第1章 第57話「疑惑の写真」
DAY56。
第2回X投票まで、あと4日。
朝、食堂に入ると、ナナが掲示板の前に立っていた。
貼られているのは、昨日の話し合いで使った候補者一覧だ。
シオン、ソウタ、リナ、ナナ。
そのほかにも名前はあるが、ナナの欄だけ、書き込まれた質問が増えていた。
『母親が未交付品の管理に関与』
『DAY1に管理棟を見ていた理由』
『青風について、まだ思い出していないことは?』
ナナは俺に気づくと、少し困ったように笑った。
ナナ:「おはよう、ユウキくん」
ユウキ:「おはよう。……この表、気になるよな」
ナナ:「うん。でも、質問があるなら答えたいから」
彼女は掲示板に向き直った。
ナナ:「私も、分からないことばっかりなんだけどね」
その声は、いつもより小さかった。
◇
午前中。
ヒナが、DAY1に撮影した写真を整理していた。
黒い封筒を持ち込んだ人物を探すため、以前から調べていた画像だ。
そこへナナが通りかかり、画面の端に写った建物を指さした。
ナナ:「この入口、やっぱり青風の事務室に似てる」
ヒナ:「昨日言ってたところ?」
ナナ:「うん。扉の横に、細い窓があって……」
ヒナは別の角度から撮影した写真を開いた。
管理棟の入口。
その脇には、確かに縦長の窓があった。
ヒナ:「じゃあ、青風の写真と比べてみようか」
俺たちは公開されている青風の施設写真を探した。
しかし、事務室の入口を正面から撮影したものは見つからなかった。
ナナの記憶を裏づけることも、否定することもできない。
そこでソウタが、DAY1の写真を見ながら言った。
ソウタ:「ナナは島に来た直後、青風を連想していた可能性がある。なのに、その話が出たのは最近だ」
ナナが顔を上げる。
ナナ:「そのときは、気のせいだと思ったから……」
ソウタ:「責めてるわけじゃない。ただ、いつ何を思い出したのかは整理したい」
俺はノートに記した。
『DAY1の連想は本人の記憶。外観の一致は未確認』
それでも、ナナに向けられる視線が少し増えたのを感じた。
◇
昼食後、レイが俺に声をかけてきた。
レイ:「ユウキ。写真について、もう1つ確認したい」
彼が示したのは、DAY1の港の写真だった。
暗い服の人物が、黒い長方形の物を持っている。
鞄には、青い丸い飾りのようなもの。
以前、俺たちはこの写真を何度も調べた。
顔は判別できない。
黒い物が封筒かどうかも分からない。
レイ:「ナナは、青風で青い飾りを作ったことがあるって話してたよね」
ユウキ:「ああ。でも、青い飾りは何人も作ってた」
レイ:「分かってる。本人に、当時の飾りを今も持っているか聞いてみたい」
俺は写真を見つめた。
持っていたとしても、港の人物と同じだとは言えない。
ただ、ナナ自身の記憶を確認することはできる。
ユウキ:「聞くなら、写真だけで持ち主を決めつけないことを先に伝えよう」
レイ:「そうだね」
◇
ナナは写真を見ると、しばらく黙っていた。
ナナ:「……青い飾り、持ってたよ」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「今も?」
ナナ:「昔のものは、家にあると思う。島には持ってきてない」
レイが尋ねる。
レイ:「どんな形だった?」
ナナ:「丸いビーズを紐に通したもの。交流会で作ったんだと思う」
彼女は画面を見つめた。
ナナ:「でも、この写真の飾りが同じものかは分からないよ」
俺は頷いた。
画像の青い点は小さすぎる。
色も形も、正確には読み取れない。
ナナは少し不安そうに俺を見た。
ナナ:「……私が持ってたから、疑われるの?」
ユウキ:「それだけで同じ物だとは言えない」
レイも頷いた。
レイ:「僕が聞きたかったのは、持っていたかどうかだけだよ」
ナナは小さく息を吐いた。
けれど、表情は晴れなかった。
◇
DAY57。
第2回X投票まで、あと3日。
朝の談話室で、シオンが投票前の確認事項をまとめた。
シオン:「今日からは、新しい疑惑を出すとき、必ず根拠と未確認部分を一緒に示そう」
ホワイトボードには、ナナについての項目が並んでいた。
『母親・水瀬真紀が青風の未交付品管理に関与――記録で確認』
『ナナ本人が04班に参加――本人記録で確認』
『DAY1に管理棟を見ていた――写真で確認』
『管理棟を見て青風を連想した――本人の記憶』
『港の写真の青い飾りとの関係――未確認』
俺は表を見た。
こうして並べると、ナナと青風のつながりは確かに多い。
だが、そのどれもが、現在のゲームを運営している証拠にはなっていない。
それでも、質問はナナに集中し始めていた。
◇
午前中、アカリがナナに尋ねた。
アカリ:「ナナって、青風のことを思い出したのはいつから?」
ナナ:「最初に新聞を見た頃かな。建物のことは、最近写真を見て思い出したの」
アカリ:「でも、DAY1にも管理棟を見てたんだよね?」
ナナ:「うん。そのときは、似てるなって思っただけで……」
アカリは少し考え込んだ。
