第1章 第55話「疑いの始まる場所」
DAY50。
第2回X投票まで、あと10日。
食堂に入ると、いつもより会話が少なかった。
昨日、アカリがナナに尋ねたことが、みんなの頭に残っているのだろう。
『母親が青風の職員だったなら、ほかの参加者より何か知っているのではないか』
それは質問だった。
だが、この島では質問が疑惑に変わるまで、そう時間はかからない。
ナナは窓際の席で、ハルカと朝食を取っていた。
俺が声をかけようとすると、ミオが隣に来た。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう」
ミオは俺の持っていた湯飲しを見た。
ミオ:「今日はお茶、2つじゃないんだね」
ユウキ:「あっ」
考え事をして、1つしか淹れていなかった。
俺が戻ろうとすると、ミオがその湯飲しを指さす。
ミオ:「半分ずつでもいいよ」
ユウキ:「いや、それは量が少なすぎるだろ」
レン:「じゃあ俺が全部飲もうか?」
ユウキ:「どこから出てきた!」
レン:「お茶の危機を察知した」
ソウタ:「お前、昨日はデザートの気配を察知してたよな。能力の範囲が食堂から出てないぞ」
少しだけ笑いが起きた。
俺は湯飲しをもう1つ取りに戻った。
◇
午前中、俺たちは13人で集まり、これまでの調査結果を整理した。
ホワイトボードには、12年前の青風に関する事実を並べる。
『参加者13人全員に青風関連記録あり』
『04班で未交付品が発生』
『写真関連と書簡関連は分けて保管』
『未交付写真の所在照会は、児童保護上の配慮から保留』
『返却可否は指定窓口を通じて確認され、保留が継続』
シオンが最後の行に線を引いた。
シオン:「ここまでは記録で確認できている。ただし、Xの正体を示す情報ではない」
カイトが腕を組む。
カイト:「全員が青風に関係してるなら、それだけじゃ誰も絞れねえな」
ソウタ:「そういうこと」
そこでアカリが、ナナの方を見た。
アカリ:「でも、ナナのお母さんは未交付品を預かってたんだよね?」
ナナの肩が、わずかに動いた。
ナナ:「……うん」
アカリ:「ナナが悪いって言いたいんじゃないよ。ただ、何か聞いてないかなって」
昨日と似た質問だった。
俺は口を開こうとしたが、その前にナナが答えた。
ナナ:「覚えてることは話したよ。思い出せないこともあるけど……今は、それ以上は分からない」
アカリは頷いた。
アカリ:「そっか。ごめんね」
それで話は終わった。
けれど、疑問そのものが消えたわけではなかった。
◇
昼前、俺はレイに呼び止められた。
レイ:「ユウキ。ナナのことで、1つ気になる」
ユウキ:「何?」
レイ:「彼女は何度も青風に行ってた。僕たちより多く覚えている可能性はある」
ユウキ:「それはそうかもしれないけど」
レイ:「でも、覚えていないことを隠していると決めつけるのも違う」
俺は少し意外だった。
ユウキ:「レイも、そう思うんだ」
レイ:「僕は前回、疑われた側だからね」
彼は肩をすくめた。
レイ:「僕が説明を遅らせたのは事実。でも、そこからXだと判断された。実際には違った」
俺は頷いた。
レイは第1回投票でXではないと判定されている。
その結果は、もう覆らない。
レイ:「疑うなら、何を根拠に疑っているのか分けた方がいいよ」
俺はノートに書いた。
『知っている可能性と、Xである証拠は別』
◇
DAY51。
翌朝、ナナが自分から資料閲覧室に来た。
ナナ:「ユウキくん。昨日の話、少し考えたの」
俺は椅子を引いた。
ユウキ:「座る?」
ナナ:「うん」
彼女は座ると、しばらく手元を見つめていた。
ナナ:「私、お母さんのことを守りたいって思ってる」
ユウキ:「うん」
ナナ:「でも、だからって、何も話さないのは違うよね」
俺は急かさずに待った。
ナナ:「昨日の夜、交流会のことを思い出そうとしたの。そしたら……お母さんが誰かに、写真のことを話してた気がする」
俺はノートを開いた。
ナナ:「『その写真は、本人が受け取れるようになるまで預かります』って」
ユウキ:「誰に言ってた?」
ナナ:「分からない。大人の人だったと思う」
彼女は首を振った。
ナナ:「ごめんね。はっきりしなくて」
ユウキ:「謝らなくていいよ。記録と照らし合わせよう」
俺は、本人が受け取れるようになるまで、という言葉を書き留めた。
写真は、渡さないために保管されたのではない。
いつか渡すために保管された可能性がある。
ただし、それがどの写真なのかは、まだ分からない。
◇
昼食後。
俺たちは記録保管室・区画Bで、未交付写真の保管経緯を再確認した。
新たに見つかった公開記録には、こう書かれていた。
『返却待機保管品・管理目的』
『受取資格を確認できるまで、原資料の散逸を防止する』
リナが画面を見ながら言う。
リナ:「少なくとも、保管の目的は返却の可能性を残すことだったんだね」
