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第12話 深夜救護室の裏在庫
裏在庫は、足りないと言い張る人間のすぐそばにある。
【精算】でロット番号を追うと、消えたA級回復薬の流れは深夜救護室の壁の向こうへ続いていた。私は看護師長の協力で古い収納図面を引っ張り出す。すると薬棚の裏に、廃止済みの保守空間がある。
「そんな場所、今まで開けたことないわ」
棚をずらすと、薄い鉄板扉が現れた。鍵は簡単だった。査定室の管理キーで開く。
中には未使用のA級回復薬が六箱、外装だけ付け替えられたB級薬、使用済み扱いの空瓶、そしてスポンサー名入りの持ち帰り袋まで積まれていた。
「……最悪」
思わず声が漏れる。ここは隠し在庫ではない。横流し前提の作業場だ。
棚の奥に置かれた端末を起動すると、転送先一覧が出た。VIP控室、広報素材撮影、クラン補償便。
治療より先に、見栄えと利権へ流していた。
私は最奥の箱へ触れた。【精算】が走る。三上が数量を指示し、片瀬が請求コードを打ち、誰かが『本当に使う時は別便で回せばいい』と笑う。
別便で回らなかったから、昨夜は棚が足りなかった。
「これで終わりです」
桐生が言う。
「証拠としては十分」
「でも私は」
私は箱を見たまま言った。
「これを『不手際でした』で終わらせたくありません」
人の命へ付ける値札が、ここまで軽く扱われていた。そのことが、怒りより先に悲しかった。




