第1章 第51話「区画Bの13人」
DAY45。
午前9時42分。
管理棟の前には、俺を含めて7人が集まっていた。
ミオ、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、ヒナ。そして俺。
昨日申請した記録保管室・区画Bへの入室が、条件付きで許可されたのだ。
指定時刻は午前10時。
俺は端末に表示された許可通知を、もう一度確認した。
『閲覧可能な資料は指定範囲に限ります』
『参加者本人の確認を行います』
12年前の写真や手紙が、ここにあるとは限らない。
それでも、資料閲覧システムの外にある記録を調べられるのは初めてだった。
ヒナ:「なんか緊張するね。宝探しみたい」
ソウタ:「宝の代わりに古い書類が出てくるけどな」
ヒナ:「夢のない宝探し!」
ミオが小さく笑う。
俺は彼女の隣に立った。
ユウキ:「準備はいい?」
ミオ:「うん。一緒に行こう」
◇
午前10時。
管理棟の受付端末に許可通知をかざすと、画面が切り替わった。
『入室申請者:神崎ユウキ』
『同行者:6名』
『本人確認を開始します』
俺たちは順番に参加者カードを読み取り機へ通した。
最後にヒナの確認が終わると、端末に案内が表示された。
『区画B・閲覧室への入室を許可します』
『保管棚への直接立入りは禁止されています』
『指定資料は閲覧室内の端末から請求してください』
俺は画面を見て頷いた。
保管室の中を自由に歩き回れるわけではない。
許可されたのは、区画Bに併設された閲覧室だった。
管理棟の裏手へ回ると、昨日ヒナが撮影した扉が見えた。
『記録保管 区画B』
その横の小さなランプが、赤から緑へ変わる。
扉が静かに開いた。
◇
中は、想像していたより明るかった。
細長い閲覧室に、机が3つ。
壁際には端末が並び、奥にはもう1枚、鍵の掛かった扉がある。
その先が保管棚なのだろう。
ヒナ:「もっとこう、蜘蛛の巣だらけの秘密倉庫を想像してた」
ソウタ:「紙資料に湿気と埃は大敵だ」
ヒナ:「分かってるけど、雰囲気ってものがあるじゃん!」
俺は少し笑ってから、中央の端末に向かった。
画面には、閲覧できる資料の分類が表示されていた。
『参加者関連資料』
『青風関連資料』
『閲覧制限資料』
俺の指が止まる。
ユウキ:「……青風」
ミオが隣から画面を見た。
ミオ:「あったね」
俺は頷いた。
ここには、確かに青風に関する資料がある。
◇
午前10時18分。
青風関連資料を開くと、最初に注意事項が表示された。
『本資料群には、児童の個人情報および保護上の事情に関する記録が含まれます』
『公開範囲外の氏名・移動先・連絡先は閲覧できません』
『閲覧した情報の無断複製・持出しは禁止されています』
俺たちは内容を確認し、同意した。
続いて表示されたのは、資料群の目録だった。
『青風こども生活支援センター』
『青風未来基金』
『交流会記録』
『閉鎖時引継ぎ記録』
『関係者証言記録』
俺は息をのんだ。
これまで資料閲覧室で探してきたものが、同じ目録の中に並んでいる。
シオンが隣の端末を操作する。
シオン:「ここでは、資料の現物があるかどうかも確認できるみたいだ」
リナ:「閲覧できる内容と、現物の保管状況は別なんだね」
俺は頷いた。
見られない資料でも、存在していることは分かる。
それだけで、調査の進め方が変わる。
◇
午前10時35分。
俺たちは04班の資料を検索した。
表示されたのは、これまで見つけた記録の一覧だった。
『P-004 04班集合写真・保管分』
『P-006 04班配布用写真・照合控え』
『04班 未交付品引継記録』
『04班 外装・内容物対応照合表』
俺は画面に顔を近づけた。
ユウキ:「P-006もある……!」
写真そのものは閲覧制限が掛かっている。
だが、保管状況の欄には、こう表示されていた。
『原資料:保管中』
『閲覧用複製:一部作成済み』
P-006の原資料は、少なくとも廃棄されていなかった。
ミオが静かに言う。
ミオ:「写真が残ってるって分かったね」
ユウキ:「うん。あとは、どうすれば見られるかだ」
俺は閲覧条件を確認した。
『受取予定者の本人確認、または所定の閲覧審査が必要』
本人が誰なのか分からない以上、すぐには進めない。
