第1章 第58話「最後の確認」
DAY59。
第2回X投票まで、あと1日。
朝食の席で、俺はナナと目が合った。
彼女は小さく会釈したあと、すぐに視線を落とした。
昨日までの話し合いで、ナナの名前を候補に挙げる参加者は増えている。母親が青風の職員だったこと。未交付品に関する記憶を持っていること。島に到着した初日から、管理棟を気にしていたこと。
どれも事実か、本人がそう記憶していると話したことだ。
ただし、どれも単独ではXの証拠にならない。
俺はその区別を、何度もノートで確認していた。
レン:「ユウキ、顔が怖いぞ」
ユウキ:「考え事してた」
レン:「俺も明日のこと考えてる」
ユウキ:「珍しいな」
レン:「昼飯、投票の前と後どっちに食えるんだろうって」
ソウタ:「午前10時開始だ。普通は後だろ」
レン:「緊張すると腹減るじゃん!」
レイ:「緊張しなくても減ってるよね」
笑い声が上がった。
ナナも、ほんの少しだけ笑った。
◇
朝食後、シオンが13人を食堂に集めた。
シオン:「今日は投票前の最終確認をしたい。新しい資料を見つけた人は共有してほしい。ただし、確認できた事実と推測は分けよう」
ホワイトボードには、これまでの疑問が並んでいる。
『黒い封筒を島へ持ち込んだ人物』
『DAY1の港の写真に写る人物』
『匿名メッセージの送信者』
『青風の未交付品と現在のゲームとの関係』
どれも未解決だ。
その下に、ナナに関する項目があった。
『水瀬真紀の娘』
『04班参加者』
『未交付品について複数の記憶あり』
『DAY1に管理棟へ視線を向けていた』
アカリが手を挙げた。
アカリ:「私、ナナにもう1つ聞きたいことがある」
ナナ:「……うん」
アカリ:「管理棟を見たとき、青風に似てるって思ったんだよね。だったら、どうしてそのとき言わなかったの?」
ナナは少し考えた。
ナナ:「似てると思ったこと自体、写真を見るまで忘れてたの。DAY1には、なんとなく気になっただけだったと思う」
アカリ:「そっか……」
答えは、それ以上広がらなかった。
俺はナナの説明をノートに書き足した。
◇
午前中、俺はシオン、リナ、ソウタと記録保管室・区画Bへ向かった。
最後に確認したいのは、04班の未交付品に関する追記だ。
『照合担当:早川恵子』
『確認者:水瀬真紀』
『確認者による追記あり』
昨日まで、その内容は閲覧できなかった。
端末で開示条件を調べると、追記のうち個人情報を含まない部分について、閲覧申請が可能になっていた。
俺たちは申請した。
しばらくして、画面に結果が表示される。
『一部開示』
続いて、追記の一文が現れた。
『児童本人への直接交付は行わず、指定窓口を通じて返却可否を確認すること』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「……これが追記か」
リナ:「これまで見つけた返却手続きと一致してる」
シオン:「水瀬真紀が、直接渡さないよう確認していたことは分かったね」
ソウタ:「ただし、その理由を本人が決めたのか、施設の方針を記録しただけなのかは不明だ」
俺は頷いた。
この一文は、未交付品を守ろうとした記録にも見える。
だが、別の見方もできる。
水瀬真紀は、誰に渡すべきかを知っていたのではないか。
そして、その情報をナナが聞いていた可能性はないのか。
疑問は消えるどころか、少し形を変えて残った。
◇
昼食後、俺たちは追記を全員に共有した。
ナナは、画面に映された母親の名前をじっと見つめていた。
ナナ:「……お母さん、ちゃんと返そうとしてたんだね」
彼女の声は小さかった。
そこでカイトが尋ねた。
カイト:「ナナ。指定窓口って、どこのことか聞いたことねえか?」
ナナ:「分からない」
カイト:「そっか」
ソウタが続けた。
ソウタ:「母親が自宅で仕事の話をしていたことは?」
ナナ:「青風の話はしてたよ。でも、子どもの名前とか、どこへ行ったとか、そういうことは教えてくれなかった」
シオン:「保護に関わる情報なら、家族にも話さないのは自然だと思う」
ナナは頷いた。
だが、アカリはまだ納得しきれていないようだった。
アカリ:「でも、ナナは写真の話を覚えてたんだよね?」
ナナ:「お母さんが話してた言葉を、少しだけ……」
