表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/6

第1話 功績を奪われた査定室

回復薬の一本は、命の残り時間に近い。


 私は都営東環ダンジョン救護局査定室で、負傷記録と薬剤請求を毎日照合してきた。派手な戦闘も、救助の最前線も私の仕事じゃない。でも、どの傷へどの薬が何本使われたかを間違えれば、次に必要な誰かへ届かなくなる。


「森崎さん、説明してもらえますか」


 課長の三上啓介が、分厚い請求書束を閉じた。四十五歳。都合の悪い数字ほど部下へ押し戻す男だ。その隣には後輩査定官の片瀬ゆいなが、整えた笑顔でタブレットを抱えている。二十五歳。私が弾いた請求を、自分の手柄みたいに通すのが得意な子だ。


「《白狼ストリーム》の救護請求は水増しです。軽傷七名なのに、A級回復薬が十二本も計上されている」


「スポンサー案件だぞ」


 三上は迷いなく言った。


「見栄えのいい成功事例として局内で扱う。森崎は細かすぎる」


「細かいんじゃありません。記録が合っていません」


 私は負傷写真とトリアージ票を並べた。打撲、切創、軽い魔力酔い。高価なA級回復薬を大量消費する傷ではない。


 だが、ゆいなが困ったように口を開く。


「私、現場が混乱していたので緊急承認したんです。請求を止めたら、次の救護体制に支障が出るかなと思って」


 その口ぶりでは、私が現場を知らない融通の利かない人間みたいだ。


「森崎」


 三上が資料を押し戻した。


「今回の件は片瀬の判断を採用する。お前は深夜救護室へ異動だ。在庫照合でもしていろ」


 功績も査定権も、まとめて取り上げるつもりらしい。私は机へ残された請求書へ視線を落とした。最下段の薬剤ロット番号だけ、妙に新しい。


 軽傷の見学案件で、高級回復薬が消えすぎている。


 この請求はただの水増しじゃない。誰かが、薬そのものをどこかへ流している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