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第20話 夜明けの正しい請求書
正しい請求書は、誰かの負担を増やす紙じゃない。
一か月後、東環ダンジョン救護局には『救護査定再編室』が新設された。深夜救護室はそのまま私の拠点になり、在庫と処置記録は救助隊と査定官の共同管理へ変わっている。A級回復薬の箱には、もう見栄えのための空瓶も余計な札もない。
私は新しい運用票の最後の欄を書き終えた。使用量、必要量、患者負担、補償区分。全部がシンプルで、誰が見ても追える形だ。
「できたか」
桐生が朝の缶コーヒーを置く。最近、この時間に彼が深夜救護室へ寄るのが少しだけ自然になっていた。
「はい。今度は誰の都合でも、数字が曲がりません」
「なら採用だ」
彼は正式承認の入ったファイルを差し出した。
「森崎千春。再編室主任を任せたい」
「私でいいんですか」
「最初からそのつもりで口を利いてる」
思わず笑ってしまった。深夜救護室の冷えた空気が、少しだけ朝の匂いへ変わっていく。
「あと」
桐生が視線をそらしながらも言う。
「次の事故も、その次の夜も、お前と組みたい。お前の精算があれば、救える順番を間違えずに済む」
私は承認ファイルを胸へ抱えた。
足りないと言われた夜へ、もう誰かの都合を混ぜさせない。
正しい請求書は、奪うためじゃなく、ちゃんと届いた証明として残すものだから。




