第1章 第53話「話せなかった記憶」
DAY47。
朝食を終えた俺は、食堂の掲示板に貼った紙を外した。
『12年前の青風について、覚えていることを聞かせてください』
昨日は、13人それぞれの記憶を聞くことができた。
今日からは、その記憶と記録を照らし合わせる。
ただし、本人が話していないことまで勝手に調べて公表するつもりはない。
俺自身、父さんのことを聞かれるたびに、答えに詰まるのだから。
レン:「聞き取り調査、もう終わり?」
ユウキ:「いったんね。今度は資料と照合する」
レン:「俺の証言は?」
ユウキ:「お前、昨日いなかっただろ」
レン:「じゃあ今から言う。青風で食べたプリンはうまかった!」
レイ:「またプリン?」
レン:「俺の人生において重要な証言だ」
ソウタ:「その証言、事件との関連性が見つからないんだが」
レンは真剣な顔で腕を組んだ。
レン:「まだ見つかってないだけだ」
俺は笑いながらノートを開いた。
レンの記憶も、あとでちゃんと聞いておこう。
◇
午前中、俺たちは記録保管室・区画Bの閲覧室を再び訪れた。
今日の目的は、昨日受け付けが始まった追加閲覧申請だ。
端末には、申請可能な資料の範囲が表示されている。
『参加者本人に関する青風関連記録』
『本人確認を行った場合に限り、指定項目を開示』
『第三者の個人情報は非開示』
シオンが画面を確認した。
シオン:「自分の記録を調べる仕組みだね。他人の記録を自由に見られるわけじゃない」
リナ:「それぞれが確認して、共有したい部分だけ話すのがいいと思う」
俺たちは頷いた。
俺は参加者カードを読み取り機に通す。
『神崎ユウキ』
『本人確認完了』
画面に、自分の青風関連記録が表示された。
◇
最初に開いたのは交流会参加記録だった。
『参加児童:神崎ユウキ』
『参加班:04班』
俺は息を止めた。
04班。
写真P-004とP-006が残されている、あの班だ。
さらに下には、当日の活動記録があった。
『共同制作』
『写真撮影』
『手紙交換』
俺は、古い布の袋にしまってある手紙を思い出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
あの紙が交流会の手紙交換で渡されたものなのかは、まだ分からない。
だが、俺が04班にいたことは確認できた。
ユウキ:「……やっぱり、俺は04班だった」
隣のミオが画面を見た。
ミオ:「うん」
彼女はそれ以上、何も言わなかった。
◇
次に表示されたのは、写真関連記録だった。
『本人が写る資料:複数件』
『一部資料に未交付品との関連あり』
俺は思わず身を乗り出した。
ユウキ:「未交付品との関連……!」
だが、詳細を開くと、閲覧制限の表示が出た。
『他児童の個人情報を含むため、追加審査が必要です』
俺は椅子にもたれた。
自分が写っている写真でも、そこに別の子どもが写っていれば、自由に見られるとは限らない。
それは当然のことだった。
ただ、俺が探している写真が、未交付品と関係している可能性は出てきた。
俺は申請可能な項目を確認し、追加審査を申し込んだ。
◇
少し離れた端末では、ナナが自分の記録を見ていた。
彼女は画面を見つめたまま、動かない。
ユウキ:「ナナ?」
ナナ:「……あ、ごめん」
俺は近づきすぎない位置で立ち止まった。
ユウキ:「大丈夫?」
ナナ:「うん。ちょっと、思い出したことがあって」
ナナは画面を閉じた。
ナナ:「あとで話してもいい?」
ユウキ:「もちろん」
彼女は小さく頷いた。
その表情は、昨日までよりも少し硬かった。
◇
昼食後、俺たちは中庭のベンチに集まった。
ナナが、自分から話し始めた。
ナナ:「私の記録にも、04班って書いてあったの」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「ナナも?」
ナナ:「うん。お母さんが担当してた班だから、そばにいたことが多かったんだと思う」
彼女は膝の上で手を重ねた。
ナナ:「それでね。昨日話した、お母さんに何かを預けた子のこと……少し思い出した」
俺たちは黙って続きを待った。
ナナ:「その子、何度もお母さんのところに来てたの。『まだ渡せないの?』って」
俺はノートを開いた。
ユウキ:「写真のこと?」
ナナ:「分からない。紙の袋みたいなものを持ってた気はするけど、そこは自信がない」
彼女は首を振った。
ナナ:「でも、お母さんが『ちゃんと預かってるから』って答えてたのは、覚えてる」
俺はその言葉を書いた。
誰かが渡したがっていた。
水瀬真紀は、預かっていると答えた。
昨日見つけた記録とも、矛盾しない。
◇
ナナは、そこで口を閉じた。
俺は続きを急かさずに待った。
やがて、彼女は小さな声で言った。
ナナ:「……私、その子に嫌なこと言ったかもしれない」
ユウキ:「嫌なこと?」
ナナ:「『そんなに大事なら、自分で渡せばいいのに』って」
