↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの一億円ゲーム〜この中に、主催者Xがいる〜  作者: こよみん
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/62

第1章 第60話「第2回プリン消失事件」

挿絵(By みてみん)


 DAY61。

 第2回X投票から、一夜が明けた。

 昨日、ナナは最多得票者として判定され、主催者Xではないことが確定した。

 投票の緊張から解放された朝。

 俺たち13人を待ち受けていたのは、予想もしない事件だった。

レン:「……ない」

 食堂の冷蔵庫を開けたレンが、低い声で呟いた。

レン:「ない……ないぞ……!」

ソウタ:「何が?」

 レンはゆっくりと振り返った。

 その顔は、昨日の投票結果を待っていたときよりも深刻だった。

レン:「俺のプリンが、消えた」

 食堂が静まり返った。

 レイがコーヒーを置く。

レイ:「また?」

レン:「またって言うな! 今回は2個買って、1個は昨日食べた。残りの1個を今日の楽しみにしてたんだ!」

 前回のプリン消失事件では、犯人はレイだった。

 しかも動機は、投票対象者に選ばれた腹いせ。

 あの事件を受け、レンはプリンの蓋に大きく名前を書くようになっていた。

レン:「今回は『レンのプリン。食べたら絶交』って書いたんだぞ!」

カイト:「絶交の対象、13人中12人かよ」

レン:「それくらい大事だったんだ!」

 俺は冷蔵庫を覗いた。

 確かに、プリンはない。

 代わりに、棚の奥に空の容器が1つ置かれていた。

 蓋には、太い文字で『レンのプリン』。

 食べた人物は、容器だけを残していた。

レン:「挑発だ……!」

ソウタ:「普通に捨て忘れただけじゃないか?」

レン:「犯人の心理を勝手に軽くするな!」

 こうして、島を揺るがす第2回プリン消失事件が幕を開けた。

     ◇

 午前9時。

 食堂のテーブルを囲み、13人全員による緊急会議が始まった。

 議長はシオン。

 書記は俺。

 被害者はレン。

 そして容疑者は、レンを除く12人。

シオン:「まず、プリンを最後に確認した時刻は?」

レン:「昨日の夜9時!」

ユウキ:「今朝、なくなっているのに気づいたのが8時半だな」

シオン:「つまり、その間に食べられた可能性がある」

レイ:「僕は今回は食べてないよ」

レン:「前科がある人間の発言は慎重に扱う」

レイ:「前回は自白したでしょ」

レン:「それはそう!」

 俺はホワイトボードに書いた。

『被害品:プリン1個』

『発見場所:食堂の冷蔵庫』

『残された物:空の容器』

『犯行推定時刻:昨夜9時〜今朝8時半』

 そこへアカリが手を挙げた。

アカリ:「ねえ、昨日の夜、ナナが食堂にいたよね?」

 全員の視線が、ナナへ向いた。

 ナナはきょとんとした顔で首を傾げた。

ナナ:「……違います」

 小さく、柔らかく、少しだけ頬を膨らませた返答だった。

 上目遣いで、もう一度。

ナナ:「私じゃないです……」

 …………。

 誰も反応できなかった。

 レンですら口を開けたまま固まっている。

 アカリは両手で口元を押さえた。

 ハルカは無言で目を逸らした。

 カイトは天井を見た。

 ソウタは眼鏡を直そうとして、途中で手を止めた。

シオン:「……ええと」

ユウキ:「……次の質問に進もうか」

レン:「待て! 今の可愛さで捜査を終わらせるな!」

 ようやく被害者が正気に戻った。

     ◇

 午前10時。

 容疑者への聞き取りが始まった。

 まずはレイ。

レイ:「昨日は自室にいたよ。前回の件があるから、今回は冷蔵庫にも近づいてない」

レン:「本当だな?」

レイ:「本当。そもそも、君のプリンを食べるなら今回はちゃんと買うよ」

レン:「前回もそうしてくれ!」

 続いてソウタ。

ソウタ:「俺は昨日の夜、シオンと資料を整理していた」

