第1章 第52話「13人の記憶」
DAY46。
朝、俺は食堂の掲示板に1枚の紙を貼った。
『12年前の青風について、覚えていることを聞かせてください』
その下に、小さく書き添える。
『話したくないことは、話さなくて構いません』
昨日、記録保管室で分かったことがある。
この島の参加者13人全員に、青風関連の記録が存在する。
だが、記録の種類はそれぞれ違っていた。
俺たちは同じ事件につながっていても、同じものを見たわけではない。
だからこそ、本人の言葉を聞きたかった。
レン:「おっ、ユウキ。ついに相談所を開業したのか?」
ユウキ:「違うよ」
レン:「恋愛相談も受け付けてる?」
ユウキ:「受け付けてない」
レン:「じゃあ、ミオちゃんとの進展について俺が相談を――」
ユウキ:「それは俺の相談だろ!」
食堂に笑いが起きた。
少し離れた席で、ミオが耳を赤くしていた。
◇
朝食後、最初に声をかけてくれたのはハルカだった。
ハルカ:「私、少しなら覚えてるよ」
俺たちは食堂の隅に座った。
記録を取る前に、俺は確認する。
ユウキ:「ノートに書いてもいい?」
ハルカ:「うん。ただ、曖昧なところは曖昧って書いてね」
俺は頷いた。
ハルカ:「青風には、お母さんと一緒に何度か行ったの。交流会にも参加したと思う」
ユウキ:「どんな場所だった?」
ハルカ:「子どもが遊べる部屋があって、大人が相談する部屋もあった。私は子どもの部屋で待ってた」
ハルカは少し懐かしそうに笑う。
ハルカ:「帰るとき、お菓子を持たせてもらったのを覚えてる」
ユウキ:「何のお菓子?」
ハルカ:「そこだけ妙にはっきりしてる。小さな動物の形のビスケット」
俺も思わず笑った。
事件の資料には残らないような、ごく普通の思い出だった。
ハルカ:「ニュースになったとき、驚いたよ。私にとっては、怖い場所じゃなかったから」
俺はその言葉をノートに書いた。
青風は、1億円が消えた事件の舞台である前に、誰かが安心して過ごした場所だった。
◇
次に話してくれたのは、カイトだった。
中庭のベンチに座ると、彼は腕を組んだ。
カイト:「俺は細かいこと、ほとんど覚えてねえぞ」
ユウキ:「覚えてる範囲でいい」
カイト:「親父が、青風の建物の修理を手伝ってた」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「修理?」
カイト:「大工仕事みたいなやつ。俺も一度ついていった。廊下で待ってたら、子どもが遊んでる声が聞こえた」
カイトは少し考える。
カイト:「青い部屋って呼ばれてたかどうかは分かんねえ。ただ、青い色の扉は見た気がする」
俺は慎重に書いた。
『青い扉の記憶あり。青い部屋と同一か未確認』
カイト:「お前、そこまで細かく書くのか」
ユウキ:「後で思い込みと混ざると困るから」
カイト:「なるほどな。俺なら『青かった。以上』で終わる」
ユウキ:「それもある意味、正確だな」
カイトは豪快に笑った。
◇
午前11時。
アカリとヒナが、2人でやって来た。
アカリ:「私も青風のイベントに行ったことある!」
ヒナ:「私は写真を撮ってもらった記憶があるよ」
俺たちは談話室へ移動した。
アカリ:「歌を歌ったの。みんなで!」
ユウキ:「交流会で?」
アカリ:「たぶん。ステージっていうほどじゃないけど、前に出て歌った気がする」
ヒナ:「私、カメラを向けられると変な顔してたらしい」
アカリ:「今もするじゃん」
ヒナ:「今のは技術!」
2人のやり取りに笑いながら、俺は話を整理した。
アカリは歌の記憶。
ヒナは写真を撮られた記憶。
ただし、どちらも04班の交流会だったかは分からない。
ヒナがふと思い出したように言った。
ヒナ:「そういえば、写真って撮ったあと、すぐもらえるものばかりじゃなかったよね」
ユウキ:「どういうこと?」
ヒナ:「昔の写真だから、あとで配ってた気がする。私の家にも、しばらくしてから届いた写真があったんだ」
俺はペンを止めた。
後日配布。
未交付写真の記録とも関係しそうな話だった。
ユウキ:「その写真、今も持ってる?」
ヒナ:「家にはあるかもしれない。でも島には持ってきてないよ」
俺は頷いた。
写真が存在する可能性と、今ここで確認できることは別だ。
◇
昼食後、俺はソウタとシオンに話を聞いた。
2人は最初から、俺のノートを見ていた。
ソウタ:「聞き取りをするなら、記憶と資料を分けた方がいい」
ユウキ:「そのつもりだよ」
シオン:「あと、誰かの話を聞いてから思い出したことも、そう記録しておこう」
俺は頷いた。
2人の記憶は、青風の施設そのものよりも、家族の話に近かった。
ソウタ:「親が基金の話をしていたのは覚えてる。けど、何を言ってたかまでは分からない」
シオン:「僕も似てる。事件が報道されたあと、大人たちが資料を見ながら話していた記憶がある」
ユウキ:「その資料が何だったかは?」
シオン:「覚えてない。今の知識で勝手に会計資料だったと思い込まないようにしたい」
俺はその言葉を、そのまま書いた。
12年前の記憶は、現在の知識によって形を変えてしまうことがある。
だから、分からないことを分からないまま残す必要があった。
◇
午後2時。
レイは、俺の呼びかけに応じて管理棟の前へ来た。
レイ:「僕の話なら、前にもしたけど」
ユウキ:「今日は青風との関係を、最初から整理したいんだ」
彼は少し考えてから頷いた。