彼女は俯いた。
ナナ:「そしたら、その子、黙っちゃった気がする」
俺は言葉を探した。
当時、俺たちは8歳だった。
大人たちの事情なんて、何も知らなかったはずだ。
ユウキ:「ナナ。その子が何を渡したかったのか、まだ分からないんだろ?」
ナナ:「うん」
ユウキ:「だったら、今は覚えてることだけでいいよ」
ナナは頷いた。
だが、その顔から不安は消えなかった。
◇
午後、俺たちは04班の未交付品記録を改めて確認した。
ナナの記憶と照らし合わせるためだ。
『児童からの直接預かり』
『後刻交付予定』
『受取予定者の予定変更』
『返却方法確認依頼』
『所在照会保留申請』
これまで別々に見ていた記録を、時系列に並べる。
すると、1つの流れが浮かび上がった。
誰かが品物を預けた。
渡す予定だった相手が、予定を変更して移動した。
職員が返却方法を確認した。
その後、所在照会が保留された。
ただし、これらがすべて同じ品物についての記録なのかは、まだ確定していない。
シオン:「ここをつなぐには、外装・内容物対応照合表が必要だね」
俺は頷いた。
以前見つけたINFO-025。
60,000円で、旧番号と新しい分類の対応を確認できる情報だ。
だが、名前や本文までは分からない。
俺たちは購入を見送っていた。
今も、全員の生活費には余裕がない。
情報を買えば必ず真相に近づけるとは限らない以上、慎重になる必要があった。
◇
そのとき、ナナが言った。
ナナ:「……私、あの子のこと、もっと思い出せるかもしれない」
俺は彼女を見た。
ユウキ:「何か手がかりがある?」
ナナ:「お母さんが、家で何度かその話をしてた気がするの」
彼女は少し考えた。
ナナ:「でも、名前は出してなかった。『あの子のことは、むやみに聞かないで』って」
シオンが静かに尋ねる。
シオン:「それは、いつ頃の話?」
ナナ:「青風が閉鎖する前後だったと思う。正確な日は分からない」
俺はノートに記した。
子どもの居場所について、むやみに聞かないように言われていた。
それが未交付写真の受取予定者と同じ人物なのかは、まだ分からない。
だが、児童保護上の配慮という記録の理由と、方向は一致していた。
◇
夕方。
資料閲覧室を出たところで、俺はナナに呼び止められた。
ナナ:「ユウキくん」
ユウキ:「どうした?」
ナナ:「今日話したこと、みんなに共有してもいいよ」
ユウキ:「分かった。でも、無理してない?」
ナナは少しだけ笑った。
ナナ:「うん。私も、ちゃんと知りたいから」
俺は頷いた。
彼女は一度歩き出しかけて、また立ち止まった。
ナナ:「……ただ、私が何か隠してるって思われたら、どうしよう」
俺はすぐには答えられなかった。
第2回X投票まで、あと13日。
この島では、何かを知っていることも、思い出せないことも、疑いの理由になってしまう。
ユウキ:「分からないことを、分からないって言うのは大事だと思う」
ナナは俺を見た。
ユウキ:「俺も、父さんのことを全部知ってるわけじゃないし」
彼女は小さく頷いた。
ナナ:「ありがとう」
そう言って、食堂の方へ歩いていった。
◇
夕食後、俺はミオと海沿いを歩いた。
潮風が、少し冷たい。
ミオ:「ナナ、今日は頑張って話してくれたね」
ユウキ:「うん。でも、怖がってた」
ミオ:「投票が近づいてるからね」
俺は頷いた。
DAY60。
第2回X投票。
あと13日しかない。
ユウキ:「俺たち、また誰かを選ばなきゃいけないんだよな」
ミオ:「うん」
ユウキ:「第1回はレイを疑った。でも、Xじゃなかった」
ミオは黙って聞いていた。
ユウキ:「今度は、ちゃんと考えたい。誰かが何かを隠してるように見えても、それだけで決めつけたくない」
ミオ:「……うん」
彼女は、そっと俺の手を握った。
ミオ:「ユウキらしいね」
俺は握り返した。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の記録をまとめた。
『神崎ユウキ:04班参加を本人記録で確認』
『水瀬ナナ:04班参加を本人記録で確認』
『ナナの記憶:水瀬真紀に品物を預け、何度も交付を尋ねた子どもがいた可能性』
『未交付品との同一性は未確認』
そして、最後に書いた。
『第2回X投票まで、あと13日』
俺はペンを置いた。
12年前の真相を調べる時間と、Xを選ぶための時間。
この島では、その2つが同時に進んでいる。
俺たちは、過去を知るために協力しなければならない。
それなのに、13日後には、また互いを疑わなければならない。
俺は窓の外を見た。
夜の海は、静かだった。
その静けさが、今は少しだけ不気味に感じられた。
第1章 第53話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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