第1章 第56話「知っているはずのこと」
DAY53。
第2回X投票まで、あと7日。
食堂の掲示板には、シオンが作った新しい表が貼られていた。
『確認できた事実』
『本人の記憶』
『未確認の推測』
3つの欄に分けられた表だ。
その一番下には、赤い文字で注意書きがある。
『12年前の関係者であることは、主催者Xである証拠にはなりません』
俺はそれを読んで、少し安心した。
ナナの名前が投票候補として挙がり始めている。
だが、疑いを強めるために事実を曲げるわけにはいかない。
レン:「この表、俺の記憶も入れていい?」
シオン:「青風に関係するものなら」
レン:「プリンがうまかった」
シオン:「それは本人の記憶欄」
レン:「確認できた事実じゃないのか!?」
ソウタ:「お前の味覚を第三者が検証できないからな」
レンは不満そうに頬を膨らませた。
その隣で、ミオが笑っていた。
◇
午前中、俺たちは記録保管室・区画Bを訪れた。
目的は、04班の未交付品について、まだ確認できていない対応関係を調べることだ。
端末には、以前から見つかっていた資料が並んでいる。
『04班 外装・内容物対応照合表』
閲覧条件を確認すると、指定範囲の照合結果だけを開示する申請が可能になっていた。
俺たちは、氏名や手紙の本文を求めず、品物の分類と保管経路だけを申請した。
しばらくして、画面が切り替わる。
『開示範囲:外装と内容物の分類対応』
表示されたのは、短い表だった。
『紙製保管袋:1件』
『写真関連:1件』
『書簡関連:1件』
『外装から分離後、各分類の保管手続きへ移行』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「写真と手紙が、同じ袋に入ってたんだ……!」
シオン:「少なくとも、この照合表に記載された袋についてはそうだね」
ただし、品物の個別番号は表示されていない。
P-006とD-04がその中身だと確定したわけではなかった。
俺はそこを、ノートに大きく書いた。
◇
昼前。
リナが照合表の確認欄を指さした。
リナ:「ここ、見て」
『照合担当:早川恵子』
『確認者:水瀬真紀』
ナナの母親の名前だ。
その下には、手書き記録を電子化した際の注記があった。
『確認者による追記あり』
『追記内容:原資料参照』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「追記があるのか」
シオン:「でも、何が書かれていたかは開示されていない」
ナナが、少し離れた端末からこちらを見た。
ナナ:「……お母さんの字なのかな」
ユウキ:「まだ分からない」
ナナ:「うん」
彼女は頷いた。
だが、目は画面から離れなかった。
◇
午後。
食堂で調査結果を共有すると、アカリが最初に口を開いた。
アカリ:「写真と手紙が同じ袋だったんだね」
ユウキ:「うん。ただし、どの写真と手紙かはまだ分からない」
カイト:「で、その袋を確認したのがナナの母ちゃんか」
ナナ:「……うん」
カイトは腕を組んだ。
カイト:「ナナ、お母さんから袋の話を聞いたことは?」
ナナ:「はっきりとは覚えてない」
そこでレンが首を傾げた。
レン:「昨日は写真の話を思い出したって言ってなかった?」
ナナ:「それは、お母さんが誰かに話してた言葉を思い出しただけで……」
レン:「ああ、そっか。ごめん」
レンはすぐに引き下がった。
けれど、ナナは膝の上で手を握りしめていた。
彼女が説明するたびに、別の疑問が生まれていく。
俺はその様子を見ながら、投票までの残り日数を思い出していた。
◇
DAY54。
朝、ナナが俺を呼び止めた。
ナナ:「ユウキくん。昨日の追記のこと、考えてたんだけど」
ユウキ:「うん」
ナナ:「お母さん、昔から書類の端にメモを残す人だったの」
俺は顔を上げた。
ナナ:「買い物のメモも、学校の予定も。忘れないように、細かく書いてた」
ユウキ:「じゃあ、照合表の追記も……」
ナナ:「お母さんが書いた可能性はあると思う。でも、何を書いたのかは分からない」
彼女は一度、言葉を切った。
ナナ:「……私、あの袋を見たことがあるかもしれない」
俺は驚いて彼女を見た。
ユウキ:「本当?」
ナナ:「白っぽい紙の袋。お母さんが事務室で持ってた気がするの」
ナナは首を振る。
ナナ:「でも、昨日ずっと袋の記録を見てたから、今の知識でそう思ってるだけかもしれない」
俺は頷いた。
その可能性まで自分で話してくれたことを、きちんと記録した。
◇
昼食後、俺たちは写真の保管経路を整理していた。
そこへヒナがやって来た。
ヒナ:「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
ユウキ:「何?」
ヒナ:「ナナって、DAY1に青風の話が出たとき、何か思い出してた?」
俺は当時のことを振り返った。
ナナが青風の名前に反応したのは、新聞記事を見つけた頃だった。
その後、母親が青風で働いていたことを話してくれた。
ユウキ:「最初から全部話してたわけじゃないけど、少しずつ思い出してたよ」
ヒナ:「そっか」
ヒナは少し考え込んだ。
ユウキ:「どうした?」
ヒナ:「私、DAY1にみんなの写真を撮ってたでしょ。そのとき、ナナが管理棟の方を見てた写真があるんだ」
俺は眉をひそめた。
ユウキ:「それだけじゃ、何も分からないと思う」
ヒナ:「うん。私もそう思う。でも、本人に聞いたら何か思い出すかなって」
