第1章 第54話「渡せなかった理由」
DAY48。
第2回X投票まで、あと12日。
俺は朝食の席で、ノートの予定表を書き直していた。
これまでのように、1日ずつ資料を調べているだけでは間に合わない。
12年前の事件を追うことと、次の投票に備えること。
どちらも必要だ。
ミオ:「ユウキ、予定を立ててるの?」
ユウキ:「うん。今日と明日で、04班の記録をもう少し整理したい」
ミオがノートを覗き込む。
ミオ:「その次は?」
ユウキ:「みんなに調査結果を共有する。それから、Xについて考える時間も取らないと」
レン:「俺とのデートは?」
ユウキ:「予定にない」
レン:「予定表に空欄は?」
ユウキ:「お前が入る欄はない」
向かいのレンが大げさに肩を落とした。
ミオは笑っていたが、俺が彼女を見ると、なぜか目を逸らした。
◇
午前中、俺たちは記録保管室・区画Bへ向かった。
俺が申請していた写真関連資料の追加審査は、まだ終わっていない。
代わりに、04班の未交付品について、公開範囲の確認を進めることにした。
閲覧端末には、これまで何度も見た資料名が並んでいる。
『04班 未交付品引継記録』
『04班 外装・内容物対応照合表』
『04班 未交付写真保管確認票』
シオンが画面を見ながら言った。
シオン:「今の段階で、確実に言えることを整理しよう」
俺はノートを開いた。
04班では、交流会終了前に移動予定が変更された子どもがいた。
未交付品が発生した。
紙製保管袋は、青い部屋から事務室へ移された。
その後、写真関連と書簡関連に分けて登録された。
ただし、写真P-006や手紙D-04が、その袋に入っていたとまでは確認できていない。
リナ:「ここを混同すると、間違った結論になるね」
ユウキ:「うん。まずは、同じ品物かどうかを確かめたい」
だが、対応表の詳細は閲覧制限のままだった。
◇
昼過ぎ。
ナナが俺たちのところへ来た。
ナナ:「昨日のこと、もう少し思い出したの」
彼女は少し緊張した顔をしていた。
俺たちは閲覧室を出て、管理棟の休憩スペースへ移動した。
ナナ:「お母さんに何かを預けた子がいたって話、したでしょ?」
ユウキ:「うん」
ナナ:「その子が何度も『まだ渡せないの?』って聞いてたのは、たぶん交流会のあとだった」
俺は頷き、続きを待った。
ナナ:「お母さんは、『今は渡せないけど、なくさないように預かってるよ』って答えてたと思う」
彼女は膝の上で手を握った。
ナナ:「それで……私、なんで渡せないのか聞いたんだ」
ユウキ:「お母さんに?」
ナナ:「うん。そしたら、『その子が安心して暮らせるように、今は待つ必要があるの』って」
俺はペンを止めた。
児童保護上の配慮。
記録に残っていた言葉が、少しだけ具体的な意味を持ち始めた。
ただし、ナナの記憶が、俺たちの探す写真や手紙と直接結びつくかは分からない。
ユウキ:「話してくれてありがとう」
ナナ:「……うん」
彼女は、まだ何か気にしているようだった。
◇
その日の夕方。
俺たちは、調査結果を食堂の一角で共有した。
参加したのは13人全員。
シオンがホワイトボードに時系列を書き、俺が確認できた事実を説明する。
ナナも、自分の記憶を話してくれた。
話し終えると、少しの沈黙が落ちた。
カイト:「つまり、渡さなかったのは意地悪じゃなかったかもしれねえってことか」
ソウタ:「その可能性はある。ただ、誰の何を守るためだったかは、まだ不明だ」
セナ:「子どもの居場所を守るためなら、記録が伏せられていることにも理由はあると思う」
ハルカが頷いた。
ハルカ:「でも、渡したかった子も、受け取るはずだった子も、つらかったかもしれないね」
俺はホワイトボードを見つめた。
守るための判断だったとしても、それで誰も傷つかなかったとは限らない。
12年前の出来事には、そういう複雑さがある。
◇
DAY49。
翌朝、俺たちは資料閲覧室で新しい記録を確認した。
昨日の共有会を受け、シオンが未交付品の手続きについて、公開資料をさらに調べてくれていたのだ。
シオン:「返却を保留したあと、本人への連絡方法を検討する手順があったみたいだ」
画面には、一般規程が表示されている。
『保護上の事情により直接の所在照会を行わない場合、指定された連絡窓口を通じて返却可否を確認する』
俺は画面を見た。
ユウキ:「居場所を知らなくても、連絡する方法はあったんだな」
シオン:「制度上はね。04班の件で実際に使われたかは、別の記録が必要だけど」
リナが関連文書を検索する。
すると、04班の未交付写真に関する記録が1件見つかった。
