9/11
第9話 封鎖された救護搬路
封鎖された搬路は、隠したい荷物ほどよく通る。
灯が映像から拾った運搬箱の札を頼りに、私は桐生と一緒に地下七階の旧救護搬路へ向かった。本来は感染事故対策で封鎖されたはずのルートだが、扉の下には新しいキャスター跡が残っている。
「開いてる」
桐生が眉を寄せる。
私は古い通行札へ触れた。白い数字が逆向きにほどける。夜の救護室から運び出される薬箱、スポンサー席の裏口、未使用のA級回復薬。さらにその先、個室型の休憩ラウンジへ箱が積まれていた。
「見学会のVIP控室だ」
「そこへ救護薬を?」
「多分、見せる用と持ち帰り用です」
床には包装フィルムの切れ端、高級ポーションの香草臭、そして保険請求コードが印刷された剥がし札が落ちていた。治療の現場じゃない。ここは在庫を抜くための通り道だ。
「森崎」
桐生が壁の管理キー差し込み口を見た。
「この鍵、査定室の権限でも開く」
つまり三上か片瀬、少なくともその両方に出入りできる人間が直接通している。
私は搬路の壁へ手を置いた。
不正はいつも『例外対応』の顔をしてやって来る。救護物資、緊急承認、スポンサー調整。大義名分がついているぶん、誰も止めにくい。
でも止めなければ、本当に必要なとき空になる。
その単純な事実だけは、搬路の冷たいコンクリートより硬かった。