シオン:「確認できる」

 リナ、セナ、ハルカも、それぞれ昨夜の行動を説明した。

 ミオは自室で本を読んでいたという。

 俺も昨夜は自室でノートを整理していた。

 そして、ナナの番になった。

シオン:「ナナ。昨日の夜、食堂に来た?」

ナナ:「……来ました」

レン:「おっ!」

ナナ:「お水を飲みに……」

 ナナは両手でコップを持つ仕草をした。

ナナ:「喉が渇いてたので……」

 …………。

 再び沈黙。

カイト:「……水は大事だな」

ソウタ:「捜査を進めろ!」

 シオンが咳払いをした。

シオン:「冷蔵庫は開けた?」

ナナ:「……開けました」

レン:「おおっ!?」

ナナ:「冷たいお水を取ろうと思って……」

 ナナは、また少しだけ頬を膨らませた。

ナナ:「でも、プリンは食べてないです……」

 レンが机に突っ伏した。

レン:「くそっ……! 疑いにくい……!」

レイ:「君、前回は僕を即座に犯人扱いしたよね」

レン:「お前は実際に犯人だっただろ!」

     ◇

 昼。

 捜査はいったん中断された。

 昼食のメニューは焼き魚定食。

 レンは魚を見つめながら呟いた。

レン:「プリン……」

ソウタ:「魚に謝れ」

 俺は食堂の隅で、午前中の証言を整理した。

 ナナは昨夜、食堂に来た。

 冷蔵庫も開けた。

 だが、それだけではプリンを食べた証拠にならない。

 そこでヒナが声を上げた。

ヒナ:「あっ! 昨日の夜、写真撮った!」

ユウキ:「写真?」

ヒナ:「星がきれいだったから、食堂の窓から撮ったの。ナナも一緒にいたよ」

 ヒナが端末を開く。

 表示されたのは、夜空を撮影した写真だった。

 窓際に、ナナの後ろ姿が小さく写っている。

 撮影時刻は午後10時17分。

 その写真の端に、食堂のテーブルが写っていた。

 俺は画面を拡大する。

ユウキ:「……これ」

 テーブルの上に、小さな容器がある。

 白い蓋。

 丸い形。

 レンが立ち上がった。

レン:「プリンだあああ!」

 ナナの肩が、ぴくりと動いた。

     ◇

 午後1時。

 緊急会議が再開された。

 ホワイトボードには、新しい証拠が追加されている。

『午後10時17分の写真に、プリンと思われる容器』

 シオンが説明する。

シオン:「ただし、写真だけでは誰が食べたか分からない」

レン:「でも、ナナはそこにいた!」

ナナ:「……違います」

 また、あの声だった。

ナナ:「私、食べてないです……」

 …………。

 全員が黙った。

 レンは両手で顔を覆った。

レン:「頼む……! その言い方をやめてくれ……!」

アカリ:「可愛すぎて追及できないよ!」

ハルカ:「ナナ、普通に答えて大丈夫だからね」

ナナ:「……はい」

 返事まで可愛かった。

ソウタ:「この島、推理より感情が優先されすぎだろ!」

 俺は笑いをこらえながら、写真をもう一度確認した。

 テーブルに置かれた容器。

 その横には、小さなスプーン。

 そして、もう1つ。

 折り畳まれた紙が写っていた。

ユウキ:「ヒナ、この紙って何?」

ヒナ:「あ、それ! ナナが持ってたメモだよ」

ナナ:「……!」

 ナナの顔が、わずかに赤くなった。

     ◇

 午後2時。

 俺たちは、写真に写った紙について確認した。

 ナナは最初、何のメモか思い出せないと言った。

 だが、ヒナが当時の会話を思い出した。

ヒナ:「ナナ、昨日『明日買い物しなきゃ』って言ってたよね?」

ナナ:「……うん」

ヒナ:「それで、メモを書いてた」

 ナナは小さく頷いた。

ナナ:「生活用品の買い物メモです」

 シオンが尋ねる。

シオン:「見せてもらえる?」

 ナナは少し迷ったあと、ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。

 そこには、こう書かれていた。

『洗剤』

『ティッシュ』

『お茶』

『プリン』

