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ツイン’ズ  作者: 秋月瑛
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第2話 運命の分かれ道

「……でこうなったわけ?」

 俺と俺’は美咲に事の一部始終簡潔に話した。しかし、さすがは美咲、話の飲み込みが速い。てゆーか、こんな話誰が信じるんだ普通。

「カワイイ……よく見るとかわいいな美咲って」

 これを言ったのは俺’だ。しかも何の脈絡もない一言だ。

「何を今さら、当たり前じゃない」

 美咲が俺’の話に乗る。まぁ、たしかに美咲はカワイイ、クラスでもカワイイ部類に入ると思う。でも、そんなことは俺は一度も口に出して言ったことはなかった。しかし、こやつは、このヤローはそれを言ったんだ、俺に許可もなく。

「おい美咲こいつの言うこと間に受けるなよ」

「どうしてぇ〜、ねぇナオキちゃん」

 美咲は俺’に向かって微笑んで見せた。

 俺’ちゃん付けで呼ばれるとなんだか不愉快になる。

「ちゃんを付けるなちゃんを」

「だって、こっちの直樹は女の子なんだから、『ちゃん』でいいじゃない」

「俺が言われてるみたいだからヤダ」

 そんな俺らの会話に対して俺’は顔をほんのり桜色に染め小さな声で呟いた。

「私は別にいいけど」

「ほら、ナオキちゃんもこう言ってるじゃない。……で、これからどうする気?」

 突然の話の切り替えに二人の俺は黙り込んでしまった。

「そうだ!」

 美咲は何かを思いついたように手をパンと叩きながら突然立ち上がった。

「先生に頼むっていうのは?」

「「ダメだ」」

 二人の俺が同時に言った。

「なんでぇ〜、いい考えだと思ったのに」

 当たり前だ。あんな奴に助けを求めるなんて死んでもヤダっていうか、殺される。

 先生というのは俺のクラスの担任の玉藻妖狐[タマモヨウコ]先生のことで、学校でも1、2を争う変わり者の科学教師で、いわゆる『マッドサイエンティスト』ってやつだ。彼女に助けを求めたら、モルモットにされるのがオチだとそう断言できる。

