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第13話 元上司の値札
値札をつけたがる人間は、たいてい自分の責任にだけ値段をつけない。
その夜、三上が深夜救護室へ降りてきた。珍しく一人で、上物のコートまで着ている。
「森崎。お前がここまで掘るとは思わなかった」
「なら、最初から掘られるようなことをしないでください」
彼は机へ封筒を置いた。中には本庁復帰案と、主任補佐への推薦メモ。
「今回の件を『災害対応中の在庫混乱』として収めれば、お前を戻せる」
「戻してどうするんです」
「査定は向いている。だが正義感は邪魔だ。数字には調整がいる」
私は笑いそうになった。数字の調整。人の傷と薬の本数を、そんな軽い言葉でまとめるのか。
「足りない分は、足りないまま現場へ来ます」
「それを現場判断で埋めるのが組織だ」
「埋められなかったら?」
三上は黙った。黙ったということは、答えを持っていないのだ。
私は封筒を返す。
「私は不正に判を押すために査定官をやっていません」
三上は苛立ったように声を落とした。
「お前の査定で救えるのは、せいぜい数本の薬と数万の予算だ」
「違います」
私は言う。
「その数本が足りない夜に、誰かが死ぬんです」
彼は私を睨んだまま去った。机へ落とした入館証の移動履歴が、端末に表示されたまま残る。
昨夜二十二時十一分。裏在庫区画。
元上司は、自分で薬を抜いていた。




