第2章 第61話「父の名前がある資料」
DAY62 午前6時30分
朝、目を覚ました俺は、しばらく天井を見つめていた。
第2回X投票が終わってから、2日。
ナナがXではないと判明し、昨日はプリン消失事件で丸1日が潰れた。
ちなみに、プリンは1個200円。
ナナが弁償した2個で400円。翌月の生活費が50,000円になることを考えると、決して軽い出費ではない。
……もっとも、事件の最後にレイが食べたプリンについては、まだレンと話がついていないらしい。
廊下から声が聞こえた。
レン:「レイ! 昨日の分、200円返せ!」
レイ:「分かったって」
レン:「それと精神的苦痛!」
レイ:「いくら?」
レン:「プリン1個分!」
レイ:「精神の単位がプリンなんだね」
俺は布団の中で笑った。
こんな朝が、ずっと続けばいい。
けれど、俺たちはまだ島から出られない。
机の上には、昨夜閉じたノートがある。
その最後のページに書いた言葉が、目に入った。
『父さんの証言を調べる』
今日こそ、向き合うつもりだった。
◇
午前7時40分
食堂に行くと、ミオが窓際の席に座っていた。
俺に気づくと、いつものように微笑む。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう。早いな」
ミオ:「少し目が覚めちゃって」
俺は彼女の向かいに座った。
朝食はトーストとゆで卵。それにスープ。
昨日の騒ぎが嘘みたいに、食堂は静かだった。
ミオ:「今日は記録保管室に行くの?」
ユウキ:「うん。父さんの資料を調べようと思う」
ミオの手が、一瞬止まった。
ミオ:「……そっか」
ユウキ:「今までも気になってた。でも、名前を見るのが怖かったんだと思う」
父さんの名前。
神崎直人。
12年前、青風未来基金の会計を担当していた人物。
1億円が消えた事件で、その名前は何度も出てきた。
俺はまだ、父さんが何をしたのか知らない。
知りたいと思う一方で、知ってしまったら何かが変わる気もしていた。
ミオ:「一緒に行こうか?」
ユウキ:「……いいの?」
ミオ:「うん」
彼女は少し笑った。
ミオ:「資料を読むのは、1人より2人の方がいいでしょ」
ユウキ:「そうだな。俺、父さんの名前が出ると冷静に読めないかもしれないし」
ミオ:「そのときは、私が読み上げるよ」
俺は頷いた。
誰かと一緒なら、今日こそページを開ける気がした。
◇
午前9時10分
管理棟の記録保管室・区画B。
俺とミオは、閲覧端末の前に座っていた。
画面には、青風関連資料の一覧が表示されている。
交流会の記録。
写真の管理記録。
未交付品の確認票。
そして、その下に――。
『青風未来基金 会計関連資料』
俺は指を止めた。
ミオ:「ユウキ?」
ユウキ:「……これだ」
項目を開く。
資料の中には、閲覧できるものと、制限がかかっているものがあった。
俺は公開部分を選んだ。
『青風未来基金 会計担当者一覧』
画面に名前が並ぶ。
そして、見つけた。
『神崎直人』
父さんの名前だった。
たった4文字。
それなのに、胸の奥が重くなる。
ミオ:「……載ってるね」
ユウキ:「うん」
俺は画面を下へ送った。
担当期間。
業務区分。
会計資料の確認者。
父さんが基金の会計業務に関わっていたことは、ここでも確認できた。
だが、次の項目で指が止まる。
『資金移動に関する確認記録』
その下には、こう表示されていた。
『関係者証言あり』
俺は思わず息をのんだ。
ユウキ:「父さんの証言……?」
詳細を開く。
表示されたのは、資料の管理番号と、証言者の氏名だけだった。
『証言者:神崎直人』
『本文:閲覧制限あり』
『公開範囲:概要情報のみ』
肝心の証言内容は、見られなかった。
ユウキ:「……ここまで来て、また制限か」
思わず声が漏れた。
ミオは画面を見つめていた。
ミオ:「概要情報は、ほかにない?」
俺は一覧へ戻った。
関連資料が3件表示されている。
『会計担当者確認票』
『資金移動記録・概要』
『関係者証言・閲覧条件』
最後の項目を開く。
そこには、閲覧条件として「本人に関する記録の照合申請」と書かれていた。
ユウキ:「俺の記録と照合できるってことか?」