俺は、その条件をノートに書いた。
◇
午前11時。
ナナが、別の資料を見つけた。
ナナ:「ユウキくん。これ、見て」
画面に表示されていたのは、青風の交流会参加記録だった。
『交流会参加児童・照合用目録』
氏名の欄は非公開。
代わりに、登録件数だけが表示されている。
『対象児童:13名』
俺は思わず画面を見つめた。
ユウキ:「13人……?」
この島の参加者も13人。
だが、人数が同じというだけでは、同一人物とは言えない。
シオンもそれに気づいたようだった。
シオン:「まだ偶然の可能性はある。照合の根拠を探そう」
俺たちは目録の説明欄を開いた。
『本目録は、現在の参加者に関係する青風記録を抽出したものです』
その一文を読んだ瞬間、背筋が冷たくなった。
現在の参加者。
つまり、俺たちだ。
◇
午前11時15分。
画面には、13件の識別番号が並んでいた。
『参加者照合記録 01』
『参加者照合記録 02』
……
『参加者照合記録 13』
それぞれの詳細には、閲覧制限が掛かっている。
だが、共通する項目が1つあった。
『青風関連記録との照合:あり』
俺は言葉を失った。
13人全員に、青風との関係を示す記録がある。
これまで匿名メッセージや断片的な資料で示唆されていたことが、初めて目録の形で確認できた。
ナナ:「……みんな、関係してたんだ」
彼女の声は小さかった。
リナ:「ただし、関係の内容はまだ分からない。交流会への参加、家族の関与、別の記録との照合。いろいろ考えられる」
俺は頷いた。
13人が事件の関係者だからといって、13人が何か悪いことをしたわけではない。
当時、俺たちは8歳だった。
知らないうちに、大人たちの事情に巻き込まれていた可能性だってある。
◇
正午。
閲覧室を一度出て、管理棟の休憩スペースで昼食を取った。
俺はパンを持ったまま、ぼんやりしていた。
13人。
全員に、青風の記録がある。
招待状が届いたのは、偶然ではなかったのだろう。
ミオ:「ユウキ」
ユウキ:「ん?」
ミオ:「食べないの?」
ユウキ:「ああ、ごめん。ちょっと考えてた」
ミオは自分のパンを一口食べた。
ミオ:「午後も調べるなら、ちゃんと食べよう」
ユウキ:「そうだな」
俺はパンをかじった。
そのとき、ヒナが自分の昼食を見つめて叫んだ。
ヒナ:「あっ! デザート忘れた!」
ソウタ:「食堂に戻れば?」
ヒナ:「往復する時間が惜しい!」
レン:「呼んだ?」
いつの間にか休憩スペースに来ていたレンが、デザートを手に立っていた。
ヒナ:「なんでいるの!?」
レン:「デザートの気配を感じた」
ソウタ:「お前の能力、使い道が限定的すぎるだろ」
俺たちは思わず笑った。
張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。
◇
午後1時。
閲覧室に戻った俺たちは、13件の照合記録の公開項目を調べた。
氏名は表示されない。
ただし、記録の種類は確認できた。
『交流会参加記録』
『児童支援記録』
『施設利用記録』
『家族関係記録』
『閉鎖時引継ぎ記録』
同じ青風関連でも、記録の種類は異なっていた。
シオン:「全員が同じ立場で関わっていたわけじゃないんだね」
リナ:「少なくとも、そう考えるべきだと思う」
俺は頷いた。
この島の13人には、それぞれ違う過去がある。
誰かは交流会に参加していた。
誰かは家族を通じて関わっていた。
誰かは閉鎖時の出来事を覚えているのかもしれない。
俺たちは、同じ事件の別々の部分を持っている。
そう考えると、今までの証言が少し違って見えた。
◇
午後2時。
俺は、自分に関係する記録を探した。
参加者カードを読み取り機に通すと、本人に開示できる項目が表示された。
『神崎ユウキ』
『青風関連記録:あり』
『関係区分:児童本人・家族関係』
俺は画面を見つめた。
児童本人。
そして、家族関係。
父さんのことだろう。
さらに下には、関連資料の見出しが並んでいた。
『交流会参加記録』
『写真関連記録』
『青風未来基金・会計関連資料』
俺の指が止まった。
会計関連資料。
父・神崎直人が担当していた記録だ。
詳細を開こうとすると、画面に表示された。
『本資料は閲覧制限対象です』
