第1章 第8話「全員に届いた秘密」
『隠していることがあるのは、あなただけじゃない。』
共有リビングのモニターに、購入者からのメッセージが表示されていた。
30,000円を払ってINFO-004を購入した人物。
その人物は、手に入れた情報を13人全員へ公開した。
けれど、購入者の名前は分からない。
俺はモニターを見つめた。
13人全員が、過去の一部を話していない。
考えてみれば、当然のことだ。
昨日の自己紹介は、名前と職業と好きなものを話しただけ。
それで人生のすべてを説明できる人間なんて、いないだろう。
それなのに、誰かは30,000円を払った。
そして、この情報を全員に届けた。
レン:「……これ、どう受け取ればいいんだ?」
レンが首をかしげる。
アカリ:「秘密があるのは普通だよね?」
ソウタ:「普通だ。情報自体に驚く要素は少ない」
ヒナ:「じゃあ、30,000円も払った意味は?」
誰も答えなかった。
シオンがノートを開く。
シオン:「購入者は、情報の内容よりも、全員に知らせることを重視したのかもしれない」
リナ:「『あなただけじゃない』っていうメッセージも、誰かに向けた言葉みたいだね」
俺は無意識に、ポケットの上から端末に触れた。
昨日、自室の前に置かれていた黒い封筒。
『あなたの父親は、1億円を盗んでいない。』
そして、今回のメッセージ。
『隠していることがあるのは、あなただけじゃない。』
俺に向けられているようにも思える。
だが、そう考えるのは早い。
この島には、過去を隠している人間が13人いる。
俺だけが特別だと考える理由は、まだない。
◇
そのとき、共有リビングの扉が開いた。
入ってきたのはカイトだった。
カイト:「お、みんないるな。何かあったのか?」
レン:「自己紹介が30,000円で売れた」
カイト:「は?」
レン:「しかも全員、秘密持ちだってさ」
カイト:「……そりゃそうだろ」
カイトは当然のように言った。
カイト:「俺だって昨日、好きなものしか話してねえぞ」
ソウタ:「それが正常な反応だ」
カイトはモニターを見て、少し考えた。
カイト:「でも、わざわざ金払って教えたってことは、誰かに伝えたいことがあったんだろうな」
俺は頷いた。
問題は、何を伝えたかったのかだ。
そして、誰が買ったのか。
シオンが全員に向き直る。
シオン:「購入した人がいるなら、名乗ってもらえると助かる。ただし、強制はしない」
沈黙が流れた。
誰も手を上げない。
俺は周囲を見渡した。
レン、ソウタ、カイト、シオン、リナ、ヒナ、アカリ。
この場にいる全員が、互いの顔を見ている。
だが、購入者は名乗らなかった。
そのとき、レイがリビングに入ってきた。
レイ:「何かあった?」
シオンが事情を説明する。
レイはモニターを見て、小さく頷いた。
レイ:「なるほど。誰かが買ったんだね」
その反応からは、何も読み取れなかった。
◇
午後7時。
夕食の時間になり、食堂には13人が集まっていた。
俺は今日もカレーを注文した。
800円。
安くはないが、余計な出費を抑えるにはちょうどいい。
レン:「ユウキ、またカレー?」
ユウキ:「悪いか?」
レン:「いや。もう島のカレー大使になれるだろ」
ユウキ:「そんな役職いらない」
レンは笑いながら、俺の向かいに座った。
その隣にはアカリ。
さらに、ヒナとカイトもやってきた。
少し離れた席では、シオンとリナが端末を見ながら話している。
ソウタは食事中でも何かを読んでいた。
ナナはハルカとセナに挟まれ、静かに食事をしている。
レイは窓際。
ミオは俺の隣に座った。
昨日まで、食堂ではどこか緊張感があった。
だが、今日は少し違う。
自己紹介をしたことで、会話のきっかけが増えたのかもしれない。
アカリ:「ねえ、明日みんなで島を散歩しない?」
ヒナ:「いいね! 写真撮りたい!」
カイト:「北の展望台なら景色がいいぞ」
レン:「じゃあ決まり! 明日は遠足だ!」
ソウタ:「遠足ではない。島内の地形確認だ」
レン:「お前、楽しいことを全部業務に変えるなよ!」
笑い声が広がった。
俺も笑った。
こんな時間が、365日続けばいい。
ふと、そう思ってしまった。
だが、その願いが簡単には叶わないことを、俺は知っている。
30日目には、第1回投票がある。
誰かをXだと疑い、名前を書く日が来る。
今日笑い合っている相手を、疑わなければならないかもしれない。
