第1章 第50話「開かない保管室」
DAY44。
午前8時。
食堂の窓際で、ミオと並んで朝食を取っていた。
今日も、俺が淹れたお茶が2つ。
向かいではレンが、やけに真剣な顔で食パンを見つめている。
ユウキ:「どうした?」
レン:「このパン、昨日より薄くないか?」
ソウタ:「厚さは同じだ」
レン:「いや、俺の空腹がそう言ってる」
レイ:「それはパンの問題じゃないでしょ」
レンは納得していない顔でパンをかじった。
ミオが小さく笑う。
俺はお茶を飲みながら、今日の予定を確認した。
ユウキ:「管理棟の記録保管室、まずは利用記録を調べようと思う」
ミオ:「昨日ヒナが見つけたところだね」
ユウキ:「うん。12年前の資料があるとは限らないけど、確かめたい」
ミオ:「私も行くよ」
自然にそう言ってくれることが、嬉しかった。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、シオン、リナ、ソウタ、ヒナ、レイ、ナナが集まっていた。
ヒナが昨日撮影した写真を表示する。
管理棟裏手の小さな建物。
扉には『記録保管』の文字。
その横に、立入禁止の札が掛かっている。
ヒナ:「撮ったのは外からだけ。中には入ってないよ」
シオン:「ありがとう。まずは正式な用途を確認しよう」
リナが施設案内を開いた。
『記録保管室』
『保管対象:運営関連資料、設備記録、その他指定物』
『入室:管理者許可制』
昨日見た内容と同じだ。
俺たちは続けて、保管室の利用台帳を検索した。
すると、公開されている記録が見つかった。
『記録保管室・入退室管理簿』
ただし、閲覧できるのは日付と利用区分のみ。
利用者名や搬入物の詳細は伏せられていた。
◇
午前10時。
リナが利用台帳を日付順に並べた。
リナ:「DAY1から記録があるね」
俺は画面を見た。
『DAY1 設備点検』
『DAY3 資料搬入』
『DAY7 管理確認』
『DAY18 資料搬出』
俺の指が止まった。
ユウキ:「DAY3に資料搬入……」
DAY3。
あの日、俺たちは黒い封筒や14人目の人影について調べていた。
ヒナが撮影した写真には、管理棟付近を歩くレイも写っていた。
俺は隣のレイを見る。
ユウキ:「レイ。DAY3に管理棟の近くを歩いてたよな」
レイ:「うん。北の見晴らし台へ行く途中だった」
ユウキ:「この保管室には?」
レイ:「入ってないよ」
彼は即答した。
レイは第1回投票でXではないと判定されている。
だが、Xではないことと、12年前の資料について何も知らないことは別だ。
俺は利用台帳に視線を戻した。
入退室者の名前は公開されていない。
ここでレイの行動と結びつける証拠はなかった。
◇
午前11時。
シオンが、DAY3の搬入記録に関連する文書を見つけた。
『資料搬入申請書』
公開項目には、こう書かれていた。
『搬入区分:保管資料』
『搬入元:管理棟内』
『搬入先:記録保管室』
『搬入理由:保管場所の整理』
ユウキ:「島の外から持ち込まれた資料じゃないのか」
ソウタ:「少なくとも、この申請書では管理棟内からの移動になってる」
俺は頷いた。
12年前の写真が搬入されたと決めつけることはできない。
そもそも、この保管室が青風の資料を保管しているかどうかも、まだ分からない。
だが、資料の移動が行われていることは確かだった。
◇
正午。
昼食の時間。
俺はミオと並んで食堂へ向かった。
ミオ:「ユウキ、今日は少し考え込んでるね」
ユウキ:「保管室に何があるのか気になってさ」
ミオ:「入れない場所って、余計に気になるよね」
ユウキ:「そうなんだよ」
俺は少し笑った。
ユウキ:「でも、勝手に入ったら、それこそ何かを疑われそうだ」
ミオ:「うん。ちゃんと許可を取らないとね」
彼女は俺の隣で頷いた。