『一部資料は、別途申請により閲覧可能です』
俺は息を吐いた。
今日、すべてが分かるわけではない。
だが、父に関する記録が、ここに存在する。
◇
午後3時。
ナナが俺のところへ来た。
ナナ:「ユウキくん。私の記録も見つかったよ」
ユウキ:「何か分かった?」
ナナ:「青風の交流会に参加してたって。あと、家族関係の記録もあるみたい」
彼女は少し迷ってから続けた。
ナナ:「お母さんのことだと思う」
俺は頷いた。
水瀬真紀。
未交付写真や手紙の引継ぎに関わっていた職員。
ナナ自身も、交流会に参加していた。
2つの立場で青風とつながっている。
ナナ:「私、まだ思い出せないことがあるんだ」
ユウキ:「うん」
ナナ:「でも、何か分かったら話すね」
ユウキ:「ありがとう」
ナナは小さく笑った。
その表情には、安心と不安が入り混じっていた。
◇
午後4時。
閲覧終了の案内が表示された。
『本日の閲覧可能時間は、まもなく終了します』
俺たちは資料を閉じ、机を片づけた。
今日分かったことは多い。
だが、最も知りたかった写真の受取予定者も、手紙の差出人も、まだ分からない。
俺は最後に、青風関連資料の目録を見た。
13件の照合記録。
そのすべてに、青風との関係がある。
このゲームに集められた理由が、少しずつ見えてきた。
◇
午後5時。
管理棟を出ると、夕方の風が頬を撫でた。
ミオが俺の隣を歩く。
ミオ:「今日は、13人全員の記録が見つかったね」
ユウキ:「うん。やっぱり、偶然集められたわけじゃないんだな」
俺は空を見上げた。
ユウキ:「でも、どうして俺たちなんだろう」
ミオは少し考えてから答えた。
ミオ:「それぞれが、違うことを覚えているからかもしれないね」
俺は彼女を見る。
ミオ:「1人では分からないことも、みんなで話せば見えてくることがあると思う」
その言葉が、胸に残った。
俺たちはこれまで、誰がXなのかを疑い合ってきた。
だが、12年前の出来事を知るには、互いの記憶が必要なのかもしれない。
◇
夕食後。
海の見えるベンチに座ると、ミオが俺の手を握った。
俺も、そっと握り返す。
ユウキ:「ミオ」
ミオ:「なに?」
ユウキ:「今日、父さんの資料があるって分かった」
ミオ:「うん」
ユウキ:「まだ読めなかったけど……少し怖いんだ」
俺は海を見つめた。
ユウキ:「父さんが本当に何をしたのか。知りたいのに、知るのが怖い」
ミオは、すぐには答えなかった。
やがて、静かに言った。
ミオ:「怖くても、知ろうとしてるんだね」
ユウキ:「……うん」
ミオ:「私は、ユウキが自分で確かめるのを応援したい」
俺は彼女を見た。
ミオは柔らかく笑っていた。
ユウキ:「ありがとう」
つないだ手が、少しだけ温かくなった気がした。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の調査結果をノートにまとめた。
『記録保管室・区画Bに青風関連資料あり』
『P-006の原資料は保管中』
『現在の参加者13人全員に、青風関連記録との照合あり』
『関係区分は参加者ごとに異なる』
『神崎ユウキの記録には、会計関連資料への参照あり』
俺は最後の1行を見つめた。
父さんの記録。
それを読めば、12年前の事件に近づける。
だが、その前に確かめたいことがあった。
この島にいる13人は、それぞれ青風とどう関わっていたのか。
そして、誰が何を覚えているのか。
俺はノートの新しいページを開いた。
そこに、13人の名前を書き始める。
神崎ユウキ。
白石ミオ。
水瀬ナナ。
藤堂シオン。
黒川ソウタ。
九条レイ。
堂島カイト。
一ノ瀬レン。
桜庭アカリ。
天宮リナ。
小鳥遊ヒナ。
橘ハルカ。
相沢セナ。
13人。
全員が、12年前の青風につながっている。
だが、そのつながりの意味は、まだ分からない。
俺はペンを置いた。
次は、1人ずつ話を聞こう。
このゲームの参加者としてではなく、12年前を知る人間として。
第1章 第51話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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