俺たちは、写真をナナに見せることにした。
◇
午後2時。
ヒナが端末にDAY1の写真を表示した。
島に到着して間もない頃。
食堂へ向かう参加者たちが写っている。
その端に、ナナの姿があった。
確かに、彼女は管理棟の方向を見ていた。
ナナ:「……これ、私だね」
ヒナ:「何を見てたか覚えてる?」
ナナは写真を見つめた。
ナナ:「分からない。でも……」
彼女は少し間を置いた。
ナナ:「建物が、青風の事務室に似てるって思った気がする」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「管理棟が?」
ナナ:「うん。入口の形が、なんとなく」
シオンが写真を確認する。
シオン:「建物の外観が似ているという記憶だね。実際に同じ設計かどうかは別として」
ナナは頷いた。
ナナ:「そのときは、気のせいだと思ったの」
俺は写真を見つめた。
ナナは島に来た初日から、青風を思い出すきっかけを見ていた。
だが、それをXの正体と結びつける根拠はない。
◇
夕方。
談話室では、投票についての話し合いが続いていた。
シオンがホワイトボードに候補者名を書き出す。
シオン。
ソウタ。
リナ。
ナナ。
ほかにも、名前が挙がった。
だが、今日の議論ではナナについての質問が多かった。
アカリ:「ナナは、青風のことを少しずつ思い出してるんだよね」
ナナ:「うん」
アカリ:「じゃあ、まだ話してないこともあるのかなって……」
ナナは顔を上げた。
ナナ:「思い出せてないことはある。でも、話せるのに隠してることはないよ」
その声は、少し震えていた。
ソウタが口を開く。
ソウタ:「記憶が増えること自体は不自然じゃない。ただ、現在のゲームについて何か知っているかは別に確認する必要がある」
レイも頷いた。
レイ:「僕のときみたいに、過去の資料を知っているだけでXだと判断するのは危険だね」
それでも、ナナの名前はホワイトボードに残ったままだった。
◇
DAY55。
第2回X投票まで、あと5日。
朝食後、俺はナナから小さな相談を受けた。
ナナ:「ユウキくん。私、投票で選ばれるかもしれないよね」
俺はごまかさずに頷いた。
ユウキ:「可能性はあると思う」
ナナ:「……そっか」
彼女は少しだけ俯いた。
ナナ:「もし選ばれたら、ちゃんと話したい。私が知ってることも、知らないことも」
ユウキ:「うん」
ナナ:「でも、みんなに信じてもらえるかな」
俺はすぐには答えられなかった。
信じるかどうかは、俺だけで決められない。
そして、このゲームの投票は、信頼だけで決まるものでもない。
ユウキ:「少なくとも俺は、ナナが話してくれたことをちゃんと聞くよ」
彼女は顔を上げた。
ナナ:「ありがとう」
◇
午後。
俺たちは、DAY60の投票ルールを改めて確認した。
中央施設の画面に、基本規則が表示される。
『参加者13人全員が投票する』
『棄権不可。自分自身への投票も可能』
『最多得票者を判定対象とする』
『最多得票者が同数の場合、同数者のみを対象に決選投票を行う』
『決選投票前に弁明の機会を設け、その後は相談を禁止する』
『決選投票でも最多同数の場合、判定は行わない』
『Xではないと判定された参加者は、以後の判定対象から除外される。ただし投票には参加する』
レイは画面を見て、軽く肩をすくめた。
レイ:「僕は投票するけど、もう判定対象にはならないわけだ」
レン:「羨ましいような、羨ましくないような……」
レイ:「次の生活費も半額になる可能性はあるからね」
レン:「やっぱり羨ましくない!」
笑いが起きた。
だが、すぐに静かになった。
全員が、DAY60を意識していた。
◇
夕方。
俺はミオと海沿いを歩いていた。
風が少し強い。
ミオ:「あと5日だね」
ユウキ:「うん」
俺は海を見つめた。
ユウキ:「ナナの名前が、だんだん多く挙がるようになってきた」
ミオ:「そうだね」
ユウキ:「でも、俺にはまだ、ナナがXだっていう証拠は見つかってない」
ミオは静かに頷いた。
ミオ:「ユウキは、どうするの?」
ユウキ:「残りの時間で、今のゲームに関係する情報も調べる。12年前の記憶だけで決めたくない」
ミオは、そっと俺の手を握った。
ミオ:「うん」
俺も握り返した。
ナナが疑われる理由は、少しずつ増えている。
だが、それらは本当にXを示すものなのか。
俺は、まだ答えを出せずにいた。
◇
夜。
俺はノートを開いた。
『DAY53〜DAY55』
『04班の紙製保管袋には、写真関連1件・書簡関連1件が分類されていた』
『水瀬真紀が照合確認者。追記内容は未開示』
『ナナはDAY1、管理棟の外観から青風の事務室を連想した可能性あり』
『ナナの記憶は増えているが、現在のゲーム運営との関係は未確認』
『第2回X投票まで、あと5日』
俺は最後の行に線を引いた。
次の投票では、誰か1人が選ばれる。
その人物がXでなければ、俺たちはまた間違えることになる。
そして、次の月も生活費は半額だ。
それでも、分からないことを分かったふりで埋めるわけにはいかない。
俺はノートを閉じた。
DAY60は、もう目の前だった。
第1章 第56話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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