アカリ:「ごめん。なんか、話が少しずつ増えてるから、気になっちゃって」
ナナは俯いた。
ナナ:「……私も、どうして今になって思い出すのか分からない」
ハルカが静かに言った。
ハルカ:「写真を見て思い出すこともあるよ。そこは不自然とは限らないと思う」
セナも頷いた。
セナ:「記憶の時期と、事実かどうかは分けて考えたいね」
アカリは素直に頷いた。
だが、ナナに向けられた疑問は残った。
◇
昼過ぎ。
俺は記録保管室・区画Bで、以前申請していた写真関連資料の審査結果を確認した。
『追加閲覧申請:一部許可』
俺は画面を開く。
表示されたのは、写真そのものではなく、本人に関係する照合情報だった。
『神崎ユウキ』
『04班集合写真:本人写り込み確認』
『未交付写真関連記録:照合対象に含まれる』
俺は息をのんだ。
やはり、俺自身が未交付写真の記録と関係している。
ただし、受取予定者なのか、写真に写っているだけなのかは分からない。
隣で画面を見ていたミオが言った。
ミオ:「ユウキの名前、ちゃんと残ってたね」
ユウキ:「うん。でも、まだ何も決められないな」
俺はノートに書いた。
『本人の照合対象であることと、受取予定者であることは別』
その区別を、忘れたくなかった。
◇
午後。
食堂では、投票候補についての意見交換が行われた。
レイが最初に口を開いた。
レイ:「僕は、ナナの名前を候補から外せないと思ってる」
ナナが顔を上げる。
レイ:「母親の関与だけじゃない。DAY1の行動と、少しずつ増えている記憶も確認したい」
シオンが頷いた。
シオン:「ただし、どれもXである証拠とは言えない。そこは明確にしておこう」
カイトが腕を組む。
カイト:「でも、今のところ誰にも決定打がねえんだろ?」
ソウタ:「そうだな。だから候補の比較になる」
アカリが小さく手を挙げた。
アカリ:「私も、ナナのことはまだ気になる」
ナナは黙っていた。
その隣で、ハルカが彼女の肩に手を置いた。
俺はホワイトボードを見つめた。
候補者の名前は複数ある。
だが、話し合いの中心は、明らかにナナへ移り始めていた。
◇
夕方。
俺はナナと中庭で話した。
ナナ:「ユウキくん。私、何か変なこと言ってたかな」
ユウキ:「変なこと?」
ナナ:「思い出したことを話すたびに、みんながもっと疑うようになってる気がして」
俺はすぐには答えられなかった。
彼女の記憶が増えること自体は、不自然ではない。
だが、投票が近づく中で、説明が増えることを疑問に思う人もいる。
ユウキ:「ナナ。話したことを、あとから変えたくなったら言ってくれ。間違ってたって分かったことも、ちゃんと書き直すから」
彼女は俺を見た。
ナナ:「……うん」
ユウキ:「無理に思い出そうとしなくていい」
ナナは小さく頷いた。
少しだけ、肩の力が抜けたように見えた。
◇
DAY58。
第2回X投票まで、あと2日。
朝、中央施設の端末に通知が表示された。
『第2回X投票に関する事前案内』
『投票日:DAY60』
『投票開始時刻:午前10時』
俺たちは食堂に集まり、通知を確認した。
シオンが投票前の予定を説明する。
シオン:「明日、DAY59は最終確認の日にしよう。新しい情報が出たら共有する。投票先の相談は、決選投票が必要になった場合の弁明後は禁止される」
俺は頷いた。
いよいよ、あと2日。
ナナは静かに画面を見ていた。
◇
昼食後、俺はミオと海沿いを歩いた。
風が強く、彼女の長い髪が揺れる。
ミオ:「ユウキ、まだ決めてない?」
ユウキ:「うん」
俺は海を見つめた。
ユウキ:「ナナを疑う人が増えてる。でも、俺にはまだ、Xだっていう証拠が見つからない」
ミオ:「そうだね」
ユウキ:「第1回のとき、俺はシオンに投票した。レイが選ばれて、Xじゃないって分かった」
ミオは黙って聞いていた。
ユウキ:「今回も、自分で考えて決めたい」
ミオ:「うん。ユウキの投票だから」
彼女は、そっと俺の手を握った。
俺も握り返した。
あと2日。
ナナに向けられる疑いは、確かに強くなっている。
だが、その疑いが正しいかどうかは、まだ分からない。
◇
夜。
俺はノートを開いた。
『DAY56〜DAY58』
『04班の紙製保管袋:写真関連1件・書簡関連1件』
『水瀬真紀による追記あり。内容未確認』
『ナナはDAY1に管理棟を見ていた。青風の事務室を連想したという本人の記憶あり』
『青い飾りを持っていた記憶あり。港の写真との同一性は未確認』
『ナナの名前を投票候補に挙げる参加者が増加』
最後に書いた。
『第2回X投票まで、あと2日』
俺はペンを置いた。
明日は最終確認。
その翌日、俺たちは投票する。
12年前の真相に近づくための時間と、誰かを疑うための時間。
その2つが、また重なろうとしていた。
第1章 第57話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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