レイ:「親族が青風の記録整理に関わっていた。僕は家で、その人が持っていた写真の複製を見たことがある」
ユウキ:「裏に俺の名前があった写真?」
レイ:「そう。もう1人の名前もあったと思う。でも、思い出せない」
以前と同じ説明だった。
俺は確認する。
ユウキ:「その写真がP-004やP-006と同じものかは?」
レイ:「分からない」
ユウキ:「島に持ってきた?」
レイ:「持ってきてない」
レイは俺のノートを見た。
レイ:「……疑ってる?」
ユウキ:「確認してる」
彼は一瞬黙り、それから小さく笑った。
レイ:「その答え、前よりいいね」
俺も少し笑った。
第1回投票で、俺たちは彼をXだと疑った。
判定結果は、Xではない。
それでも、彼が知っている過去まで消えたわけではない。
◇
午後3時。
リナが、自分の記憶を話してくれた。
リナ:「私の父も、青風に関係していた」
俺は頷いた。
それは以前から分かっていたことだ。
リナ:「でも、子どもの頃の私は、父が何をしていたのか理解してなかった。家で書類を見ていたことは覚えてるけど」
ユウキ:「青風の書類?」
リナ:「そう聞いた記憶はある。ただ、どの資料だったかは分からない」
彼女は少し目を伏せた。
リナ:「父のことだから、私が何か知っているはずだって思われるのは怖い。でも、分からないものは分からない」
ユウキ:「うん。それでいいと思う」
俺はノートに書いた。
『父親の関与あり。具体的な職務・資料内容は本人の記憶からは未確認』
リナは、その記述を見て頷いた。
◇
午後4時。
残る聞き取りの前に、俺は一度ノートを見直した。
ハルカ、カイト、アカリ、ヒナ、ソウタ、シオン、レイ、リナ。
それぞれが違う青風を覚えている。
施設で過ごした記憶。
家族に連れられて行った記憶。
写真。
書類。
事件のあと、大人たちが話していたこと。
俺は、自分の欄に目を落とした。
『神崎ユウキ』
『交流会参加。青い部屋。写真。手紙。父・神崎直人』
そして、もう1つ。
『青い飾りを身につけた少女との約束』
俺は、その行をしばらく見つめた。
誰だったのだろう。
何を約束したのだろう。
俺はまだ、思い出せない。
◇
夕方。
ミオと並んで海沿いを歩いた。
ユウキ:「今日は、みんなの話を聞けてよかった」
ミオ:「うん」
ユウキ:「同じ場所の話なのに、覚えてることが全然違うんだな」
ミオは海を見つめた。
ミオ:「大事だったことも、人によって違うからね」
俺は頷いた。
ユウキ:「ミオは? 青風のことで覚えてること、聞いてもいい?」
彼女は俺を見た。
ミオ:「いいよ」
俺は足を止めた。
ミオは少し考えてから、ゆっくり話し始めた。
ミオ:「青風には、安心できる場所があったの」
ユウキ:「青い部屋?」
ミオ:「そこも、そうだったと思う」
彼女は小さく笑った。
ミオ:「子どもたちが遊んでいて、大人の人が見ていてくれた。嫌なことがあっても、少しだけ忘れられる場所だった」
俺は黙って聞いた。
ミオ:「でも、ずっとそこにいられるわけじゃなかった」
その言葉に、胸が少し痛んだ。
ユウキ:「……そっか」
ミオ:「うん」
彼女はそれ以上、何も言わなかった。
俺も、無理に聞かなかった。
話してくれたことだけを、大切にしたかった。
◇
夕食後。
談話室には、ナナとセナが残っていた。
俺が声をかけると、2人は頷いてくれた。
セナ:「私も青風には行ったことがあるよ。家族の用事で」
ユウキ:「覚えてることは?」
セナ:「誰かが泣いていたこと。職員の人が、急がなくていいよって言っていたこと」
彼女は少し考える。
セナ:「でも、それが交流会の日だったかは分からない」
俺は頷いた。
ナナは、自分の手元を見つめていた。
ナナ:「私、お母さんが青風で働いてたから、何度も行ってた」
ユウキ:「うん」
ナナ:「でも、みんなと同じように遊んでた日もあれば、お母さんを待ってただけの日もあったと思う」
彼女は少しだけ顔を上げた。
ナナ:「だから、どの記憶が交流会の日なのか、混ざってるかもしれない」
ユウキ:「分かった。そこは分けて書くよ」
ナナは頷いた。
そのあと、彼女は何かを言いかけて、口を閉じた。
ユウキ:「どうした?」
ナナ:「……ううん。まだ、ちゃんと思い出せてないから」
俺はそれ以上聞かなかった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の聞き取りを整理した。
13人全員が青風に関係している。
だが、覚えていることも、関わり方も違う。
そして、誰もがすべてを知っているわけではない。
俺はノートの最後に書いた。
『記憶は証拠ではない。だが、証拠を探す手がかりになる』
明日は、今日の話と記録を照らし合わせよう。
そのとき、端末が震えた。
通知は、記録保管室の閲覧申請に関するものだった。
『追加閲覧申請の受付を開始しました』
『対象資料:参加者本人に関する青風関連記録』
俺は画面を見つめた。
本人の記録。
それなら、ナナも自分の過去を確認できるかもしれない。
俺はノートを閉じた。
12年前の記憶を、誰かの推測だけで決めつけたくない。
明日、もう一度資料を確かめよう。
第1章 第52話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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