第1章 第59話「第2回X投票」
DAY60。
第2回X投票の日が来た。
午前9時。食堂に集まった13人の間に、いつもの朝とは違う緊張が漂っていた。
ナナはハルカの隣に座り、冷めかけたスープを見つめている。
俺は昨夜のノートを開いた。
ナナの母親は、青風の未交付品管理に関わっていた。ナナ自身も04班に参加し、写真や手紙について断片的な記憶を持っている。
だが、彼女が現在のゲームを運営している証拠はない。
ほかの参加者についても、決定的な証拠は見つかっていなかった。
レン:「なあ、投票前に1つだけ言っていい?」
ソウタ:「内容による」
レン:「今日の昼飯、カレーだって」
カイト:「だから何だよ」
レン:「結果がどうなっても、カレーは食べようぜ」
レイが小さく笑った。
レイ:「昨日は投票後に食べられるか心配してたのに」
レン:「だから確認したんだよ。俺なりの危機管理だ」
ナナの口元が、ほんの少し緩んだ。
その笑顔を見て、俺はノートを閉じた。
投票まで、あと1時間。
◇
午前10時。
中央施設の扉が開いた。
13人全員が入室すると、正面の大型画面が点灯する。
『第2回X投票を開始します』
『判定済みの九条レイを除く12人が、今回の判定対象です』
『九条レイも投票には参加します』
続いて、投票規則が表示された。
『参加者13人全員が、必ず1票を投じてください。棄権はできません。自分自身への投票は可能です』
『最多得票者1人を、主催者Xかどうか判定します』
『最多得票者が同数の場合、同数者に弁明の機会を設けたうえで、その人物たちだけを対象に決選投票を行います』
『決選投票は、弁明終了後の相談を禁止し、13人全員が一斉に投票します』
『決選投票でも最多同数の場合、今回の判定は行いません』
『Xではないと判定された参加者は、以後の判定対象から除外されます。ただし、投票には引き続き参加します』
最後に、賞金と生活費に関する説明が出た。
『主催者Xの特定に成功した場合、ゲームは終了し、規定に従い賞金1億円が支払われます』
『判定対象者がXではなかった場合、翌月の生活費は通常の100,000円から50,000円となります』
レンが天井を仰いだ。
レン:「また半額になったら、俺の食生活が……」
ソウタ:「プリンを減らせ」
レン:「命を減らせって言ってるのと同じだぞ」
誰も、その主張には同意しなかった。
画面が切り替わる。
『投票前に、確認事項がある参加者は発言してください』
シオンが手を挙げた。
シオン:「ナナ。昨日までの話で、補足したいことはある?」
ナナは一瞬、目を伏せた。
それから立ち上がった。
ナナ:「……あります」
◇
ナナ:「私のお母さんが青風で働いていたことは、本当です。未交付品の管理に関わっていたことも、記録で確認できました」
彼女は両手を握りしめた。
ナナ:「私が青風に何度も行っていたことも、本当です。でも、私は当時8歳でした。誰が何を預けたのか、全部を知っていたわけじゃありません」
誰も口を挟まない。
ナナ:「写真を見て、あとから思い出したことがあります。だから、最初に話したことより説明が増えました。でも、話を作ったわけじゃないです」
アカリが顔を上げた。
ナナ:「管理棟が青風の事務室に似ていると思ったことも、青い飾りを持っていたことも、隠していたつもりはありません」
ナナは一度、深く息を吸った。
ナナ:「私は、主催者Xではありません」
その声は震えていた。
けれど、最後の言葉だけは、はっきり聞こえた。
ナナ:「私も、12年前に何があったのか知りたいです」
彼女が座ると、ハルカがそっと背中に手を添えた。
◇
画面に、13人の名前が表示された。
『投票を開始してください』
俺の端末にも候補者一覧が現れる。
ナナの名前に視線が止まった。
彼女の説明には、まだ確認できない部分がある。
ただ、それはほかの参加者も同じだ。
俺はシオンの名前を見た。
第1回投票で、俺が選んだ相手。
彼は資料の読み方をよく知っている。今回も調査を整理し、議論を進めていた。
だが、俺は彼の知識がどこから来ているのか、すべてを把握しているわけではない。
今のゲームを運営する側と結びつく証拠もない。
迷った末、俺は自分の考えで名前を選んだ。
『投票先:藤堂シオン』
確認ボタンを押す。
『投票を受け付けました』
俺は、ナナには投票しなかった。
◇
全員の投票が終わるまで、数分かかった。
画面に表示が出る。
『13票の受付を確認しました』
『集計中』
隣に立つミオは、静かに画面を見ていた。
俺は彼女に話しかけようとして、やめた。
投票はもう終わっている。
誰が誰に入れたのか、今ここで尋ねる必要はない。
やがて、集計結果が表示された。
候補者得票数
水瀬ナナ6票
藤堂シオン3票
黒川ソウタ2票
白石ミオ1票
相沢セナ1票
その他0票
合計13票
ナナが、小さく息をのんだ。
