第6話 後輩査定官の記者会見
よく通る声ほど、よく磨かれた嘘を運ぶ。
翌昼、局の会見ホールでは片瀬ゆいなが『迅速な救護体制の再構築』を語っていた。私は深夜救護室の壁モニターでその配信を見ていたが、途中でひとりの女が隣へ立つ。
「顔に出てますよ、森崎さん」
朝比奈灯。夜勤専門の配信記者だ。救助配信、スポンサー案件、行政会見。数字より先に違和感を拾う女として有名らしい。
「出していい立場じゃないので困っています」
画面の向こうで、ゆいなが笑顔のまま言う。
『現場では薬剤と人員の最適配分が必要でした。私が臨機応変に承認し、救護を前へ進めたんです』
使っているスライドは、私が査定室で作った分析表だった。名前だけ『片瀬査定官作成』へ差し替えられている。
「露骨ですね」
灯が呆れたように言った。
「でももっと変なのは、会見前の資料です。彼女、事故発生前の時刻で『重傷判定三名・A級六本』って広報へ流してます」
「事故前に?」
「ええ。私、時刻付きで拾ってます」
私は喉の奥が冷えた。事故の規模を、起きる前から都合よく決めていたことになる。
「他にもあります」
灯はスマホを差し出した。
「救護室へ運ばれる前の棚映像。配信者がたまたま映してました」
私は受け取る。
片瀬が笑うたび、モニターの向こうで私の仕事がまた一つ、勝手な手柄へ変えられていく。でも今は怒るより、時刻と在庫がずれている方が重要だった。
嘘は、だんだん一つの形になり始めている。




