第3話 夢は世界征服
昨日、私は玉藻妖狐のお陰で自分が今何をすべきなのかを悟ってしまった。いや、むしろ無理やり悟らされたのか……まぁそんなことはどうでもいい。
とにかくあの事件から一夜が明け、私はある国のある都道府県のある市町村のある廃屋にいた。……いや、ウソを付いた。ここは、学校(直樹♂[ナオキ オス]の通う学校)から程近い、妖孤先生のちょっとした豪邸だったりする。
この家は外観から室内までゴシック洋館な感じの家だ。妖孤先生は私が来るまで一人で住んでいたらしい。もちろんタロウくん1号2号はその数に含まれていない。
オートクチュールらしい豪華な椅子に座りながら、ティータイムを取る私。……優雅だ。
そして、私は優雅に下部たちに命令する。
「タロウくん1号2号、早く部屋を綺麗にしてくれたまえ」
私がこう命じるとタロウくん1号2号は家中を忙しなくテキパキと動いてお掃除をしてくれた。タロウくん1号2号は今や私の忠実なる下部だ。うん、実にいい働きぶりだ……発明者とは大違いだな。
などと、そんなことを思っていたらちょうどその発明者が二階から降りてきた。
「ナオキちゃ〜ん、おはよ〜」
下着の上から白いブラウスを直に着ていて、胸元がかなり全開! と言った感じでセクシィーな光線が私の目を眩ませる。男がこの場にいたら即ノックアウトと言った感じだな。むしろ、それが狙いか!!
美しい女性にはやさしい言葉で持て成すのが貴族としての私の勤めだ。訂正、貴族を目指したいなぁ〜と思っている私の使命だ!!
「おはよう妖狐先生、昨日はよく眠れたかい?」
「まだ、ちょっと頭がくらくらするわ」
頭がくらくらするというのはたぶん魔法の副作用のためだろう。ちなみに魔法というものの詳細はまだ秘密にしておく。だって秘密って言葉の響きがいいでしょ。ひ・み・つ。……うっとりだ。
さてと、悦に浸っているわけにはいかない。妖孤先生も起きたことだ、そろそろ始めるか。
「それでは朝のミーティングを始めよう。タロウ君1号2号、掃除はあとでいいからこっちに来い」
ミーティング突然始めたのには理由がある。思いついたときにすぐ実行しないとすぐ忘れるからだ。
「ナオキちゃ〜ん、わたし寝起きなんだけどぉ」
「気にするな」
この言葉の返し方は意味不明だ。そう自分でも思う、しかし、使いなれているので気にするな。
私は意味不明な箇所を残しながらも言葉を続けた。
「え〜それでは、朝のミーティングを始めま〜す。それではまず、私たちの今後の活動内容の発表をしたいと思います」
ちょっとわざとらしく言ってみた。理由は何となく。ちなみに私的にはここでドラムロ−ルがなってるつもり、そして、ドラムロールが鳴り止むと同時に、
「じゃん、世界征服しちゃいます!」
「え〜!!」
妖狐先生は大きく口を開け、ビックリ仰天した。無理もない、こんなこと突然言ったら誰でもビックリだね。しかも、タロウくん1号2号も口をがぼーんと、外れてしまった。結構ウケるなこの絵は……くすっ。
あの事件のあと俺は学校のどこかにあると噂される、学校非公認の『妖狐ちゃん研究室』から抜け出し、夜遅く家路に着いた。そんな帰路の途中、俺は脳みそをフル回転にして考え事をしてみた。
「……いったい何が起こったのかさっぱりだ」
玉藻先生に拉致され、気づいたら俺’が玉藻先生にキスしてて……いい絵だったなぁ……ってなに考えてんだ俺! で結局何が起きたのかさっぱりなままだった。とまぁそんなことを考えてたら、家の玄関に立ってた。
「ただい……ま」
ドアノブを回す手から全身へ一瞬にして固まり、俺の身体は石像と化した。
こーゆーときは金○針だ……いや、乙女○キッス……てゆーか違う、身体が固まったことより、その原因の方が今は大事だろ。その原因は……鍵が! 鍵が掛かってるよ、おい!
入れないじゃん……ふふふ、しかしだいじょぶだ。我が家は合鍵がちゃんと隠してある、だから鍵を忘れて家を出てもOKさ、見たいな……。というわけで俺は鍵の隠し場所へレッツゴー!!
鍵はポスト中の隅っこにあるハズだった。がしかし!!
