナポリタン、俺はスパゲッティでもなければ食いもんでもない。

「えーと、えーと、じゃあ」

「もういい、自分で考えるから」

「そうですか、じゃあ先輩はどんなのがいいんですか?」

 そうだな……強くてカッコいいヒーローの名前……そうだ!!

「ナオガイガーVだ!!」

「なおがいがーぶい? ってなんですか?」

「カッコよさそーだろ? よし、ナオガイガーVで決定だ」

「僕は直樹マンのほうが……」

「なんか言ったか?」

「別に……」

 ふふふ、名前も決まったことだしこれで俺を呼び止めるモノは何も無い、いざ戦場へ!!

「は〜ははははっ、待っていろ俺’!!」

「先輩待ってください!」

 ……まだ何かあるの? 俺は今ノリノリで行こうと思ってたんだけど……。

「これを持っていってください」

 星川の手にはポップなデザインの光線銃らしきものが握られていた。

「この銃は?」

「この銃で生徒会長を撃てば元の生徒会長に戻るはずです。まだ実験をしていないので失敗するかもしれませんが……」

 一か八かの賭けってことか……。だがしかたない、今はこの銃に賭けるしかないか……。

「わかった、この銃で愛を撃てばいいんだな」

「絶対他の人には撃たないで下さいね」

「他の人に撃つとどうなるんだ?」

「さあ、実験してないのでわかりませんが、とにかく撃つのは生徒会長にだけにしてください」

「わかった」

 だが、他の人に使うなと言われると――やってはいけないと言われると、やりたくなるのが人間の性[サガ]ってもんだ。

 銃を受け取った俺は星川にその銃口を向け……るわけにはいかないよなぁ〜。でも試してみたいな……。

「先輩、今僕に『銃を撃ってみようかなぁ〜』なんて考えてませんよね?」

「ギクッ……まさかそんなこと思うわけないだろ!?」

「今、『ギクッ』って声に出してましたよ。くれぐれも生徒会長以外の人には撃たないでくださいね!」

 念を押されてしまってはしょーがない、今日のところはやめておこう。だがいつかはやってみたい。

 よし、今度こそ俺を引き止めるモノは無い! いざ、戦場へ!!

「は〜ははははっ、待っていろよ愛、今助けに行くからな!!」

 今の俺ってもしかしてカッコいいんじゃないのか? さすがは俺! もう誰も俺を止められないのだ!!

「先輩待ってください!」

「…………」

 止める者がここにいた。

「まだ、なんかあんの?」

「その銃の説明書要りますか?」

「……いちよー貰っとく」

 俺は取り説を星川からぶん盗るように受け取るとポケットに突っ込んだ。

 今度こそ、今度こそ俺を止めることはできない。俺は行くぞ戦場へ。

「は〜ははははっ、いざ戦場へ!!」

「先輩待ってください!」

「もういい加減にしろよ!」

「……がんばってくださいね」

「……ありがと、そんじゃ行って来るから」

 俺は星川の笑顔に見送られこの部屋をやっと後にできた。


 最初の戦いは部屋の外から始まっていた。

 研究所に微かに響く笑い声……俺のことを一瞬見ては顔を伏せる研究員たち……俺って笑われてるのか!? と問うまでもない、明らかにこいつらは俺を見て笑っている。俺は見せ物じゃない!!

 エレベーターに乗り込んでしまえば一安心。だがドアの向こうには新たな試練が!!

 ドアが開いたと同時に空気を口から噴出し顔を伏せる人々。

「ぷっ……何その格好!?」

「……直樹様お待ちしてました……ゴホッ」

「なかなかぉもしろいね……その格好……クク」

 美咲と宙はともかく、鏡花さんまでヒドイ、ショックだ、傷付いた。

「俺だってしたくてこんな格好してんじゃねぇよ」

「じゃあ脱いじゃえばいいじゃない?……あはは」

 美咲のヤローはついに腹を抱えて笑い出しやがった。それに引き換え宙はいつもの無表情を崩していない。

「直樹くん……カッコぃぃよ……クク」

 絶対嘘だ。嘘が見え見えだってーの!

「あははは、早く脱ぎなさいよそんなの、学ランの上から着るって直樹どーゆー神経してんの?」

「星川が無理やり着せたんだよ。しかも、エネルギーが切れるまで脱げないらしい」

「それは……可哀想に……クク」

 嘘だ。そんなことこれっぽちも思ってないくせに!

「……それは……どぅかな……クク」

 完全に俺は宙にからかわれている。

「それでは直樹様、お気をつけて行って来て下さい」

 深々と頭を続いて美咲と宙も、

「じゃあがんばって来てね」

「……せぃぜぃ……がんばって」

 ってお前たちは?

「お前たちは行かないの?」

「私たちは別行動なの」

「……そぅぃぅこと」

「別行動ってなんだよ?」

「……それは言ぇなぃ」

 聞いた俺が悪かった。そういうことにしとく。

 なんだか府に落ちないがしかたない、ひとりで行くとするか……。

「じゃあ行ってくるから」

 宙が俺のことを見つめて言葉を呟いた。

「……Go!Go!直樹マン」

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