アカリ:「その写真を渡したかった子が誰かは?」
ナナ:「……分からない」
短い沈黙が落ちた。
俺は、その沈黙の重さを感じていた。
◇
午後、ナナが俺を呼び止めた。
ナナ:「ユウキくん。少しだけ、話せる?」
俺たちは中庭へ出た。
ベンチに座ると、ナナはしばらく海を見つめていた。
ナナ:「今日の追記を見て、思い出したことがあるの」
ユウキ:「うん」
ナナ:「お母さん、あの頃、何度か電話してた。青風の事務室からじゃなくて、家に帰ってから」
俺はノートを開こうとして、手を止めた。
ユウキ:「書いてもいい?」
ナナ:「うん」
彼女は頷いた。
ナナ:「電話の相手は分からない。でも、お母さんが『本人の安全が確認できるまでは』って言ってた気がする」
ユウキ:「それは、写真の件?」
ナナ:「分からない。別の仕事の話だったかもしれない」
ナナは膝の上で手を握った。
ナナ:「私、昨日まで思い出せなかったのに、またこんなこと言ったら……」
言葉が途切れた。
俺は静かに答えた。
ユウキ:「思い出したことは、思い出したこととして記録するよ。何の話だったかは、まだ決めない」
ナナは小さく頷いた。
◇
夕方。
最終確認のため、13人が再び食堂に集まった。
シオンがホワイトボードを示す。
シオン:「明日の投票前に、各自が疑問に思っていることを確認しておきたい」
レイが口を開いた。
レイ:「僕は、ナナについてまだ確認したいことがある。本人が覚えていないと言っている部分も含めてね」
ナナは顔を上げた。
レイ:「ただ、覚えていないこと自体を嘘だと決めつけるつもりはない」
ソウタが続ける。
ソウタ:「俺は、12年前の情報と現在のゲームをどう結びつけるかが問題だと思う。ナナには関係する記憶が多い。でも、それがXの立場に結びつくかは分からない」
アカリ:「私は……まだナナが気になってる」
アカリはナナを見た。
アカリ:「ごめんね。でも、明日は自分で考えて投票するから」
ナナ:「……うん」
ハルカが静かに言った。
ハルカ:「疑問があることと、答えを決めつけることは別だよ」
セナも頷いた。
セナ:「明日まで、ちゃんと考えよう」
俺は全員の顔を見た。
ナナの名前が、話し合いの中心にある。
だが、投票先はまだ誰にも分からない。
◇
夜。
俺はミオと海沿いを歩いていた。
明日はDAY60。
第2回X投票だ。
ミオ:「ユウキ、今日はずっと考えてたね」
ユウキ:「うん」
俺は海を見つめた。
ユウキ:「ナナのこと、気になる部分はある。でも、Xだって決められるほどの証拠はない」
ミオ:「そうだね」
ユウキ:「ほかの人についても同じなんだ。結局、誰を選ぶにしても、分からない部分が残る」
ミオは静かに頷いた。
少し歩いたところで、彼女が立ち止まった。
ミオ:「ユウキ」
ユウキ:「ん?」
ミオ:「明日、誰に投票しても、自分で考えて決めたことなら、私はちゃんと聞くよ」
俺は彼女を見た。
ユウキ:「……ありがとう」
ミオは微笑んだ。
そして、そっと俺の手を握った。
俺も握り返した。
明日、俺たちはまた1人を選ぶ。
その結果が何であっても、12年前の真相を探すことはやめたくない。
◇
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『DAY59 最終確認』
『水瀬真紀の追記:本人への直接交付を避け、指定窓口を通じて返却可否を確認』
『ナナの記憶:母親が「本人の安全が確認できるまでは」と電話で話していた可能性』
『電話の内容と未交付品の関係は未確認』
『ナナを候補に挙げる参加者が複数いる』
最後に書いた。
『明日、DAY60。第2回X投票』
俺はペンを置いた。
ナナが知っていること。
ナナが知らないこと。
そして、俺たちがまだ見つけていないこと。
それらを混同しないように、もう一度ノートを読み返した。
明日の投票で、俺は誰を選ぶのか。
答えを出さなければならない時間が、すぐそこまで迫っていた。
第1章 第58話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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