そのとき、レンが後ろから声をかけてきた。
レン:「保管室って、プリンも保管できる?」
ユウキ:「まだ言ってるのか!」
レン:「今度こそ安全な場所に置きたい」
レイ:「僕が食べないって約束すればいいでしょ」
レン:「信用していいのか?」
レイ:「……たぶん」
レン:「そこは断言しろ!」
ミオが笑った。
俺もつられて笑ってしまう。
◇
午後1時。
資料閲覧室へ戻った俺たちは、保管室の搬入物分類を調べ始めた。
利用台帳の詳細は非公開だったが、分類一覧は閲覧できた。
『設備関連』
『運営関連』
『参加者関連』
『その他指定資料』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「参加者関連……」
シオンが頷く。
シオン:「このゲームの参加者に関する資料が保管されている可能性はあるね」
リナ:「ただし、何が入っているかまでは分からない」
俺はノートに書き加えた。
『参加者関連資料の保管区分あり』
12年前の青風の資料。
俺たち13人の過去。
それらがこの保管室にある可能性は、少しだけ高まった。
◇
午後2時。
ヒナが、保管室の外観写真を拡大した。
ヒナ:「ねえ、これ見て」
扉の横。
立入禁止の札の下に、小さな金属プレートがあった。
『保管区画 B』
俺は画面を見た。
ユウキ:「B……?」
ソウタが首を傾げる。
ソウタ:「区画が複数あるってことか」
シオンが施設案内を調べる。
すると、記録保管室の区画構成が見つかった。
『区画A:設備・運営関連』
『区画B:参加者関連・指定資料』
俺は息をのんだ。
ヒナが撮影した扉は、区画Bの入口だった。
参加者関連資料。
その言葉が、急に現実味を帯びてくる。
◇
午後3時。
俺たちは、管理棟の受付端末から保管室の見学申請ができるか調べた。
結果は――
『記録保管室への入室申請』
『申請対象:参加者』
『申請理由の記入が必要』
『許可の可否は管理規程に基づき判断』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「申請できるんだ……!」
シオンが頷く。
シオン:「ただし、許可されるとは限らない。閲覧できる資料にも制限があるはずだ」
俺たちは相談し、申請理由を整理した。
『参加者自身に関係する過去資料の保管状況を確認したい』
『閲覧可能な資料の範囲を知りたい』
勝手に入るのではなく、正式な手続きを取る。
それが、今できる最も確実な方法だった。
◇
午後4時。
俺が申請を送信すると、端末に受付番号が表示された。
『入室申請を受け付けました』
『審査中』
俺は静かに息を吐いた。
ユウキ:「これで、返事待ちか」
ミオ:「うん」
彼女は俺の隣で画面を見つめていた。
俺は少しだけ緊張していた。
もし許可されたら、何が分かるのだろう。
12年前の写真。
未交付の手紙。
青風未来基金の記録。
あるいは、まったく別のものかもしれない。
期待しすぎないようにしながらも、胸が高鳴っていた。
◇
午後5時。
調査を終え、俺はミオと中庭を歩いていた。
夕方の空は、淡い橙色に染まっている。
ミオ:「ユウキ、今日の申請、通るといいね」
ユウキ:「うん。でも、もし駄目でも別の方法を探すよ」
俺は少し考えてから続けた。
ユウキ:「12年前のこと、知りたいんだ。父さんのことも、青風のことも」
ミオは静かに頷いた。
ミオ:「……うん」
俺は彼女を見た。
ユウキ:「ミオは、俺が調べるのを手伝ってくれてるけど、何か知りたいことはある?」
彼女は少しだけ考えた。
ミオ:「あるよ」
ユウキ:「何?」
ミオ:「あの日、何があったのか。ちゃんと知りたい」
その答えは、俺と同じだった。
俺は頷いた。
ユウキ:「じゃあ、一緒に調べよう」
ミオ:「うん」
彼女は柔らかく笑った。