「な、ななな無い!」
なんとびっくり鍵がない……なぜだ、なぜない……完璧な作戦だったハズ。ふっ……だいじょぶだ、こんなことでうろたえてはいけない、まだ、家に入る方法はある。――屋根に登る。
そんなわけで塀やらパイプやらを伝って屋根によじ登った。この時の気持ちはさながらスパイ○ーマンといった感じだ。
がしかし、またそこで俺に不幸が。……窓閉まってるよみたいな、この必殺技(屋根登り)は2階の窓が開いてないと効果はない。
……しまった、迂闊だった、俺は大バカ者だった、この技の弱点を突かれた。しかもだ、この技には失敗すると大変なことが待ち受けている、その大変なこととは――。降りるのは大変ってこと。登るのは楽でも降りるのは死を覚悟しなくてはいけない。
だいじょぶだ、だいじょぶだ。……落ち着け、降りるのは大変だ、ようするに降りなきゃいいじゃん。
俺は最後の手段の実行をした。
「とうっ!」
俺は掛け声とともに宙を舞った。詳しく言うと屋根から屋根に飛び移った。どこの屋根に? 美咲の家。そんなわけで俺は美咲の部屋の窓まで行った。ちなみに2階の。
「お〜い、美咲いるか?」
返事はない……ただの屍のようだ。――って違うか、むしろこのネタはどのくらいの人が知っているのか、いないのか? って美咲いないのか、いるのか、どうなんだ!! もう駄目だ。
「あっ……」
窓に手をかけたら、開いた。奇跡だ。でもこんなところ通行人に見られたら110番されてしまう、早く中へ!
「おじゃましまーす」
恐る恐る俺は無許可で美咲の家に入った。不法侵入ってやつだな。
「美咲は……いないのか」
美咲の部屋に入るのはひさしぶりだ。といっても最後に入ったのは1週間前だけど。
しかし、美咲どこ行ったんだ。まぁここにいれば、そのうちくるか――。
5分後、階段を上る音が俺の耳に届いた。来る! や、やつが……やつが来る!
――ってたぶん美咲だけど。ちょっと緊迫感のある演出がしたかっただけだ。
「美咲か?」
そして、すぐに部屋のドアが開いた。
「「あっ……」」
二人の声が重なった。そして、二人の動きが止まった。
俺が止まった理由は美咲の姿を見て、肌から立ち上る湯気身体に巻いたバスタオル――風呂上り。セクシィービーム! と思った瞬間本当に俺の腹にビームが、それもメガ粒子砲並みの……うぐっ。
「何してんのよ!!」
メガ粒子砲――美咲の回し蹴りが俺の腹に喰い込んだ。……痛い。ビームじゃなくて蹴りだった。
「何で直樹がいるの!! ……そんなことより部屋出てって!!」
美咲は俺の背中を蹴り飛ばし、部屋から追い出しドアをバタンと閉められた。そしてちょっと経ってドアが開いた。
「入っていいよ」
俺は美咲に勧められるまま部屋に戻った。美咲はパジャマに着替えてた、その間の時間俺は部屋の外に出されてたわけだ。
「なんだよいきなり、蹴りはないだろ」
「恥ずかしかったの」
「昔はよくいっしょに風呂入ってただろ」
「いつの話よ」
そんな感じで(どんな感じだ)俺は美咲に俺は学校のどこかにあると噂される、学校非公認の妖狐ちゃん研究室での出来事からここまでの経由について話した。案の定、美咲はすぐに理解した、さすがだ話の進行っていうものがわかってる。
「わかった……じゃあリビングのソファーね」
「はっ?」
意味不明の何の脈絡もない一言、話にはつじつまってもんがあるだろ。
「毛布くらいは付けてあげるから、ソファーで寝て」
「…………」
家に戻れない以上、泊めてもらえるだけいいとしよう。
「じゃあ、おやすみ」
早っ! 美咲はそう言うと俺を部屋から追い出そうと背中を押した。
「あ、あ、ちょっと」
「だって、明日学校でしょ早く寝なさい」
時計にふと目をやると、今はこの部屋の時計で3時ちょい過ぎ……寝よ、明日がつらい。
俺は1階のリビングのソファーの上でいろいろ考えた。今日起きたこと……でもすぐ寝た。だって疲れてたから。