 手を挙げる俺’に美咲が先生気取りをした。

「はい、ナオキさん。なんですか?」

「そんなことより、手短な問題として家族に何て言うかが問題だと思うんだけど」

 俺’の言うことはもっとだ。同じ家にいてはいつかは見つかる。てゆーか、食事とか風呂とか大変だし、別々に暮らすっていっても行くとこないし。みたいな……。

「たしかにそうだ、家族にバレないようにするのは不可能に近いな」

「私の家来たら? うちの両親海外旅行行っちゃって1ヶ月は帰って来ないよ」

「よし、俺’よかったな美咲の家で養ってもらえ」

「なんで私なの」

「あたりまえだろ、俺の方が俺だからだ」

 何を言ってるのか普通の人には通じないだろうが、俺’にはちゃんと伝わったと思う。ようするに俺が言いたかったのはこういうことだ。

 まず、俺’は自分のことを私と言っている、そして、身体は女だ。ようするに元の俺とはちょっと違うわけだ。俺の方が分裂前の俺に近い。ということ。

「わかった」

 俺’は少し不満そうだが、同意した。さすが俺の分身、物分りが良くて大変よろしい。

 嬉しそう顔をした美咲が俺’の両手を掴んだ。

「わ〜い、ナオキちゃんが来てくれるの、じゃあ家に帰ったらお化粧したり、かわいい服着せたり……」

「やめろ、それは俺が許さん」

「なんで、別にいいじゃない、あんたじゃないんだから」

「そうだけど。おい、おまえも何か言えよ」

「別に構わないけど」

「あのさぁ〜、さっきから思ってたんだけど、直樹とナオキちゃんって似てるけど別人だねやっぱり、身体もそうだけど、性格も少し違うみたい」

 二人のナオキは『ほぉ』といった感じで深くうなずいた。そう言われてみたらそうだ、俺’の方がやっぱちょっと女っぽいかも。

「じゃあ、ナオキちゃん貰って行くねぇ〜」

 そう言って美咲は俺’を強引に連れて行ってしまった。

「おい、待て、ちょっと」

 俺は二人を追いかけようとしたがやめた。なぜって? それはこたつから出たくなかったから。


 私と美咲の家は隣同士。歩いてほんとにちょっとの距離なのだが、その短い距離で事件が起きた。

 私と美咲が直樹の家を出たとたんにある人物から声をかけられたのだ。その名は玉藻 妖狐、美咲と私のクラスの担任だ。

「はぁ〜い、美咲に直樹じゃない」

「先生こんにちは〜」

 明るく手を振りあいさつする美咲を見たが、私はできれば今は関わり合いになりたくない。

「…………」

「あらぁん、直樹、気分でも悪いの?」

 直樹は玉藻先生が苦手なのだ。なぜ苦手かというと……言えない、とても口に出しては言えない、とにかくモルモットにされたということだ。その直樹の分身である私もまた玉藻先生が苦手というのも、まぁわかる。

「先生ちょうど良かった、先生に頼みたいことがあるんだけどいいですか?」

 まさか美咲のやつ、玉藻先生に私のことを頼むんじゃ……。

 私の予感はみごと的中した。

「先生、ナオキのことなんだけど」

「直樹がどうかしたの?」

 慌てて私は二人の間に割り込んだ。

「あ、ああ、なんでもないです、気にしないでください」

「ちょっと、黙ってなさいよ」

 私は美咲に口を押さえられてしまって、声が出せない。

「う、うぐ、はな……せ」

「先生じつは、このナオキは直樹じゃないんです」

「……は?」

 普通こんなこと言われたら『は?』って表情になるに決まってる。

 私は美咲の手を振り払った。

「今日の美咲ちょっと変なんです」

「ふ〜ん、でも直樹も少しおかしいというか、いつもより声とかが女の子っぽいっていうか」

「そうなんです、このナオキは女の子なんです」

「えぇ! やっぱりそうだったの、前からそうじゃないかなぁって思ってたのよね。こんな女顔の男なんていないわよね」

「そうじゃなくて、だからホントは男なんだけど、女に、あぁもういいですとにかく来て下さい」

 美咲は私と玉藻先生の手を引き、勝手に私の家に上がり込んで私の部屋に連れていかれた。不法侵入だ!


 俺は思わず『あっ!』と言ってしまった。当たり前だ、いきなりドアを開けられそこに立ってるのが美咲と俺’とそれと玉藻先生。てゆーか、なんで玉藻先生がいるんだよ。

 玉藻先生は思わず、俺を見て俺’を見てこう言った。

「双子だったの!?」

 これは現実性に富んだノーマルな反応だ。マッドサイエンティストもたまには一般人の思考で物事を考えるらしい。

「違います先生、直樹たちは双子じゃなくて」

「そうよねぇん。男と女が生まれるのは二卵生、一卵性と違ってこんなにそっくりに生まれることはないわ」

 ――で結局俺たち3人は俺の身に何が起きたのかを玉藻先生に詳しく説明した。

「なるほどねぇ〜、わかったわ、先生に任せなさい」

 そうなると思った。てゆーか、飲み込みが早い流石はマッドサイエンティスト。そういう問題か?

 玉藻先生は突然俺と俺’の手を取った。

「あたしの研究ラボに行くわよ」

「「は?」」

 俺と俺’はいきなりのことに驚き抵抗しようとしたが、玉藻先生はどこからか注射器を取り出し、グサ、グサと俺と俺’に刺してきた。まず最初に刺された俺’がバタン。そして、俺もいつの間にか気を失ってた――。


 私が目を覚ましたのは……どこだここ?