 全員の視線が、最後の1行に集中した。

レン:「プリン!!」

ナナ:「……!」

 ナナは慌てて紙を隠そうとした。

ナナ:「これは、その……」

 頬が真っ赤になっている。

ナナ:「自分で買おうと思って……」

 レンは机に手をついた。

レン:「じゃあ、なんで俺のプリンが消えたんだよ!」

ナナ:「……違います」

 小さな声。

 上目遣い。

 少し潤んだ瞳。

 …………。

 誰も言葉を発せなかった。

 ソウタだけが、眼鏡を外して目頭を押さえた。

ソウタ:「頼むから、証拠と可愛さを別々に処理してくれ……」

     ◇

 午後4時。

 捜査は最終段階に入った。

 決定的な証拠を見つけたのは、リナだった。

リナ:「ねえ。空の容器、まだあるよね?」

レン:「ある!」

 レンが証拠品として保管していた容器を持ってくる。

 リナは蓋を確認した。

 そこには、レンが書いた文字が残っている。

『レンのプリン。食べたら絶交』

 だが、その下に、小さな文字が書き足されていた。

『ごめんなさい』

 全員が固まった。

レン:「……誰だ、これ書いたの」

 ナナが、ゆっくりと顔を伏せた。

 リナは続けた。

リナ:「ナナ、昨日の買い物メモと同じペンだよね」

 ナナは答えない。

 シオンが、メモと蓋を並べた。

 どちらも青いインク。

 文字の癖もよく似ている。

 それだけで筆者を断定することはできない。

 だが、ナナが食堂にいたこと、プリンの容器が写真に写っていたこと、買い物メモにプリンと書かれていたこと。

 そして、蓋の『ごめんなさい』。

 複数の事実が、同じ方向を指していた。

シオン:「ナナ。もう一度だけ聞くね」

 ナナは顔を上げた。

シオン:「レンのプリンを食べた?」

 長い沈黙。

 そして――。

ナナ:「…………はい」

 食堂が静まり返った。

ナナ:「……食べました」

レン:「犯人だあああああ!!」

     ◇

 午後5時。

 ナナによる供述が始まった。

 彼女は椅子に座り、両手を膝の上に置いていた。

ナナ:「昨日、投票で私が対象者に選ばれて……」

 声が少し小さくなる。

ナナ:「Xじゃないって分かって、安心したんですけど……やっぱり、ショックで……」

 俺たちは黙って聞いた。

ナナ:「みんなに疑われたことを思い出したら、なんだか悲しくなって……」

 ナナは俯いた。

ナナ:「ストレス発散で、甘いものが食べたくなりました」

レン:「それで?」

ナナ:「冷蔵庫を開けたら、プリンがあって……」

レン:「俺の名前、書いてあったよな?」

ナナ:「……はい」

レン:「絶交って書いてあったよな?」

ナナ:「……はい」

 ナナは、ぎゅっと目を閉じた。

ナナ:「でも、食べちゃいました……」

 その場にいた全員が、言葉を失った。

 ナナは続けた。

ナナ:「食べたあと、悪いことしたと思って、蓋に『ごめんなさい』って書きました」

 俺はノートに記した。

『犯行動機:投票対象者に選ばれたショック』

『ストレス発散のため、甘いものを食べたくなった』

『被害品:レンのプリン1個』

 ……第1回プリン消失事件と、動機がほぼ同じだった。

 俺はレイを見た。

 レイも俺を見た。

レイ:「歴史は繰り返すんだね」

ソウタ:「この島の歴史、プリンに偏りすぎだろ」

     ◇

 午後6時。

 判決の時間が来た。

 議長のシオンが、厳粛な表情で立ち上がる。

シオン:「第2回プリン消失事件。被疑者、水瀬ナナ」

 ナナが小さく肩を震わせた。

シオン:「本人の供述と、写真および容器の記載内容を総合し、犯人はナナと認定します」

 レンが拳を握った。

レン:「よし!」

 シオンは続ける。

シオン:「処分は、プリン2個の弁償」

ナナ:「……はい」

レン:「異議なし!」

 ナナは立ち上がると、レンに向かって深く頭を下げた。

ナナ:「レンくん、ごめんなさい……」

 その声が、あまりにも可愛かった。

 レンは硬直した。