朝が来た。すぐに来た……寝たのが遅かったから、でなんだかんだで美咲といっしょに学校に登校中――。ちなみに俺は一度家に帰った。
自転車に乗りながら二人で登校していると、学校近くの交差点で同じ学校の生徒(制服で判断)が学校のある方向から引き返してくるのを見かけた。あれは誰だとか、思ってたら。――あれは、あいつか……はぁ。
俺らに気づいた彼女は『自ら』声を掛けて来た。
「ぉはよぅ……」
「あっ、おはよう宙[ソラ]ちゃん」
美咲があいさつを返したのは同じクラスの見上宙[ミカミソラ]、すっげー変わり者(絶対電波系)で俺はけっこうー苦手。
宙は俺のことをまじまじと見つめると何かを言った。
「時雨くん…ぁなた…ん」
「何、聞こえない」
彼女の声は小さくて聞き取りずらい。そんな彼女の変わりにしゃべってくれるのがこいつ、
「今日のオマエは半分ダ」
とまぁ変な腹話術っぽい声が……。この声は何かというと宙の操る腹話術人形のアリスの声だ。人としゃべるのが苦手な宙の変わりにしゃべってくれる人形なのだが……どっちも宙じゃんみたいな。
「はっ……!?」
って今の宙の発言! 俺はちょっとびっくりした。こいつ鋭い……というかやっぱこいつ電波系だ。半分というのはつまり、俺と俺’の分裂のことを言っているのだろう。宙の頭から出ているアンテナはダテじゃないな。本当は2本ぴょんって出ている前髪なんだけど。
そんなことを思っていたら宙のアンテナがピンと反応した、お前はきた○うか!! って突っ込みをいれたいとこだが、これはもしや何かが起こる前兆か!?
「来る……」
宙が小さく呟いた。美咲がその言葉にすぐさま反応した。さすがは運動部だ。
「来るって何がよ」
宙の変わりにアリスが説明してくれた。
「オマエの片割れが来るゾぉ〜」
「何ぃっ!!」
ビックリした俺は取り合えず、後ろから殺気を感じたので、バッと後ろに勢いよく振り返った。その時……。
「はーはははは、見つけたぞ直樹♂」
スピーカーを通したデカイ声、俺は度肝を抜かれた。いや、俺の目線の先に立っているのは俺’だったんだけど、乗ってる乗り物が……俺’がその肩に乗っている……巨大ロボぉ〜っ!! ヒーローものか!!
「あれって巨大ロボだよな」
俺は思わず巨大ロボを指差して美咲に同意を求めた。
「ヒーロー特撮みたい」
「わ〜ロボットダ、ロボットダ」
「アリス……ぅるさぃ」
……自分で言って自分でつっこんでる。
スピーカーからノイズ交じりの声が朝の静かな住宅街に騒音を鳴り響かせる。
「直樹♂、今日が会ったが100年目」
「昨日会ったろ」
「……っそんなことはどうでもいい、今日はお前を抹殺に来た」
「はっ!?」
いきなり抹殺ってなんだよ。人殺しは重罪だぞ。しかも話の流れが速くて、言動に何の脈絡もない、3流だ。
俺’は左手を胸に当て、右手をピンと斜め上に掲げた。
「私、時雨ナオキはここに世界征服をすることを宣言する。というわけで分身の直樹♂には消えてもらう」
訳不明だ……なに言ってんだこいつ、いきなり現れて世界征服……? しかも俺を殺すってどういうことだよ。そーとーこいつも俺といっしょでノリで生きてるな。このノリ星人が!(意味不明)
「直樹♂さらばだ、君ことは忘れない……行け、タロウくん3号ロケットパンチだ!」
俺はとにかくビビったので目を強くつぶった。
「…………」
しかし、ロケットパンチは発射されなかった。こけおどしか、それとも故障か?
俺’が急に真剣な顔になり一言、
「しばし待て、発射には時間がかかる」
俺’が待てと言ったのでなんとなく待ってみた――。その間ちょっと考え事をした。どんな考え事かって? それはだ、タロウくん3号ってネーミングはどうかと思うってこととタロウくんと言えば玉藻先生……もしかして玉藻先生の作品か? などといった感じ。
「待たせたな、それでは発射だ!!」
轟音とともに巨大ロボットの手が飛んだ……俺に一直線だ、これはやばいマジで死ぬかも。てゆーか何で律儀に待ってたんだ俺は?
