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第7話 消えた治療記録

消したい記録ほど、消し方が雑になる。


 その夜、私は深夜救護室の保管庫でトリアージ票の束を調べていた。スポンサー案件の翌日だけ、カルテ番号が飛んでいる。連番のはずなのに、三枚、丸ごと抜けていた。


「誰か持ち出したわね」


 看護師長が棚の奥を見て言う。


「でもコピー機の下に炭紙が残ってる」


 私は炭紙を斜めへかざした。かすれた筆圧が残っている。処置時刻、患者番号、薬剤名。完全ではないが、読み取れる箇所はあった。


『B級二本』

『縫合』

『観察一時間』


 なのに正式請求では同じ患者が『A級四本・重傷管理』へ変わっている。


 私は炭紙へ触れた。【精算】が走る。片瀬の指が原票を抜き取り、別の用紙へ書き換え、保管箱へ戻す。隣で三上が言う。


『スポンサー案件だから、見栄えの悪い軽傷処理は削れ』


 声だけで十分だった。


「課長も関わってる」


 私は息を整えた。


 灯へ連絡すると、すぐ返信が来る。


『原票が消えてるなら、配信ログで補完しましょう。観客の動画、集めます』


 ありがたい行動力だと思う。派手に正義を叫ぶ前に、消されるものを先に拾う。その順番を分かっている人は信用できる。


 治療記録が消されているなら、消えなかった別の記録を積めばいい。数字は改ざんされる。でも出来事そのものは、案外いろいろな場所へ残っている。


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