「あらぁん、お目覚め」

 その声に私は、はっとして身体を動かそうとしたが手足は固定され身動きができない。仮面ライダー? 改造手術? そんなことが頭に過ぎる。そして、このネタはどのくらいの人にわかってもらえるのか?

 しかし、どこだここは、妙に機械チックな部屋なのはわかる。しかも、訳のわからない液体の入った瓶が戸棚にびっしり並べられている。まさかここは、学校のどこかにあると噂される、学校非公認の『妖弧ちゃん研究室』!?

 ふと、横に目をやると直樹が寝てる。気持ちよさそーな寝顔してるなぁ、とか思った。早く目を覚ませよ、寝起きの悪い私ですら、この緊急時でおめめぱっちりなんだから。

 白衣を着た妖孤先生が私の方に近づいて来る、もうダメだ殺される。たぶんホントに殺されるんだって。

「こっちがナオキちゃんの方よね」

 そう言いながら妖孤先生は私の胸にタッチした。

「あん」

 思わず、私は変な声を出してしまった。私って敏感肌なのか?

「顔が同じだからわからないのよねぇ」

「だからって、胸さわることないじゃないですか!」

「ナオキちゃんの胸結構大きいわね」

「そんなことないですよぉ……」

 って照れてどうすんの私。

 私の胸から手を離した妖孤先生は白衣をきびすとなにやら操作パネルっぽいものを叩き始めた。テキトーに叩いているとしか思えないほどの華麗な動きだ。

「さぁて、そろそろ、始めましょう」

「何を?」

「実験」

 実験っていう言い方が妙にひっかかる。やっぱり、私の運命モルモット? 悲劇のヒロイン?

 操作パネルを叩きながら妖孤先生は大きな声を張り上げた。

「タロウくん1号2号、こちら様とあちら様をあの機械に入れちゃって」

 タロウくん1号2号とは玉藻先生の作り出したロボットで、見た目もいかにもロボットって感じで、学校でも彼ら? の存在は有名なのです。

「は、放して!」

 私はタロウくん1号に無理やり訳のわからない機械の中に入れられそうになった。

「せ、先生なんですか、これ?」

「その機械はあたしが30分で作り出した、二つの物を一つにしちゃう機械よ」

 私昔こういうのでハエと人間がいっしょになっちゃった映画見たことあるんだけど……そんなことを考えたらスゴク怖くなって、全身に鳥肌が。しかも30分は短いでしょ。

「せ、先生、失敗してらどうしてくれるんですか!」

「その時はその時で」

「そんな無責任な」

 横を見ると直樹も私同様、こっちと同じ機械に……ってなんであいつまだ寝てんの?

 そんなことを考えてるうちに私は変なカプセルの中に入れられていた。

「わぁー、出してー!」

「さぁ、準備は整ったわ。スイッチオン、ポチ!」

 妖孤先生は勢いよくこの機械のスイッチと思われるボタンを押した。それと同時に機械は凄い音を立てながら起動し始める。

「さぁて、後は3分間待つだけね。タロウくん1号オレンジジュース買ってきて」

 その時だった、辺りが突然闇に包まれたのは――。私と直樹を入れた機械の音が次第に小さくなり、そして止まった。――停電だった。

「あっ……」

 妖弧先生はそう小さく呟くと、

「タロウくん2号急いでブレーカー上げて!!」

 電気はすぐについたのだが……?

