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第5話 救助隊長は重傷判定を疑う
重傷札は、責任逃れの札じゃない。
その夜、桐生が処置台の脇へ座標付きの搬送記録を広げた。
「最近、スポンサー案件だけ赤札が増えすぎてる」
「私もそう思っていました」
私は事故ごとの負傷写真を並べる。
「裂傷の長さ、出血量、魔力波形。重傷判定へ上げる基準を満たしていない人が多いんです」
「だが書類上は『緊急救命処置』になってる」
「重傷にすれば、高い薬も、高い保険請求も通しやすいですから」
桐生は薄く眉を寄せた。
「救護まで配信映えのために盛ってるのか」
「盛るだけならまだしも、薬が消えます」
私は昨夜の記録へ指を置いた。
「軽傷者を重傷扱いにすると、本来本当に危険な人へ回す分が減る。昨日だって、私が見なければ呼吸不全の人が後回しでした」
桐生は長く息を吐いた。
「救助は、派手な映像を作る仕事じゃない」
「ええ」
「森崎、お前の査定は現場へ必要だ」
それは異動になってから初めて、自分の仕事を真正面から肯定された言葉だった。
「ただし」
彼は続ける。
「動くなら、請求だけでなく搬送記録も押さえる。どちらか一方だと上は逃げる」
私はうなずいた。
現場と数字。両方を合わせない限り、この手の人間は『誤差でした』で終わらせる。なら私は、もう誤差にされないだけの材料を積む。