レン:「…………」

ナナ:「ちゃんと、2個買って返します……」

 レンは胸を押さえた。

レン:「……1個でいい」

ソウタ:「判決を勝手に減刑するな!」

 全員が笑った。

 ナナも、ようやく笑った。

     ◇

 夜。

 食堂には、いつもの賑やかさが戻っていた。

 ナナは売店で買ったプリンを2個、レンに差し出した。

ナナ:「本当にごめんなさい」

レン:「もういいって。昨日はいろいろあったしな」

 レンは1個を受け取り、もう1個をナナに返した。

ナナ:「えっ?」

レン:「それ、一緒に食べようぜ」

 ナナは目を丸くした。

ナナ:「……いいの?」

レン:「ただし、次からはちゃんと自分のを買えよ!」

ナナ:「うん!」

 2人は並んでプリンを食べ始めた。

 俺はその様子を見ながら、少し笑った。

 昨日、ナナはX投票の対象者に選ばれた。

 今日は、プリン消失事件の犯人に選ばれた。

 まさか2日連続で、全員の注目を集めることになるとは。

ミオ:「ユウキ、何笑ってるの?」

ユウキ:「いや、平和だなって」

 ミオは俺の隣に座った。

ミオ:「そうだね」

 そのとき、レンが突然立ち上がった。

レン:「待て! 俺のプリン、もう1個ない!」

 食堂が静まり返った。

 全員の視線が、ナナへ向く。

 ナナはスプーンを持ったまま、きょとんとした。

ナナ:「……違います」

 …………。

 誰も反応できなかった。

 レイが、ゆっくりと手を挙げた。

レイ:「それ、僕が食べた」

レン:「お前かあああああ!!」

 食堂に、今日一番の笑い声が響いた。

 こうして第2回プリン消失事件は解決した。

 

第1章 第60話 完

第1章 第51〜60話 あらすじ・重要事項まとめ

あらすじ

管理棟の記録保管室で、13人全員に12年前の「青風」に関する記録が存在すると判明する。ユウキは自分が交流会の04班に所属していたことを確認。さらに、当時渡されなかった紙製保管袋には、写真と手紙が入っていたことが分かる。

未交付品の管理に関わっていたのは、ナナの母・水瀬真紀だった。ナナは写真や母親の言葉を少しずつ思い出すが、説明が増えるほど周囲の疑惑も強まっていく。

DAY60、第2回X投票。最多の6票を集めたナナが判定対象となる。しかし結果は**「Xではない」**。ユウキは今回もシオンに投票していた。

翌日、レンのプリンが消失。全員による捜査の末、犯人はナナと判明する。投票対象者に選ばれたショックから、甘いものが食べたくなったという。プリン2個の弁償で事件は解決し、13人に笑顔が戻った。

判明した重要事項

- 13人全員に青風関連記録がある。ただし、関わり方はそれぞれ異なる。

- ユウキとナナは、12年前の交流会で04班に参加していた。

- 04班の未交付品には写真と手紙が含まれ、別々に保管された。

- 水瀬真紀は、児童保護上の事情から直接交付を避け、指定窓口を通じて返却を確認していた。

- ユウキ自身も未交付写真の照合対象だが、受取予定者かどうかは不明。

- 第2回投票はナナ6票、シオン3票、ソウタ2票、ミオ1票、セナ1票。ナナは非Xと確定し、今後の判定対象から除外された。

- Xは残る11人の中にいる。 第3回投票はDAY90。

第2章へ――父が隠した真実

ナナへの疑いは晴れた。しかし、青風の写真と手紙は、まだ本来の持ち主に届いていない。

そしてユウキの前には、もう1つの未解決事件が残されている。

12年前、青風未来基金から消えた1億円。

会計担当だった父・神崎直人は、なぜ資金を移動させたのか。なぜ行き先を明かさなかったのか。

父は本当に、1億円を盗んだのか――。

第2章では、ユウキが避け続けてきた父の証言へと迫る。守ろうとしたもの、隠された行き先、そして13人をこの島に集めた理由。

過去を知るほど、今そばにいる仲間たちの見え方が変わっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。