でもノロイ、亀さんよりもスピードが遅い、これなら余裕で避けれる。俺は自転車にまたがっている、俺の勝ちだ! と思いながらも美咲と宙のことが気になり、
「逃げろ二人とも!」
と声をかけてみた……のだが美咲いないじゃん。唖然としてしまった俺にアリスが、
「美咲ならガッコー遅行するからって先行ったゾ」
なにぃって、じゃあなんでここにアリスが、もとい宙がいるんだ。
「もう行った……」
宙の奴俺の心を読みやがったな……ってこれも読まれてるのか。いやそんなことより、もう行ったってどういうことだよ。
「ガッコーは吹っ飛んでたゾ、だから帰って来た」
「はーははは、それは私の仕業だ、私がこのタロウくん3号で吹っ飛ばしてきた」
横から口出しありがとう俺’。
そうか……これでなぞが解けた……だからタロウくん3号の片手がなかったのか。うん、納得って納得している場合じゃないだろ、ようするにロケットパンチの攻撃力がそれほどのものってことだろ、やばい逃げなきゃ――。
「……って、うっひゃ〜、もう目の前まで来てんじゃん」
あられもない声を上げる俺の前にはタロウくん3号の放ったロケットパンチはもうそこまで迫ってきていた。死ぬ、これ絶対死ぬよと思った瞬間、奇跡が起きた。
宙のアンテナ……もとい、宙の触覚……もとい、宙の前髪2本がピンと立ち上がった。そして、宙は無表情のまま巨大ロボットの肩に乗る俺’を上目遣いで見た。
「ワタシに牙を向けるなんて……身の程知らず(死)」
ロケットパンチが俺、てゆーか宙に当たる瞬間、物理の法則に逆らってくるっと曲がった。ようするに進路を180度回転して俺’の方へと飛んで行った。……恐るべし電波娘見上宙。
全てのモノには終わりがくる――のか?
「何ぃ!! ……タロウくん3号逃げろ!!」
私は叫んだ。そして、私はこの時死というものを覚悟した。……まさかこの私が戦いに敗れるとは、しかし奇跡は起きた。起きなきゃ死んでた。こんなノリの話に死者が出るわけがないだろう……たぶんだが。
「……人殺しは重罪。by直樹」
宙がそう呟くと突然私に向かって来ていたハズのロケットパンチの起動がずれた。そして、ロケットパンチは宙の彼方へ――。
ホント死ぬかと思った。どのくらい死ぬかと思ったかというとだ、起動を変えたロケットパンチは私の前髪を少しかすっていった。これはビビるだろ誰でも。ここはひとつ宙に注意してやらんと気が済まん。
「宙!!」
「なんだバカヤロー」
私はアリスに話があるのではない。
「アリスは引っ込んでろ!」
宙はアリスを背中に回すと、口元だけちょっと微笑みながら、
「なに……ナオキちゃん?」
「いや……なんでもない」
私はこの時すごくやな予感がした。こいつにケンカを売ってはいけない。そう動物の野生の本能が言っている。そういえば、逃げるが勝ちと中学の時の先生も言っていた。
私は人差し指をバシッとビシッと宙に突き刺した。
「今日はこのぐらいにしといてやる、今度会った時は!」
「……今度会った時は?」
宙の声を聞いたとたん私の背筋に冷たいものが……。
私は人差し指の方向を変えた。
「直樹♂、お前を殺す!」
宙には手を出せない。だって恐いんだもん。昨晩のこともあるからな。
「さらばだ、二人とも、は〜はははは……」
私は逃げるんじゃない、見逃してやったんだ……たぶん。
そんな感じで俺’は帰って行った。……てゆーか、なにしに来たんだあいつ。
「……直樹を殺しに」
また、宙に心を読まれた。こいつの前じゃエッチなこととか考えられないな……ニタッ。
「エッチ!!」
バシッとアリスの平手打ちが俺の頬に痛恨の一撃。――読まれた。
そんなことより学校に行かなくちゃ……ってもうないんだっけ?
「……ぃな予感がする、もうぃち度学校にぃく……」
「やな予感?」
宙は学校のある方向を遠い眼差しで見つめ俺に言った。
「後ろ乗っけてぃって……」
後ろとは自転車のことだろう、俺即OKし……出来なかった、なぜなら宙の一言がそれを阻んだからだ。
「そぅ…ぁりがとう…早く行きましょぅ……」
俺が『いいよ』って言う前に読まれた……。
そして俺は宙を愛車のジャガー(自転車)の後ろに乗せて猛スピードで学校へと向かった。