『返却可否照会・連絡経路確認』
公開項目には、こうあった。
『照会方法:指定窓口経由』
『結果:返却保留継続』
俺は息をのんだ。
写真を預かったまま、何もしなかったわけではない。
少なくとも、指定窓口を通じて返却できるか確認した記録がある。
だが、その窓口がどこだったのか、誰に連絡したのかは伏せられていた。
◇
昼食後、俺はナナと中庭を歩いた。
彼女は朝から少し元気がなかった。
ユウキ:「昨日、みんなの前で話してくれてありがとう」
ナナ:「ううん。私も、ちゃんと知りたいから」
彼女は少し間を置いた。
ナナ:「でも、あの記録を見て、ちょっと怖くなった」
ユウキ:「どうして?」
ナナ:「お母さんが、何か大事なことを知ってたんじゃないかって」
俺は黙って聞いた。
ナナ:「私も、そのそばにいたのに、ほとんど覚えてない」
ユウキ:「12年前のことだよ。全部覚えてなくても、おかしくない」
ナナ:「……うん」
彼女は頷いたが、表情は晴れなかった。
俺は、次の投票のことを思い出した。
あと11日。
この島では、何かを知っているかもしれないというだけで、疑いの目を向けられる。
◇
午後。
談話室では、次の投票について話し合いが始まっていた。
レイが壁にもたれながら言う。
レイ:「第1回で僕がXじゃないと分かった。だから、次は別の人を選ぶことになる」
レン:「分かってるけど、まだ決め手がないよな」
ソウタ:「そもそも、青風の関係者であることは全員共通だ。そこだけでは絞れない」
シオンが頷いた。
シオン:「Xが誰なのかを考えるなら、現在のゲーム運営と結びつく情報が必要だね」
俺は、その言葉を聞きながらノートを開いた。
黒い封筒。
14人目の人影。
匿名メッセージ。
情報購入者。
どれも、まだ正体が分かっていない。
俺たちは12年前の事件に近づいている。
だが、それがそのままXの正体につながるとは限らない。
◇
そのとき、アカリが口を開いた。
アカリ:「ねえ、ナナってさ。お母さんが青風で働いてたんだよね?」
ナナが顔を上げた。
ナナ:「うん」
アカリ:「じゃあ、ほかの人より資料のことを知ってる可能性はあるんじゃない?」
食堂の空気が少し変わった。
ナナはすぐには答えなかった。
ナナ:「……私が知ってるのは、子どもの頃のことだけだよ」
アカリは慌てて手を振る。
アカリ:「責めてるわけじゃないよ! ただ、気になって」
シオンが静かに言った。
シオン:「家族が関係者だからといって、本人が運営に関わっている証拠にはならない」
俺も頷いた。
ユウキ:「ナナは、自分の記憶を話してくれてる。分からない部分は、資料で確認しよう」
ナナは小さく俯いた。
その様子を見て、俺は胸が痛んだ。
投票が近づくにつれ、何気ない質問も疑いに変わっていく。
◇
夕方。
俺はミオと海沿いを歩いていた。
ミオ:「ナナ、つらそうだったね」
ユウキ:「うん。アカリも悪気があったわけじゃないと思うけど」
ミオ:「疑うことと、傷つけることは、同じじゃないはずなのにね」
俺は頷いた。
このゲームでは、誰かを疑わなければならない。
でも、疑う相手にも、12年前から続く人生がある。
ユウキ:「俺、次の投票で誰に入れるか、まだ決められない」
ミオ:「うん」
ユウキ:「ちゃんと考えたい。第1回みたいに、後悔したくないから」
ミオは、そっと俺の手を握った。
ミオ:「ユウキが考えて決めたことなら、私はちゃんと聞くよ」
俺は彼女を見た。
ユウキ:「ありがとう」
夕陽が、海に細い光の道を作っていた。
◇
夜。
俺は自室で、DAY48とDAY49の調査結果を整理した。
『04班の未交付品は、児童保護上の事情から返却が保留された可能性が高い』
『指定窓口経由で返却可否を照会した記録あり』
『結果は返却保留継続』
『受取予定者の氏名・所在は未確認』
そして、最後に書いた。
『第2回X投票まで、あと11日』
俺はペンを置いた。
残された時間は短い。
明日からは、12年前の記録だけでなく、今この島で起きていることも整理しなければならない。
誰が何を知っているのか。
誰が、どの情報を隠しているのか。
そして、その理由は何なのか。
窓の外では、夜の海が静かに揺れていた。
俺はノートを閉じた。
次の投票は、もうすぐそこまで来ている。
第1章 第54話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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