ミオ:「申請はできそう。でも、どこまで開示されるかは分からないね」
俺は画面を見つめた。
父さんの証言を読むには、まず申請が必要らしい。
その申請によって、どんな情報が出てくるのか。
まだ分からない。
◇
午前10時20分
俺たちは食堂へ戻り、シオンとリナ、ソウタに資料の存在を伝えた。
シオン:「神崎直人の証言記録があったんだね」
ユウキ:「うん。ただ、本文はまだ見られない」
リナ:「閲覧条件は?」
ユウキ:「本人に関する記録の照合申請。俺が申請できる可能性はある」
ソウタが眼鏡を直した。
ソウタ:「その前に、公開されている概要を全部確認した方がいい。証言だけ読んでも、何について話しているか分からない可能性がある」
シオン:「そうだね。会計担当者確認票と資金移動記録を先に見よう」
俺は頷いた。
そこへレンがやってきた。
レン:「おっ、何の会議?」
ユウキ:「父さんの資料が見つかったんだ」
レン:「マジか。俺も手伝う!」
ソウタ:「今日はプリン捜査じゃないぞ」
レン:「分かってるよ! 俺だって真面目なときは真面目だ!」
レイ:「その宣言、毎回聞くね」
レン:「お前はまず200円返せ!」
レイは無言で硬貨を2枚、テーブルに置いた。
レンはそれを受け取ると、満足そうに頷いた。
レン:「よし。これで事件は完全解決だ」
シオン:「じゃあ、今度こそ資料の話をしようか」
俺たちは笑った。
少しだけ、肩の力が抜けた。
◇
午前11時05分
再び記録保管室。
今度は俺、ミオ、シオン、リナ、ソウタの5人だ。
最初に開いたのは『資金移動記録・概要』だった。
画面には、12年前の記録が表示された。
『青風未来基金』
『会計処理に関する確認事項』
『一部取引について、承認手続きの確認が必要』
俺は眉をひそめた。
ユウキ:「承認手続き……?」
リナ:「理事会の承認が必要だった取引かもしれない。でも、この文章だけじゃ、何が不足していたのか分からない」
シオン:「続きは?」
俺は画面を下へ送る。
『関係者への聞き取り実施』
『会計担当者からの説明記録あり』
そこに、また父さんの名前があった。
『神崎直人』
俺は画面を見つめた。
父さんは、資金移動について説明を求められていた。
その事実は、もう否定できない。
だが、説明の内容は見られない。
父さんが何を認め、何を否定したのか。
それすら、まだ分からなかった。
ソウタ:「この概要だけで、資金を盗んだと判断するのは早い」
リナ:「そうね。逆に、問題がなかったとも言えない」
シオン:「だから証言を読む必要がある」
俺は頷いた。
父さんの名前がある資料を、初めて真正面から見た。
怖さは消えていない。
それでも、もう目を逸らしたくなかった。
◇
午前11時45分
閲覧端末に戻り、俺は『関係者証言・閲覧条件』を開いた。
申請画面には、確認事項が表示されている。
『申請者本人との関係を確認します』
『照合対象となる記録を選択してください』
俺は自分の記録を選んだ。
『神崎ユウキ』
続いて、証言者の名前。
『神崎直人』
画面に確認文が現れた。
『照合申請を送信しますか?』
俺は少しだけ手を止めた。
ミオが隣で、静かに待っている。
ミオ:「ユウキ。無理しなくていいよ」
ユウキ:「……ううん」
俺は首を振った。
ユウキ:「今、知りたい」
確認ボタンを押す。
『申請を受け付けました』
『照合結果を確認中です』
すぐには開示されなかった。
俺は画面を見つめたまま、息を吐いた。
今日の午前中に分かったのは、父さんの証言記録が存在すること。そして、資金移動に関する確認を受けていたこと。
まだ、真相には届いていない。
だが、確かに一歩進んだ。
そのとき、画面の表示が切り替わった。
『照合結果の通知を準備しています』
俺は椅子に座り直した。
父さんは、12年前に何を話したのか。
その答えが、もうすぐ目の前に現れようとしていた。
第2章 第61話 完
次回、第62話。DAY62の午後――神崎直人の証言記録。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
ブックマークお願いします♪