そのことを考えると、胸の奥が少し重くなった。
◇
夕食後。
俺は1人で居住棟へ戻ろうとしていた。
すると、背後から声がした。
ナナ:「ユウキくん」
振り向くと、ナナが立っていた。
手には、小さな紙袋。
ユウキ:「どうした?」
ナナ:「これ、よかったら」
紙袋の中には、個包装のクッキーが入っていた。
ユウキ:「え、いいの?」
ナナ:「うん。買いすぎちゃったから」
俺は1つ受け取った。
ユウキ:「ありがとう」
ナナは少し笑った。
だが、すぐに視線を落とす。
ナナ:「……今日の情報、見た?」
ユウキ:「自己紹介のやつ?」
ナナ:「うん」
俺は頷いた。
ナナ:「全員が、何か隠してるんだね」
ユウキ:「そうみたいだな」
ナナ:「……ちょっと安心した」
その言葉に、俺は彼女を見た。
ナナ:「私だけじゃないんだって思ったから」
昨日、ナナは言っていた。
話していないことがある。
でも、嘘をついたわけじゃない。
あの言葉を思い出す。
ユウキ:「話したくないことは、無理に話さなくていいと思う」
ナナ:「……うん」
ナナは小さく頷いた。
そして、少しだけ迷うような表情を見せた。
ナナ:「でも、いつかは話さなきゃいけないのかもしれないね」
ユウキ:「何を?」
ナナは答えなかった。
代わりに、小さく頭を下げた。
ナナ:「おやすみ、ユウキくん」
ユウキ:「おやすみ」
彼女は居住棟の中へ入っていった。
俺は手の中のクッキーを見つめた。
甘いものが好きだと言っていたナナ。
彼女は、何を話していないのだろう。
◇
自室に戻ると、端末に新しい通知が届いていた。
『参加者の皆様へ』
『DAY4より、島内施設の一部を追加開放します』
画面を開く。
『北側展望台』
『森林散策路』
『資料閲覧室』
俺は最後の文字で手を止めた。
資料閲覧室。
そんな施設があるとは聞いていなかった。
詳細を開く。
『資料閲覧室では、島内で公開可能な記録を閲覧できます』
『利用時間:午前9時から午後6時』
『一部資料は閲覧制限の対象となります』
俺は画面を見つめた。
記録。
12年前の事件に関するものが、あるかもしれない。
だが、そう都合よく見つかるだろうか。
それでも、調べる価値はある。
俺は明日の予定をメモした。
『DAY4:資料閲覧室へ行く』
保存ボタンを押した直後、端末がもう1度震えた。
今度は、個別通知だった。
『神崎ユウキ様へ』
心臓が小さく跳ねた。
昨日の非公開メッセージと同じ形式だ。
画面を開く。
『資料閲覧室へ行くなら、最初に古い新聞を調べてください。』
俺は息をのんだ。
誰かが、俺の行動を先回りしている。
それとも、資料閲覧室の開放に合わせて送られた、ただの案内なのか。
続けて、もう1行。
『12年前の記事には、あなたがまだ知らない名前が載っています。』
俺は端末を握りしめた。
12年前。
父さんの事件。
そして、知らない名前。
この島に来てから、何度も過去を突きつけられている。
だが、今回は違う。
明日、実際に調べられる場所がある。
俺は机の引き出しを開け、黒い封筒を取り出した。
『あなたの父親は、1億円を盗んでいない。』
その文章を、もう1度読む。
もし本当なら。
父さんは、何をしたんだ?
そして、誰が1億円を盗んだことになっている?
俺は封筒を閉じた。
明日、何かが分かるかもしれない。
◇
同じ頃。
居住棟の別の部屋。
1人の参加者が、端末に表示された購入履歴を見つめていた。
『INFO-004:参加者の自己紹介について』
『購入金額:30,000円』
『情報共有:完了』
画面には、13人全員へ情報が届けられたことが記録されている。
その人物は、静かに端末を閉じた。
机の上には、昨日の自己紹介で書き留めたメモが置かれていた。
13人の名前。
それぞれの職業。
好きなもの。
そして、名前の横に記された小さな印。
誰が何を話したか。
誰が何を話さなかったか。
その人物は、メモの最後に1行を書き加えた。
『まだ、誰も本当のことを話していない。』
ペンを置く。
窓の外には、暗い海が広がっていた。
DAY3。
第1回投票まで、あと27日。
13人の過去は、まだ誰のものも明らかになっていなかった。
第1章 第8話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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