◇
午後6時。
夕食後、俺たちは海の見えるベンチに座った。
ミオが俺の隣に座る。
今日は、俺から手を差し出した。
彼女は少しだけ驚いたあと、そっと握り返してくれた。
海から吹く風が、頬を撫でる。
ユウキ:「……こうしてると、落ち着くな」
ミオ:「私も」
しばらく、2人で海を眺めた。
俺は、ふと気になって尋ねた。
ユウキ:「ミオは、この島を出たら何がしたい?」
彼女は少し考えた。
ミオ:「普通のことがしたいな」
ユウキ:「普通のこと?」
ミオ:「好きな人と、ごはんを食べたり。散歩したり」
俺は思わず彼女を見た。
ミオは海を見つめていた。
その横顔は、少しだけ照れているようにも見えた。
ユウキ:「……いいな、それ」
ミオ:「うん」
つないだ手が、少しだけ強く握られた。
俺も、そっと握り返した。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の調査結果を整理した。
『記録保管室・区画Bは参加者関連資料の保管区画』
『DAY3に資料搬入記録あり』
『搬入元:管理棟内』
『入室申請:審査中』
俺はノートを閉じた。
12年前の写真と手紙が、ここにあるとはまだ分からない。
だが、調べる道は見つかった。
そのとき、端末が震えた。
『入室申請に関する通知』
俺は画面を開いた。
『申請番号:受付済み』
『審査結果:条件付き許可』
心臓が跳ねた。
続く文章を読む。
『記録保管室・区画Bへの入室を許可します』
『ただし、閲覧可能な資料は指定範囲に限ります』
『入室可能日時:DAY45 午前10時』
俺は画面を見つめた。
明日。
ついに、記録保管室へ入れる。
さらに、最後の一文が表示された。
『入室時は、参加者本人の確認を行います』
俺は静かに息を吐いた。
明日、何が見つかるのか。
まだ分からない。
だが、12年前の約束に近づくための扉が、ようやく開こうとしていた。
第1章 第50話 完
第41〜50話 あらすじ・重要事項まとめ
あらすじ
ユウキたちは、12年前の青風の交流会で渡されなかった写真と手紙の行方を追う。04班の紙製保管袋は、青い部屋から事務室へ移され、写真関連と書簡関連に分けて登録されていた。
調査の結果、交流会終了前に予定を変更して移動した子どもがおり、その頃に未交付品が発生したことが判明。写真は返却待機保管へ、手紙は事務室で継続保管されていた。
さらに、写真の所在照会は児童保護上の理由で保留され、返却できるか少なくとも2回確認されていたことが分かる。
その後、ヒナが管理棟裏手の記録保管室を発見。ユウキが入室を申請した結果、DAY45午前10時から区画Bへの条件付き入室が許可される。
判明した重要事項
- 未交付の経緯: 04班の子ども1人が交流会終了前に移動。未交付品発生との関係が記録で確認された。
- 預かり記録: 水瀬真紀が子どもから紙製品を直接預かった記録がある。職員間引継ぎとの対応関係は未確定。
- 番号訂正: 紙製保管袋は外装単位から内容物ごとの登録へ変更。旧番号は保存されている。
- 保管先: 写真関連の未交付分は返却待機保管、書簡関連は事務室継続保管。
- 所在照会保留: 申請者は水瀬真紀、承認者は早川恵子。理由区分は「児童保護上の配慮」。
- ナナの記憶: 隣にいた子が母親へ何かを預けた可能性がある。ただし、相手の名前や品物は思い出せていない。
- 新たな調査先: 管理棟の記録保管室・区画Bには参加者関連資料が保管される。DAY3に資料搬入記録あり。
未解決事項: 写真と手紙の差出人・受取予定者、紙製保管袋との正確な対応関係、所在照会を保留した具体的事情、記録保管室の収蔵内容。
恋愛面: ユウキとミオは毎朝一緒にお茶を飲むようになり、海辺で自然に手をつなぐ関係へ進展した。