シオン:「そう読める。ただ、実際に返却されたかどうかは別の問題だ」
俺は頷いた。
写真は残っている。
渡そうとした人がいた。
受け取るはずだった人もいた。
それなのに、12年経っても、俺たちはその名前さえ知らない。
俺は、自分の古い手紙を思い出した。
あの約束も、途中で途切れたままだ。
◇
午後、談話室では第2回投票に向けた意見交換が行われた。
投票日が近づくにつれ、12年前の話だけでなく、現在のゲームについても議論する必要があった。
シオン:「今のところ、Xの正体を直接示す証拠はない。だからこそ、各自が何を疑っているか整理したい」
レンが手を挙げる。
レン:「匿名メッセージの送り主!」
ソウタ:「正体が分かってたら苦労しない」
レン:「じゃあ黒い封筒を持ち込んだ人!」
レイ:「それも分かってないね」
レン:「俺、何も分かってないことが分かった!」
カイト:「それは大きな進歩だな」
笑いが起きた。
だが、議論が進むにつれ、名前が挙がり始めた。
シオン。
ソウタ。
リナ。
そして、ナナ。
ナナの名前が出た理由は、母親が青風の職員だったことと、未交付品に関する記憶を持っていることだった。
俺は、その理由だけでは弱いと思った。
だが、ほかの参加者がどう考えるかまでは決められない。
◇
夕方。
俺はナナと中庭で話した。
ナナ:「……私、疑われてるよね」
ユウキ:「名前は挙がってる」
曖昧にごまかすことはできなかった。
ナナは小さく頷いた。
ナナ:「そっか」
ユウキ:「でも、まだ投票まで時間はある。話せることも、調べられることもあるよ」
ナナ:「うん」
彼女は少しだけ笑った。
ナナ:「私、ちゃんと話す。思い出せたことは、全部」
その言葉を聞いて、俺は頷いた。
ただ、胸の奥には不安が残った。
ナナが何を話しても、疑う人は疑うかもしれない。
このゲームでは、疑いを完全に消すことが難しい。
◇
DAY52。
朝。
俺たちは、昨日までの調査結果を共有するため、食堂に集まった。
ナナは自分から立ち上がった。
ナナ:「みんなに、話したいことがあります」
食堂が静かになる。
ナナ:「私のお母さんは、青風で未交付品を預かっていました。私は、そのそばにいたことがあります」
彼女は一度、息を整えた。
ナナ:「でも、何を預かったのか、誰に渡すはずだったのか、今は思い出せません」
アカリが真剣な顔で聞いていた。
ナナ:「お母さんは、誰かが安心して暮らせるように、今は待つ必要があるって言っていました」
ナナは顔を上げた。
ナナ:「私は、その言葉を信じています。でも、記録で確かめられることは、ちゃんと確かめたいです」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、ハルカが口を開いた。
ハルカ:「話してくれてありがとう」
セナも頷く。
セナ:「分からないことまで答えなくていいと思う」
アカリは、ナナを見た。
アカリ:「昨日は何度も聞いちゃってごめんね」
ナナ:「……ううん」
ナナは小さく笑った。
その表情を見て、俺は少しだけ安心した。
だが、投票に向けた疑いが完全に消えたわけではなかった。
◇
午後。
俺はミオと海沿いを歩いていた。
3日間で、少しずつ状況が変わった。
ナナは自分の記憶を話した。
未交付写真の保管目的も確認できた。
それでも、Xの正体は分からない。
ユウキ:「あと8日か」
ミオ:「うん。DAY60だね」
俺は頷いた。
ユウキ:「ナナの名前が挙がってる。でも、俺はまだ決められない」
ミオ:「焦って決めなくていいと思う」
彼女は俺の隣を歩いた。
ミオ:「投票の日まで、考えられるから」
俺はミオを見る。
ユウキ:「……ありがとう」
彼女は微笑んだ。
そのあと、そっと俺の手を握った。
俺も握り返す。
海の向こうには、夕陽が沈みかけていた。
◇
夜。
俺はノートを開いた。
『DAY50〜DAY52』
『ナナの記憶:未交付写真は、本人が受け取れるようになるまで預かる方針だった可能性』
『公開記録:返却待機保管の目的は、受取資格確認まで原資料の散逸を防ぐこと』
『ナナが自分の記憶を13人に説明』
『第2回投票に向け、複数の候補者名が挙がり始めた』
そして、最後に書いた。
『第2回X投票まで、あと8日』
俺はペンを置いた。
ナナを疑う理由は、本当にあるのか。
それとも、彼女がほかの人より多くを覚えているように見えるだけなのか。
答えは、まだ出ていない。
だが、時間だけは確実に進んでいる。
DAY60。
俺たちは、また1人を選ばなければならない。
第1章 第55話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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