第2話 左遷先は深夜救護室
深夜救護室は、治療より帳尻の方が冷えている。
東環ダンジョン地下六階。一般救護棟のさらに奥へある夜間専用の処置室は、昼の本部から追い出された備品と人間が集まる場所だった。古い薬棚、期限ぎりぎりの包帯、使われなくなった簡易ベッド。ここへ飛ばされるのは、たいてい誰かの責任を受け止める役だ。
異動初日の二十三時過ぎ、私は薬棚のロット番号を数えていた。すると警報が鳴る。
『地下八階搬路で爆発事故。救助班、深夜救護室へ搬送準備』
扉が勢いよく開いた。市営救助隊長の桐生匡成が、粉塵を肩につけたまま立っている。三十五歳。必要なことしか言わない顔をした男だ。
「在庫が足りない。重傷三、軽傷二で来る」
「A級は四本あります」
「いや、一つ棚が空だ」
私は凍った。記録上は六本のはずだった。
そのとき担架が二台、同時に運び込まれる。一人は脚の裂傷、もう一人は呼吸が浅いのに軽傷札が下げられていた。看護師が慌てて処置台へ並べる。
「森崎、傷の優先順を見てくれ」
「私は査定官です」
「今はそれでいい。数字が読めるなら使え」
私は床へ転がった割れた回復薬瓶へ触れた。瞬間、視界へ白い数字が走る。
負傷の深さ。実際に消費された薬量。改ざんされた記録。誰が、どの処置へ何を上乗せしたか。
「……違う」
軽傷札の患者は内出血で、このままでは危ない。重傷札の一人は、外見ほど深刻ではない。私は自然に声を上げていた。
「先にこっちへA級一。もう一人はB級で足ります」
看護師が動き、桐生が一言だけ言う。
「続けろ」
深夜救護室の冷気の中で、私は初めて、請求書の向こう側にある命の数字を見た。