『最多得票者:水瀬ナナ』
『同数最多ではないため、決選投票は行いません』
俺は画面を見つめた。
6票。
ナナの名前を挙げていた人は確かにいた。
だが、実際に過半数近い票が集まった数字を見ると、胸が重くなった。
アカリは唇を噛み、ハルカはナナの方を見ていた。
ナナは俯かなかった。
ただ、画面をじっと見つめていた。
◇
『水瀬ナナを判定します』
中央の画面が暗転した。
誰も声を出さない。
数秒後、白い文字が浮かび上がった。
『判定結果』
『水瀬ナナは、主催者Xではありません』
ナナの肩が、大きく下がった。
俺は思わず息を吐いた。
レイに続いて、2人目の非X判定。
ナナは、Xではなかった。
『水瀬ナナは、以後のX投票における判定対象から除外されます』
『ただし、今後も投票には参加します』
『主催者Xは、引き続き参加者の中に存在します』
画面はそこで止まった。
ナナは両手で顔を覆った。
ナナ:「……よかった」
その声を聞いて、俺は何も言えなかった。
彼女はXではなかった。
それでも、疑われた時間が消えるわけではない。
◇
少しして、アカリがナナの前に立った。
アカリ:「ナナ……ごめん」
ナナは顔を上げた。
アカリ:「私、疑ってた。説明を聞いても、まだ何かあるんじゃないかって思ってた」
ナナは首を振った。
ナナ:「投票するゲームだから……」
アカリ:「それでも、何度も聞いちゃったことは謝りたい」
ナナは少し黙ってから、頷いた。
ナナ:「……うん」
ハルカが2人のそばに立つ。
ハルカ:「今日は、もう休もう」
レイが壁から背を離した。
レイ:「ナナ。これで僕と同じだね」
ナナ:「……同じ?」
レイ:「Xじゃないと分かっても、島から出られるわけじゃない」
ナナは目を丸くした。
レイは続けた。
レイ:「それに、次の投票でも僕たちはちゃんと1票を持ってる」
ナナは、ようやく小さく笑った。
◇
昼食の時間。
レンは宣言どおりカレーを食べていた。
レン:「みんな、約束どおり食べようぜ!」
ソウタ:「誰も約束してない」
レン:「朝の俺が約束した!」
カイト:「お前1人で完結してんじゃねえか」
食堂に、少しずつ会話が戻ってきた。
俺はナナの隣に座った。
ユウキ:「ナナ。今日はお疲れさま」
ナナ:「……ありがとう」
彼女はスプーンを置いた。
ナナ:「ユウキくんは、私に投票した?」
俺は首を振った。
ユウキ:「シオンに入れた」
ナナは少し驚いた顔をした。
ナナ:「そうだったんだ」
ユウキ:「でも、俺もナナのことを疑問に思った部分はあった。だから、何も疑ってなかったとは言えない」
彼女は静かに頷いた。
ナナ:「うん。ちゃんと話してくれて、ありがとう」
◇
午後。
中央施設から、生活費についての通知が届いた。
『第2回判定結果:主催者Xの特定に至らず』
『翌月の生活費:各参加者50,000円』
レンが通知を見て、静かにカレーの皿を抱えた。
レン:「今日のカレー、大事に食べる……」
ソウタ:「もう空だぞ」
レン:「心の中で食べるんだよ!」
笑い声が起きた。
俺も少し笑った。
だが、次の月も生活費は半額だ。
残された参加者は13人のまま。
判定対象から外れたのは、レイとナナの2人。
主催者Xは、残る11人の中にいる。
◇
夕方、俺はミオと海沿いを歩いていた。
波の音だけが、しばらく続いた。
ミオ:「ナナ、少し落ち着いたみたいだね」
ユウキ:「うん」
俺は海を見つめた。
ユウキ:「また外れたな」
ミオ:「……うん」
ユウキ:「でも、ナナがXじゃないって分かった。それは、ちゃんと前に進んだってことだよな」
ミオは俺の隣で立ち止まった。
ミオ:「そうだと思う」
彼女が、そっと俺の手を握る。
俺も握り返した。
ユウキ:「次は、もっと確かなものを見つけたい」
ミオ:「うん。一緒に探そう」
夕陽が海に沈みかけていた。
俺は、彼女の手の温かさを感じながら、遠くの水平線を見つめた。
◇
夜。
俺は自室でノートを開いた。
『DAY60 第2回X投票』
『水瀬ナナ:6票で最多得票』
『判定結果:Xではない』
『以後の判定対象から除外。投票権は継続』
『俺の投票先:藤堂シオン』
『翌月生活費:50,000円』
その下に、もう1行書き足した。
『青風の未交付品と、Xの正体は、まだ結びついていない』
俺はペンを置いた。
ナナはXではなかった。
けれど、彼女の母親が残した記録には、まだ分からないことがある。
あの写真と手紙は、誰が誰に渡そうとしたものなのか。
そして、父さんが12年前に関わった1億円の資金移動と、どうつながるのか。
明日から、また調べよう。
俺はノートを閉じた。
第1章 第59話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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