「タロウくん2号、まずはこっちを開けるわよ」

 妖弧先生はそう言うと、私の入ったハッチに手をかけて、力を込めたが開かない。

「タロウくん2号開けて」

 タロウくん2号は見事ドアを壊すことに成功。

「だいじょうぶ」

 私は妖孤先生に肩を揺さぶられるが、意識が朦朧として返事を返すことができない。

「まさか、死んじゃったのかも!」

 真剣な眼差しで、妖孤先生は私を見つめている。

 でも大丈夫、死ぬなんてあり得ないから……。なぜなら簡単、直樹&私はこの物語の主人公だから。

「ナオキちゃん、このあたしの調合した薬を飲めば死者だって生き返るわ」

 ダメ、そんなの飲んだらきっと死ぬ。そんな危ないクスリ誰が飲むもんか。

 でも、身体の動かない私は成す術もなく口を強引に空けられてそのクスリを……。

 そして、一瞬私の意識は遥か彼方まで飛んだ――。

 頭がイタイ、クラクラする……。

「……う、ううん」

「だいじょうぶ、ナオキちゃん?」

 私を誰かが呼んでいる……妖孤先生? 視界がぼやけてよく見えない。そうか、変な機械に入れられて……。

「は〜っははは、わかったぞ、今すべてがわかった」

「どうしたのナオキちゃん!?」

「おぉ、これはこれは、妖弧嬢ではないか、ううん美しい、さすがは我が学校一の美人教師」

 私は妖弧のあごにに手をやり、彼女の顔をまじまじと見つめた。

「あぁん照れるわぁ、ってナオキちゃんどうしたのなんか変よ」

 私は全てを悟った。私が二人に分裂した理由、そして私のすべきことが。

「私はこの世界にいる全ての女性を手に入れなくてはならない、そのためにここに世界征服を宣言する」

「えっ?」

 なぜだかはわからないけれど、私はとにかく世界征服をしなくてはならない。そんな気がする。気のせいだったら取り返しがつかないね。

「ナオキちゃん……失敗だわ、実験」

「案ずることはない、これが本来の私なのだ。という訳でまずは君に私のモノになってもらおう」

――私は妖弧の身体を抱きよせ、唇と彼女の唇を重ね合わせた。妖弧は突然のことになにが起こったのかわからないでいる。

 これで妖孤と私は運命共同体だ。


 俺はわけのわからん機械の中で目を覚ました。……どこだよここ?

 玉藻先生に注射器でプスッてとこまでは覚えてる。

 まぁいい、とにかくここを出なくては……って開かない、このドア開かねぇぞ。

 しかたなく俺はドアを思いっきり蹴飛ばした。ドアは俺の蹴りによって案外簡単に開いた。さすが俺、伊達に昔サッカーやってたわけじゃない。……てゆーかいつの話だそれ、小学校の話だろ。

 俺は変な機械の中から這い出た。身体が重くて這って出ることしかできなかったから。

 機械から出た俺は周りを見渡した。な、なんとそこには信じられない光景が!?

 変な機械から出た俺を待ち構えていた衝撃のシーンとはいったい!?

 ……俺’と玉藻先生のキスシーンだった。

 俺は思わずこの襲撃的シーンを目撃し目を丸くしてバッっと立ち上がった。

「おまえら何してんだ!?」

 って言って二人に指さしてやった。

「おやおや、私にしては早いお目覚めだな」

 俺’が玉藻先生の身体から手を放すと彼女の身体はバタンと床に倒れた。

 そして、俺’は俺のまん前まで来て、右手で俺の頬に軽く触れた。かなり近い距離なので俺’の胸が俺に当たる。デカイ……てゆーか俺に感じてどーすんだ。

「やはり、さすがは私、綺麗な顔をしている」

 俺’はいきなり俺を突き飛ばしやがった。思わず俺はしりもちをついちゃったじゃないか。

「何するんだよいきなり!」

「私は今から世界征服をしなくてはならないのでな先を急ぐ」

「はぁ? おまえ頭だいじょぶか?」

「この女は貰っていく」

 そう言って俺’は玉藻先生を担ぎ上げた。結構力持ちだ。そんなことを考えてるヒマじゃない、これはたぶん緊急事態だ……きっと。

「ま、待て!」

 俺の静止も虚しく俺’は玉藻先生を担いで走り去ってしまった。その後をタロウくん2号が追いかけて行ったが俺には追いかけて行く気力などなかった、なぜなら寝起きだからだ。

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